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詩小説 『秋桜と父』 #シロクマ文芸部

 『秋桜』という曲があったことを
 ふと思い出したのは実家に呼び出され
 長年 物置小屋化した部屋ひやの片付けを
 していたからだろうか。

 といっても
 山口百恵が歌っていたことくらいしか
 知らないのだけれど。

 「あ、お姉ちゃん来てたんだ」

 実家暮らしの妹が開け放った部屋ひや
 覗き込むようにひょっこり顔を出す。

 「日和ひよりもいるなら手伝ってよ」
 「無理だよ、喘息悪化しちゃう」

 日和は母譲りの喘息持ちだ。
 だから埃まみれになるような作業は
 母により免除され 私にお鉢が回ってくる。


 「私だって花粉症あるんだけど」
 というが早いか

 「ぶぅへっぐしょん!」
 と盛大なくしゃみをする。

 「お姉ちゃん 年々お父さんの
  くしゃみに似てきたよね」

 うれしくない褒め言葉だけれど
 確かに私は父譲りの花粉症持ちだ。

 特にひどいのは秋だから
 父がいた頃の稲刈りは免除されていた。

 「ねえ あそこにあるの
  アルバムじゃない?」
 と 目敏い日和が指をさす。

 そこには今ではあまり見かけない
 分厚いフォトアルバムがあった。

 仕方なく私がそれを取り
 部屋ひやの前の床几台しょうぎだい
 呑気に腰かける日和に渡す。

 「うわ! これベルベット?」
 チョコレートコスモスのような色合いの
 アルバムに驚きの声を上げる。


 「さすがにそれはないでしょ」
 と 日和が表紙を開いたのを横目で窺う。


 そこにはバブル真っ只中の
 両親の結婚式の写真が収められており
 ベルベット説もあり得なくもないかも……
 と 思い直す。


 何せ母は自身の親である祖母の指示で
 五回はお色直しさせられたと
 聞いたことがあったから。

 下手したら アイドルより
 着替える回数多かったんじゃ……
 と 今となっては引いてしまうレベルだ。


 「うわ! お母さん ソバージュじゃん!」
 「このド派手なピンクのフリフリドレスも
  なかなかのもんだけど」

 ピンクのコスモスの彩度を限界値まで
 上げたような強烈な色が目に痛い。


 「絶対 お母さんの趣味じゃないよね」
 「でもまあ若いからいいんじゃない?」
 「このケーキ一体何段あるの……?」
 「それはイミテーションって聞いたよ」
 「さすが!もうすぐ結婚する人は
  目の付け所がちがうねえ」

 と 茶化してくる日和。

 別にそういうんじゃないけど……
 たまたま聞いたことがあっただけで。

 アルバムをめくっていくうちに
 ページ数が余ったのか
 二人の新婚生活に切り替わっていく。

 「うわー! パジャマで
  二人で寄り添ってる!」

 いちいち反応がうるさい。

 でもこんなラブラブショットが
 あったなんて……

 という気恥ずかしさとともに
 仲のいい二人の姿が胸に沁みる。


 「お父さんてさ、電話するとき
  いつも“もしもし”じゃなくて
  “こすもす”って言ってたよね」

 と日和が唐突に言い出す。


 「あぁ、言ってたね。
  私達にだけだったけど」
 「そうなの?」
 「そうだよ、さすがによそ様には
  言えないでしょ」
 「そりゃそうだ。にしても
  何で“こすもす”だったんだろ?」


 「小春こはる、片付けしてくれてありがとうね。
  あら日和もここにいたの?」

 そこにお茶ポットとグラス、お菓子を
 お盆にのせた母が現れる。

 それを受け取り、床几台しょうぎだい
 ちょっとしたブレイクタイムになった。


 「ねえ、お母さんはお父さんが
  電話越しにいつも“こすもす”って
  言ってた理由知ってる?」
 「あぁそれね。
  私も気になって聞いたのよ。
  うっかり違う人に向けて言ったら
  恥ずかしいじゃない?

  そしたら『娘達はいずれ家を出る。
  でもこう言っておけば秋桜コスモスを見る度に
  俺を思い出してくれるだろ?』って」

 「お父さんすごい! 予言通りじゃん!」
 と はしゃぐ日和に

 「お父さんらしいね」
 私は妙に納得してしまった。


 『男一人は居心地が悪いよ』
 と 文句を垂れつつ
 父は私達を溺愛していた。

 父のメアドやアカウント名には
 いつも私と日和の名前や誕生日が
 入っていたくらいなんだから。


 「見せてあげたかったわね。
  小春の晴れ姿」
 「まあね。でもお父さんなら
  きっと意地でも来ると思うよ」

 お父さんがいちばん好きで
 思春期真っ只中の私と日和に
 力説しながら一緒に見せられた
 ウルトラマンコスモスのように。

 でも 三分過ぎる前に
 星に帰らないといけないんだからね?
 お父さん。

 夏よりもやわらかな太陽を見上げ

 「ぶぇっくしょーん!」

 と 父譲りのくしゃみを高らかに披露した。

 


 タイトルを見て、そのまんま思い出したのが山口百恵さんの『秋桜』でした。じっくり聴いたことがあったわけではなかったんですが、さだまさしさんの作詞作曲なのが納得の一曲ですね。

 『ウルトラマンコスモス』が思い浮かび、調べてみたところ宇宙の秩序正しいシステム(ギリシャ語のkosmosが秩序を表すのだそう。)から花弁が8枚規則正しく並んでいるところと重ねて、花のコスモスの名前が誕生したようです。ちなみに『ウルトラマンコスモス』のキャッチコピーが“強さとやさしさを兼ねそなえたウルトラマン”だったのも、たまたまだけれど、うまくハマッた感じです🤭

私の知ってるウルトラマン情報はカラータイマーを取り上げられるとしぼむ、くらいですかね🤔?

 そして実家でずっと物置小屋になっていた部屋を“ひや”と呼んでいた謎(方言だった模様)と“しょうぎだい”の漢字を初めて知りました🙈何気なく口にしてる分、文字に起こすと知らないこともあるんだなあ……


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