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詩小説 『ただ歩く、その先に』 #シロクマ文芸部

 ただ歩く。
 わたしはただひたすら歩く。

 だってママが言ってたから。

 虹の橋の登り場所を見つけられたら
 きっといいことがあるって

 だからわたしは歩く。

 気まぐれなお天気雨が作った
 七色の橋を渡るために。

 ただ……
 ほんのちょっとだけ

 ううん……
 本当は入道雲みたいに
 むくむくと不安がふくらんでいた。

 
 だってどれだけ歩いても
 虹の橋は近づくどころか
 どんどん遠ざかっていく。

 お姫さまみたいなお気に入りの
 サンダルのくつズレが痛くて
 自然と涙がにじんだ。


 ママ……
 わたしを置いてどこに行ったの……?

 虹の橋の登り場所なんか
 全然ないじゃん!


 「ママのうそつき!」


 そうつぶやいて
 わたしはひざを抱えてしゃがみ込む。

 すると後ろからブルッブルルッと
 モーター音が聞こえてきて
 わたしはあわてて立ち上がる。

 「七夏なな! こんなところまで来て
  何してるんだ?!」

 そう叫んだのは
 原付バイクに乗ったパパだった。

 「だって……ママが……」

 その途端ボロボロと
 涙があふれて止まらなくなる。

 だってそれ以上 口にしたら
 本当になりそうでこわくて

 ママがわたしを捨てるなんて
 そんなことあるはずないのに……


 「ごめんな、びっくりしたよな。
  でももうママは大丈夫だから。
  一旦これに乗って家まで帰ろう」


 そう言ってパパはハンドルと
 腕の隙間にわたしを立たせる。


 小学校に上がるまでは
 わたしの指定席だった
 その場所に。

 少しだけ暑さが和らいだ夏の夕暮れ時に
 パパはわたしを乗せて近所の田畑を
 ぐるりと探検させてくれた。

 「七夏なな、おっきくなったなあ。
  もう前が見えないくらいだよ」

 「それよりママは?
  ママはどこにいるの?」

 「ママは病院にいるよ。
  予定より早くなったけど
  今日から七夏ななはお姉ちゃんだ。
  だから車に乗り換えて会いに行こう」

 「うん!」

 「名前、何にすっかなあ……」

 一人言をこぼすパパに
 
 「虹架にじかちゃんは?」

 と持ちかける。

 「おお、いいな。ってあれ?
  妹ってもう話したっけ?」

 パパは不思議そうな顔をするけど
 そんなの聞かなくたってわかるよ。


 だってその子は虹の架け橋から
 すべり下りてきてくれた子なんだから。
 


 虹を追いかけてたら迷子になりかけたことってないですか? 私はたぶんある気がします(笑) 原付バイクの二人乗りはアウトだけど、近所の田んぼの様子を見に行く用事があったのか、たま~に乗せてもらってたなあって、ふと思い出しましたとさ。

 虹と言ったら、この曲が好き🙆🌈


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