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Shizuo再考

Atari Teenage RiotのAlec Empire 、Killout TrashのJoel Amaretto、On-U SoundやSavers of Paradiseのマネージメントを務めていた弁護士のPeter Lawtonによって1994年1月にイギリスで設立されたDigital Hardcore RecordingsはパンクとRaveを複合させたアナキズムを元に、ジャングル、ヒップホップ、ノイズ、ハードコア・テクノ、インダストリアルを混ぜこぜにしたデジタルハードコアというスタイルを提唱し、多くの人々の意識を変えた。

Digital Hardcore Recordings(以降DHR)にはAlec Empire、Atari Teenage Riot、EC8OR、Christoph De Babalon、Bomb20、Fever、16-17、Patric Catani、Sonic Subjunkiesといった超個性的なアーティストが参加しており、サブレーベルのGeist RecordsやMidi Warからのリリースも含め数々の名盤を発表している。
DHRのアーティスト達はデジタルハードコアのサウンドと概念を世界に定着させ、様々なジャンルに影響を及ぼした。数十年の時を経て、Kahn & Neekといった次世代アーティストのDJミックスにDHRのレコードが使われ、一部の作品はリマスター版が再発されて再評価を受けている。

DHRには幾つもの功績があるが、Shizuoという生粋の電子パンク・アーティストを世界に知らしめたことも大きい。
デジタルハードコアという広い枠の中でも納まりきらず、異端者揃いのDHRの中でも異端中の異端であったShizuo。曲の構成、音質、技術など、そういった類のものをまったく気にしない圧倒的な人間性によって生み出されたアナキズムの塊のような曲は最もデジタルハードコアであった。
Shizuoが残した作品は決して多くはないが、その全てが唯一無二であり、未だカルト的な人気を集め続けている。

ShizuoことDavid Hammerは1973年8月14日にドイツで生まれる。90年代前半にAtari Teenage Riotのエンジニアを務めており(『Kids Are United!』のシングルにDavid Hammerのクレジットがある)、Alec Empire率いるBass Terrorの一員として活動をしていた。

1995年にMidi Warからカセット・アルバム『Disko Punk』をリリースし、DHR初のコンピレーション『Harder Than The Rest』にも参加。1996年にはBeastie BoysのレーベルGrand RoyalとDHRの共同リリースにて7"レコード『Sweat / Stop It』を発表。音が割れまくっていながらもファンク感のあるブーストしたアーメン・ブレイクとベースが印象的な「Sweat」はShizuoの代表曲としてファンから愛されている。パンクとジャングルがねじ曲がりながら陶酔していくような「Sweat」は、Shizuoそのものを表しているようだ。この世に存在する音割れ音楽の中でも、「Sweat」のインパクトは特別なものがあり、今後も色あせないだろう。

1997年1月に新宿リキッドルームにAtari Teenage Riotと共に来日。1999年にはDHRのジャパン・ツアーに、2000年はEC8ORとROM=PARIと共にツアーを行っている。

Shizuo ‎– Sweat / Stop It
Shizuo ‎– Sweat / Stop It

1997年にDHRから名盤『High On Emotion EP』を発表。前半はオリジナル曲、後半は1996年のDHR Festivalでのライブ録音が収録。LPとCDで内容が若干違い、CDにはShizuoによるコミックが載っていた。

前半にはDJ Scudとのコラボレーション「Concrete Jungle」と「Horny」(LPのみ)が収録。この2曲は1995年の夏に製作されていたとのこと。
1997年に出版されたフランスのZine『Resonance』でのScudのインタビューによると、Shizuoがロンドンに住んでいた頃のある晩、彼がドラッグを探していた時、Scudからエクスタシーを買ったのが出会いだったという。当時のShizuoはLSDを接種して暴れたり、ドラッグ・ディーラーから逃げていたりとかなりの破天荒な人物であったみたいだ。ShizuoとScudは2000年までに幾つかのコラボレーションを行っているが、どれも良作ばかりである。

『High On Emotion EP』に関しては、やはり後半のライブ音源が素晴らしい。アヴァンギャルド過ぎてスタイリッシュさがある超ストレンジな「Anarchy」や「Punk」などをディストーションやノイズを塗しながらプレイしている。Shizuoの気怠そうなMCと観客のリアクションも最高だ。

1997年に出版されたアメリカのZine『Skreem』でのインタビューでShizuoは、どのような感情を呼び起こす音楽でありたいかと聞かれ、「暴力。暴力的なSEXとか。」と答えていたが、『High On Emotion EP』にはそういった部分を刺激するアトモスフィアが漂っている。現在CD版がサブスクで配信中。

Shizuo - High On Emotion EP

1997年にShizuoはAnnika Trost(Cobra Killer)とPharoah ChromiumやPharoah Chromiumとして活動しているGhazi Barakatと結成したGive UpのEP『Give Up』をAmbushから発表。今作は初期ブレイクコア・ファンからは特に支持が高い。
同年に行われたDHRのアメリカ・ツアーでGive UPは解散してしまい、以降はShizuoのソロプロジェクトになり、『New Kick EP』と『Fuck Step '98』という作品を残す。この二作も現在サブスクで配信中。

同じく、1997年にShizuoの1stアルバムにして唯一のアルバムとなった『Shizuo Vs. Shizor』をDHRから発表。1994年から1997年までにケルン、ベルリン、ロンドンで作られた曲が収められており、The Cramps「New Kind Of Kick」とBlondie「Heart Of Glass」のカバーも収録。Atari Teenage RiotのCarl CrackやDJ Scudも参加している。
曲、アートワーク、インナーのコミックにShizuoのコアな世界観がギッシリと詰め込まれており、この1枚で彼の魅力を存分に味わえる。DHRのカタログにおいて最も重要な作品の一つであり、デジタルハードコアとブレイクコアの歴史において絶対に欠かすことの出来ないアルバムだ。

その後は日本のZK Recordsのリミックス・コンピレーションやカヒミカリィのリミックス・アルバムに参加。2000年に自主レーベルShizuo Recから7"レコード『Shizuo No I』を発表。以前よりも纏まりのある曲調となっており、Shizuoの新境地を感じさせるが、今作がShizuoとして最後の作品となってしまった。
2000年代はThe Nothingsというバンドでギタリストとして活動をしていたそうで作品を一つ残している。そして、残念ながら2011年5月15日にShizuoは亡くなってしまう。

The Nothings

Shizuoの死後から7年後の2018年にアメリカのDirgefunk Recordsから、Give Upの未発表曲を収録した『SHIZUO No II』が発表される。収録されている曲は、Shizuo Recからリリース予定だったというコンピレーションの為に作られた曲であったらしい。221枚のみの限定レコードにはGive Upのステッカー、DJ ScudとDirgefunk RecordsのChristopher Jionが執筆したライナーノーツが封入。Scudのライナーノーツはファン必読である。

電子音楽の歴史においてShizuoほどパンクな存在は稀で、彼の音楽はどれも本当に唯一無二だ。
DHRからリリースされた作品は現在サブスクで聴くことが可能であるので、興味を持った人は是非聴いてみて欲しい。CDに載っているShizuoのコミックも彼の音楽と同様にぶっ飛んだものなのでCDを見かけたら購入するのをオススメする。









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