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初めての障害者雇用 業務が集まるための工夫~総務からはじめる、障害者雇用ノウハウ~

はじめに(チームより)

フローレンスは、親子を取り巻く社会課題の解決を目指しているNPOで、現在、約700名が所属しています。多様なメンバーの「働く」を支えているのがバックオフィス業務を主に担っている働き方革命事業部、通称「ハタカク」です。
ハタカクは人事、経理、法務、総務、といった業務で構成されていて、障害者雇用チームも含まれています。フローレンスの事業を裏で支えるハタカクメンバーの業務や仕事への思いをnoteに投稿しています。

認定NPO法人フローレンスの総務関連チームで障害者雇用のスタッフのサポートを担当しているジョブコーチ*1の石橋です。
障害者雇用に関する知識も経験もなかった私が、6年前に障害者雇用担当となったときにどのような課題に悩んだのか、運営を継続する中で何を大切にしてきたのか、山あり谷ありの歩みやエピソードを、ご紹介していきます。

フローレンスの障害者雇用チーム「オペレーションズ」のご紹介はこの記事の冒頭部分をお読みください。

「業務依頼数 半期で130件以上」

2023年度上期にフローレンス全社からオペレーションズに依頼のあった業務の数は
単発業務:72件(208時間)
ルーティン業務:61件(約2,300時間)

6年前、「何をやってもらおう・・」と頭を悩ませるところからスタートしていますので、なかなかの成長ぶりです。今では「この仕事できますか?」と少々複雑に思える業務も依頼の相談が入ることがしばしばですが、障害者雇用に取り組み始めた当初は全社的に「障害者雇用スタッフに頼める仕事は限定的」という空気が流れていました。サポート担当の私自身が「単純作業」を中心に考えていましたので、社内の雰囲気は当然のことだったでしょう。
今回は、限定的な業務からのスタートを経て、さまざまな業務の依頼を担えるようになった道のりを振り返ってみたいと思います。

「まずは入り口を整えた」

準備していた業務は慣れるにしたがって作業スピードが上がり、空き時間ができるようになりました。総務や人事などのバックオフィスから新たに切り出せる業務にも限りがあります。そこで、全社に業務を依頼してもらえるよう声をかけることにしました。障害者雇用の担当は私一人でしたので、できるだけ効率よく業務依頼を受けとれるよう、依頼の入り口は「作業依頼フォーム」で整えることにしました。

<フォームの利点>
1.24時間いつでも依頼主のタイミングで依頼できる
2.対面ではないため依頼のハードルが下がる
3.希望納品日を項目に置くことで対応の優先順位をつけやすい
4.チーム内の情報共有がしやすい
5.依頼の際の注意事項をフォームに記載しておくことができるので説明漏れが起きにくい
6.依頼に必要な情報は全て入力項目として設定できるため、確認漏れがない
7.依頼情報をデータとして蓄積することで、様々な使い道に流用できる

※フローレンスではCybozu社のkintoneを導入していますので、フォームブリッジを使用しています。

「営業活動を開始したけれど・・・」

入り口が完成し、作業までの道筋を整えたところで全社に営業開始。まず、社内チャットで全スタッフ向けに「『面倒だな』と思った業務はオペレーションズににお任せください!」と告知することから始め、フォームのQRコードを印刷したチラシを社内に貼り出しました。
全事業部のマネージャーが集まるミーティングにも乗り込んで説明し協力を仰ぎます。が・・・思ったほど業務が集まりません。
一体なぜ!?
・・・依頼者への『お願い』がハードルを上げていました。

納品希望日まで2週間程度の余裕を持って業務の依頼をお願いします

全社に営業を開始した当時、請け負うことができたのは書類セットや封入、そして発送業務。どの事業部も日程ギリギリまで業務に追われていて、発送日の2週間前に資料を完成し印刷まで終えておくのは難しいことだったようです。

「いくつかの工夫」

当時、オペレーションズメンバーは3名。特性上、時間に追われて作業をすることが苦手で、丁寧にゆっくりと作業に取り組むため通常の2倍程度の時間が必要でした。作業指示を出すのは私一人ですから、スケジュールの調整も必要。このため、納品まで余裕を持つという方針は手放せませんでしたが、いくつか依頼しやすくなるような工夫をしました。

・2週間 ⇨ 10日(急ぎの場合は相談可能) に
・作業指示を依頼元で行う『派遣型』であれば日程だけ抑えておくこともOK
・PDFファイルの準備で資料の印刷も請け負う
  ※詳しくは過去記事「印刷&発送業務をしたい」をお読みください!

そして、社内でオペレーションズができそうな作業をしているスタッフを見かけるたびに「時間がもったいな〜い!! その仕事、次は依頼してね」と声をかけまくりました。結局、この声がけが一番功を奏したかもしれません。
少しずつですが、社内から業務依頼の声がかかるようになりました。

「できることを増やしていけば依頼も増える」

始めの頃、単純業務しか請け負うことができなかったのは、メンバーに力がなかったのではなく『私が彼らの力を信じていなかった』のだと、今では思います。一定のルールがあれば、様々な業務を任せることができることは前回の「どうする?業務の切り出し」で書いたとおりです。また、オペレーションズメンバーの作業の完成度が期待以上で、「こんなことはお願いできますか?」と、新しい業務の依頼が入るようになったことも様々な業務にチャレンジして、できることを増やしていくことに繋がりました。

とはいえ、新しい作業に取り組むことはストレスでもあります。オペレーションズメンバーには急な変化への対応が困難という特性もありますので、本人が納得して「チャレンジしたい」と思うことと、緩やかなステップアップが大切でした。

フローレンスでは新しい業務の担当を打診するときに、業務内容の他に次のような説明をしています。
・作業中に起こるミスは次へのステップアップ新しい業務でのミスは問題なし!
・チャレンジしてみて難しいと感じたときには撤退OK
・できなかったとしてもチャレンジすることが大切
・再チャレンジも可能

すでにやったことのある業務に関連するものからステップアップしていくと、本人たちも比較的安心して業務にあたれるようでした。

<関連業務への展開(ステップアップ)例>
STEP1:封入作業(単純単発)
⇨ STEP2:封入資料の印刷(単発) 
⇨ STEP3:ストック資料の印刷と在庫管理(ルーティン)

STEP1:宛名シール貼り(単純単発)
⇨ STEP2:リストとのチェック(チェック)

STEP1:リストからの入力 
⇨ STEP2:ルールのある情報の入力
⇨ STEP3:支払データの入力(代理申請)など

本人たちが新しい仕事を覚えることを楽しんでくれたことが、ステップアップを進める原動力でした。また、彼らが丁寧に業務に取り組むことで品質の担保ができ、社内からの大きな信頼に繋がって、業務の依頼は現在も順調に増えています。

オペレーションズメンバーが特別に優秀だったわけではありません。障害者雇用に成功されている企業の担当者の方たちの多くが障害者雇用スタッフの真面目さと勤勉さを語っています。

「マニュアル化のサービス」

昨年秋に障害者雇用の担当として新たに着任した和田(自己紹介はこちら)はマニュアル化が大好き。(私はマニュアリストと呼んでいます!)
参考:マニュアルを作りたい_その1(知的障害・発達障害のある社員のためのお仕事ライフハック)

新規の業務依頼が入るたびに、メンバーに作業指示を出しつつササっとマニュアルを作り、納品時には「作業が終わりました。こちらが今回のマニュアルです! 次回同じ業務の依頼時にはリンクを付けてくださいね。」と報告します。

社内では『マニュアル化を進めるように』号令がかかっていることもあり、依頼側は大喜びで「また、オペレーションズにお願いしよう!」となります。また、私たちとしても次に同じ業務の依頼があったときには業務指示が不要になるので、業務効率もあがります。

おかげさまで、和田の着任以降、依頼業務はますます増えておりオペレーションズは大忙しです。

*1「ジョブコーチ」 企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者が職場適応できるよう様々な支援を行う人を、企業在籍型ジョブコーチといいます。

執筆の背景

障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。

そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました

▼過去記事一覧はこちら

フローレンスの障害者雇用についての視察や講演などの問い合わせは、 https://florence.or.jp/contact/ の取材・広報申込みフォームよりご連絡ください。


ここまでお読みくださりありがとうございます。一つだけお願いをさせてください。
認定NPO法人フローレンスは障害児の保育・支援問題、ひとり親の貧困問題、赤ちゃんの虐待死問題、などの子どもや子育てに関わる社会課題の解決に向けて多くの方からのご支援をいただきながら取り組んでおります。何かの形で応援したい、と思ってくださった方は、フローレンスへの寄付をご検討ください。

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