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初めての障害者雇用 清掃指導が難しい その1~総務からはじめる、障害者雇用ノウハウ~

はじめに(チームより)

 「こどもたちのために、日本を変える。」事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で、こども・子育て領域の社会課題解決活動と価値創造を行う国内最大規模のNPOである「認定NPO法人フローレンス」において、総務関連チームで障害者雇用スタッフのサポートを担当しているジョブコーチ*1の石橋です。

 障害者雇用に関する知識も経験もなかった私が、6年前に障害者雇用担当となったときにどのような課題に悩んだのか、運営を継続する中で何を大切にしてきたのか、山あり谷ありの歩みやエピソードを、ご紹介していきます。

 「フローレンスってどんな事業をしている団体?」「どのような組織の中で障害者雇用に取り組んでいるの?」などバックボーンを知りたい方は、ぜひこちらの記事をお読みください。

「清掃業務での実習」

積極的に障害者雇用に取り組み始めて2年目、1年目に採用したAさんの卒業校(詳しくは過去記事をお読みください)から3年生の実習について打診がありました。「保育施設での清掃業務に向いている生徒がいます。実習を受け入れてもらえる施設はありますか。」
ちょうど、「障害者雇用スタッフを受け入れてみたい」と、障害児保育園ヘレン経堂から手が上がっていたタイミングでした。

園長と実習の時期や受け入れ方法を相談し、実習中はわたしが業務指導を行うことになりましたが、このときのわたしは、掃除機かけや床の拭き掃除などの清掃業務を実行してもらうには様々な工夫が必要だということを全く理解していませんでした。
進路指導の先生から事前の打ち合わせで「道具選びが大切です。」とお聞きしていたはずなのに、具体的に想像できずに右から左に流れていたように思います。

「雑巾がけは難しい!」

清掃業務での実習受け入れは初めてでしたので、進路指導担当の先生が実習初日に長い時間をかけて業務指導のサポートをしてくださったことはとても心強いものでした。多くのことをアドバイスいただいたのですが、一番心に残っているのは「雑巾がけは難しい」ということです。

「雑巾が難しいって、どういうこと?」と疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。

実は、雑巾がけは「協調運動」というものにあたります。協調運動とは、手と足、目と手など別々に動く機能をまとめてひとつにして動かす運動のことを言いますが、自閉症スペクトラムやADHD、学習障害のある人は協調運動障害がある場合が多いことが知られているのです。

雑巾を絞る:(両手の協調運動)
雑巾がけ :(四足歩き=手と足の協調運動)

この実習生の勤務先として検討していたのは、上履きを使用せず靴下のまま過ごす保育施設でしたので、しっかり絞りきった雑巾で拭き掃除をする必要があります。本人は一生懸命取り組んでくれたのですが、廊下に水滴が残らないように雑巾を絞ることは困難でした。
雑巾の絞り方を教えながら「うーん」とうなっていたわたしは、「努力で解決」という思考に縛られていたのだと思います。

そんな時、進路指導担当の先生から「道具を工夫することで解決しましょう。モップとモップバケツを使用するとことはできませんか。」と提案がありました。

「道具選びが大切」

「努力で解決」思考は一般的に陥りがちな思考だと思います。障害者雇用がうまくいかなくなる原因の一つとなりますが、そこから抜け出せずにいたわたしは「協調運動に困難があっても使いやすい道具を選ぶ」ということに考えが及びませんでした。

先生からのアドバイスの表面だけを受け取っていたわたしが選んだモップバケツは、皆さんもよく見かけるであろう下の図のようなもの。


このモップバケツでモップを絞る作業を分解すると、「手でモップを引き上げる」「足でハンドルを下げる」という協調運動が必要なことがわかります。

モップを上手く絞ることができないまま1回目の実習終了。。。
わたしの心の中には反省しかありませんでした。

進路指導担当の先生から再度アドバイスがあり、ようやく「努力ではなく工夫で解決」を理解できるようになったわたしが、2回目の実習が始まるときに用意したモップバケツがこちらです。

これなら、モップは支えるだけでOK!ペダルを踏めば水滴の残らないモップが準備できます!

廊下の拭き掃除は、モップを使用することで時間が短縮され、使用後の雑巾洗いも「バケツの中でのゆすり洗い」「3回水を変える」と、明確な指示を出せるようになりました。

「清掃業務の指示出しは難しい」

今、指示を出すのが一番難しい業務が何かと問われたら、迷うことなく清掃業務と答えます。清掃業務には発達障害の人が苦手なことが多く含まれていると考えるからです。

①指示が「曖昧な表現」になりがち
 ・隅々まで
 ・丁寧に キレイに
 ・ホコリがないように
②仕上がりに明確な正解がなく「自分で判断」しなくてはいけない
③視空間認知の弱さが特性としてある場合
 ・同じ場所で何度も掃除機やモップをかけてしまう
 ・雑巾がけやモップをかけるときにすきまだらけになってしまう

もちろん、全員が清掃業務が難しいわけではありません。中にはとても丁寧に清掃業務をこなせるスタッフもいます。それでも、こだわりがあって時間がかかりすぎるなど、曖昧な指示を要因とする難しさは残るので、個性に合わせた工夫が必要になります。

「試行錯誤は続く」

とても素直で、こどもたちにもニコニコと対応できたこの実習生は、めでたく入社が決まりました。施設内の清掃業務についてスケジュール表を準備し、入社後、2週間のOJTを経て独り立ちとなりました。ところが、一人で作業を始めるとやり残しが発生し清掃の仕上がりは完璧さに欠ける状態となり、施設長からの報告に頭を悩ませる日々が続きます。

施設での清掃業務に関する試行錯誤については、次回、お伝えしたいと思います。

清掃指導が難しい その2はこちら>>

*1「ジョブコーチ」 企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者が職場適応できるよう様々な支援を行う人を、企業在籍型ジョブコーチといいます。

執筆の背景

障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。

そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました

▼過去記事一覧はこちら

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