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「まずは、仲良くなってね」障害名から入らない理由(知的障害・発達障害のある社員のためのお仕事ライフハック)

はじめに(チームより)

「こどもたちのために、日本を変える。」事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で、こども・子育て領域の社会課題解決活動と価値創造を行う国内最大規模のNPOである「認定NPO法人フローレンス(詳しいご紹介はこちら>>)」において、総務関連チームで障害者雇用スタッフのサポートを担当しているジョブコーチ*1の和田です。自己紹介はこちら>>

知的障害・発達障害のある社員が持つ悩みに対して、本人やサポーターが今日から取り入れられる「ちょっとした、お仕事ライフハック」をご紹介しています。


「まずは、仲良くなってね」障害名から入らない理由

「まずは、みんなと仲良くなってね」。これは、わたしが障害者雇用のサポート担当になって落ち着いた頃に、先輩サポーターから言われた言葉です。障害者雇用のスタッフのサポートを担当することが決まってから、障害について専門家のYouTube/解説動画を見たり、Web記事や書籍で勉強してやる気満々でいましたので、「障害のあるスタッフと仲良くなってねって、ここは小学校かな?」と拍子抜けしました。

もちろん、先輩は障害のあるスタッフの障害名や特性や対応方法などを知識として教えてくれましたが、過去にどのようなことがあったのかなど、詳細なことはよくわかりませんでした。
「もっと、色々教えてくれないと、相手を傷つけるようなことや、間違った対応をしてしまったら、どうするの?」と不安に。「仲良くする」方法がわかりませんでした。

ところが、ある日、会話が得意な障害のあるスタッフに「和田さん、どんなドラマを見るんですか?」と聞かれ、その時見ていたマイナーなドラマ名をあげたら「それ、見てます!主人公がぶっ飛んでますよね」「え!見てるの?前回の居酒屋のシーンは…」と、とても盛り上がりました。
その時、「ああ、わたしはなんで障害にこだわっていたんだろう。障害はその人の一部分でしかないのに、障害越しに相手を見てしまうと、相手の中身を知ることが出来ないんだ」と。

例えば、障害のない同僚のことは、「サッカー観戦が好きな◯◯さん」とか「好きなアイドルのことを話し出すと止まらない◯◯さん」と覚えますよね。少しネガティブな印象だったとしても「忘れっぽい◯◯さん」とか「遅刻の多い◯◯さん」とか。

でも、障害のある社員と仲良くなる前に障害のことを知りすぎると、勉強した障害特性に当てはめようとして「◯◯さんは障害があるから遅刻が多い。なんとかせねば」みたいな気持ちになってしまい、その後の「サッカー観戦が好きで、毎週応援に行って、ファン同士の飲み会にも参加している」という雑談までたどり着けない。

業務上では障害のあるスタッフをサポートする立場なので「遅刻をなんとかせねば」は必要かもしれませんが、雑談をしている時はただの同僚です。先輩は、障害特性と性格は区別して考えるために、障害ありきで見るのではなく「まずは、仲良くなって、相手の良さを見つけてね」と言いたかったのだと理解しました。

雑談のネタを見つける工夫「朝会」と「1on1」

 それから、わたしは積極的に雑談をするようにしました。3週間に1度、サポートをしているスタッフと15分間の面談をして、現状の仕事の状況や気持ちについて聞く時間をもっているのですが、仕事のことは早々に切り上げて、

「最近は休日に何しているんですか?」
「最近いいことありました?」
「なにか、何でもいいのですが、伝えておきたいことありますか?」

など、仕事に関係ない話を聞くことに多くの時間を割くようにしました。

時々は「うちの子が塾行きたがらなくてさー、困っちゃうんだよね」という愚痴や、「明日は好きなアーティストのライブに行くんだ。楽しみすぎて、仕事どころじゃないわ」など、自分の気持ちや状況を伝えることで、自分も会話を楽しみつつ、相手に「自分のことを言ってもいいんだ!」と感じてもらうことを心がけています。

その他にも、「感情カード」を利用した朝会も雑談のネタを探すにはいいチャンスです。感情カードはフローレンスの保育園で取り入れられているもので、自分には感情があるということ、そして、それは尊重してもらえるという経験ができるものです。

フローレンスの保育園で取り入れられている「感情カード」

障害があると気持ちを表現することが難しいことがありますし、感情を出すことはワガママだと捉えられたり、意見を言うことを否定された経験がある人もいますので、感情カードを使うことで自分の気持ちを適切に表現する練習にもなります。

毎日、朝会で自分の今の感情に基づいたカードを出しながら、感じたことを1人30秒から1分ぐらいで話します。

「週末は家族で旅行に行って楽しかったので、『うれしい』です。」
「どこに旅行に行ったんですか?」
「草津です」
「草津、いいね!何食べたの?」
「できたての温泉饅頭食べました」

「『そわそわする』です。昨日、震災のニュースを見て、まだまだ支援が届いていないらしいです」
「心配だね」
「わたしもそのニュース見たよ、そわそわするね」

など、自然な形で会話がうまれます。朝会だけでなく、朝会で出た話をネタに仕事の合間に会話を続けることで、どんな人なのか、どんな時にどのような感情になるのか知ることができます。

日々の会話を通じ相手のことを知れば知るほど、そのスタッフにどんな障害があるのかということは気にならなくなり、自然に仲良くなることができました。さらに、「◯◯さんはこんな良い面があるから、このアプローチで伝わりやすいかも」と、サポートもしやすくなりました。

障害はその人の一部分でしかありません。
「わたしはこれが好き、あなたは?」の雑談から、始めてみませんか?

*1「ジョブコーチ」 企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者が職場適応できるよう様々な支援を行う人を、企業在籍型ジョブコーチといいます。

執筆の背景

障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。

そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました

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