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Method Of Defiance『Inamorata』

先月、Twitterを見ていたら音楽プロデューサー/ミュージシャンのBill Laswellが大変な状況に陥っており、ドネーションを募っているのを知った。パンデミックによってライブ活動が出来なくなってしまい収入の大半を失い、マンハッタンの自宅を追い出され、スタジオを維持するのに苦労されているとのことであった。

詳しくは以下のサイトにて詳細が記載されている。もし、余裕があればドネーションを検討して頂きたい。

Bill Laswellが音楽業界にとって、どれだけ大きな貢献をされてきたのかを端的に説明することは出来ない。ジャズ、ヒップホップ、ダブ、グラインドコア、ドラムンベース、その他にも様々なジャンルに多大な影響を与えており、Bill Laswellがいなければ存在しないバンドやレーベル、ジャンルは少なくないだろう。

自分がBill Laswellを知ったのはアブストラクト・ヒップホップ/イルビエントにのめり込んでいた10代前半の頃。Sensational、Dr. Israel、Spectre(The Ill Saint)が在籍していた伝説的なレーベルWordSoundを通じてだった。そこから少し後になって、Herbie Hancockの「Rockit」をプロデュースした人物であることを知り、Crazy Wisdom Masters(Jungle Brothers)『The Payback EP』の製作にも携わっていたのが解ってから、Bill Laswellは重要視すべきプロデューサーという認識になっていた。


その後、トラウマ級の感動を与えてくれたMick Harris、John Zornとのジャズコア・バンドPainkillerの1stアルバム『Guts of a Virgin』やInvisible Scratch Picklesの面々を交えたPraxisでの活動などを掘り下げていき、Bill Laswellのジャンルとその裏にある文化を混ぜ合わせて新しい音楽を生み出す手法と考えに大きな影響を受けた。確実に今の自分の音楽観の重要な部分をBill Laswellは作ってくれていると思う。

個人的なBill Laswellの名盤を挙げればキリがないのだが、どうしてもこのタイミングで聴いて貰いたいアルバムが一枚ある。

それは、2007年にOhm Resistanceから発表されたMethod Of Defianceの2ndアルバム『Inamorata』である。今作は、以前からBill Laswellが進めていたドラムンベースとジャズの融合を理想的な形で実現させた両ジャンルにとって非常に重要なアルバムといえる。
ジャズ・シーンからPharoah Sanders、Herbie Hancock、近藤等則、John Zorn、Pete Cosey、Craig Taborn、Graham Haynes他、ドラムンベースからはParadox、SPL、Amit、Black Sun Empire、Evil Intent、Submerged、Corrupt Souls、DStar他、さらに奇才ギタリストBucketheadも参加しており、アレンジとプロデュースをBill Laswellが担当。

注目すべきはドラムンベースの中でもハード・ドラムンベースに分類されるダークでアグレッシブなスタイルを今作ではメインとしており、スカルステップ的なアーメン・ブレイクの殴打や地ならしのようなベースと共に、凄腕ジャズ・ミュージシャン達が各楽器で色付けをしていっている。ジャズとドラムンベースを軸としているが、ベース・ギターのアプローチはダブ的で包み込むようなゆったりとしたグルーブがあり、グラインドコア的なブルータリティも感じさせる部分がある。

元々、Method Of DefianceはBill Laswell、Robert Soares、Submergedによって始まったバンド。2006年にSublight Recordsからアルバム『The Only Way To Go Is Down』を発表している。『The Only Way To Go Is Down』にはEnd.User、近藤等則などが参加しており、当初からジャズとドラムンベースの融合を押し進めていた。
過去にOhm Resistanceのレーベル・オーナーであるSubmergedにインタビューをさせて貰った時にMethod Of Defianceが始まった経緯を語ってくれていいる。

2003年にRobert Soaresというディレクター(Lambadaを発掘した人物でもある)がOhm Resistanceのドラムンベース音源を聴いた時に、僕がニューヨークに引っ越したという噂を聞いたらしい。で、彼がBill Laswellにその話をして、Billは僕を家に呼んだ。僕にとって、ブルックリンという生まれた場所に戻った事も、Billみたいなミュージシャンと仕事を始める事もどっちも素晴らしかった。そして2003年に "Brutal Calling"を一緒に作ってリリースした。
Method of Defianceは最初にレコーディングしたBrutal Callingが発端になった。その後、Sublight (RIP)が僕らの音源をレコーディングすることになって、それが最初のMethod of Defianceの正式なレコーディングで、「The Only Way to go is Down」を録った。この時、近藤等則とGuy Licataが参加した。Guyは僕がBillに紹介したんだけど、彼は今までに一緒にプレイしたドラマーの中で一番良いんだ。Method of Defiance vs. Painkillerっていう形で5、6回一緒にライブしたよ。(Submerged)

SubmergdとBill Laswellは2004年に『Brutal Calling』と2014年に『After Such Knowledge, What Forgiveness?』という共作アルバムを発表。他にも共作12"レコードをリリースしている。
SubmergedはアンダーグラウンドのUSドラムンベース・シーンとの強い繋がりがある為、その影響がBill Laswellにも及び『Inamorata』が出来上がったのだと思われる。

また、『Inamorata』が発表された2007年前後はFreak Recordings/Obscene Recordings、Lost Soul Recordings、L/B Recordings、Barcode Recordingsといったレーベルからスカルステップ/ハード・ドラムンベースの傑作が立て続けに生まれ、それらのスタイルはトラディショナルなドラムンベースへのカウンターとして注目が集まり、新しいムーブメントになりつつあった。『Inamorata』に参加しているSPLやEvil Intentはスカルステップ/ハード・ドラムンベースを牽引するような役割を果たし、前年にAmitが名盤デビューアルバム『Never Ending』で、スカルステップ/ハード・ドラムンベースと共鳴するハーフステップを開拓していたのも見逃せない。

『Inamorata』は革新的な曲が多数収録されており、どの曲も興味深い。

Amitのダビーなハーフステップに近藤等則のドリーミーなトランペットとBucketheadの稲妻のようなギターが重なり合う「Babylon Decoder」、 SPLとJohn Zorn/Masada String Trioという狂気の面子によるサディスティックな「Aibi Virus」の2曲はMethod Of Defianceというプロジェクトだからこそ実現したはず。

スカルステップ/ハード・ドラムンベースの歴史を振り返る時、『Inamorata』も重要な作品として語られるべきだろう。アグレッシブなダンスミュージックを求めている方は是非チェックして欲しいアルバムだ。





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