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3DCGをフォトリアルに見せるには?

現在の3DCGは、物理ベースレンダリング(PBR)と言われる、現実の物理法則に基づいた表現が基本となっています。ですが、現実の物理法則でシミュレートされるとは言っても、見え方としての3DCGの表現は多様です。それこそCGならではという表現や、あえてローポリゴン(※1)でのボクセルアート(※2)のような表現、トゥーンシェーダー(※3)などを用いたいわゆるアニメチックなものもあれば、実写と見分けがつかないようなフォトリアル(※4)な3DCGもあります。

ファッション3DCGでもその表現は様々なのですが、ファッションというカテゴリーにおいて、特に産業活用を考えた時には、フォトリアルな3DCGというのは外せない選択肢です。現実の素材をデジタルの世界に持ち込んで表現するのですから、フォトリアルに仕上げるということがむしろスタートラインとも言えます。それができればそこから他の表現へアレンジしていくことも可能でしょう。
では、ファッション3DCGをフォトリアルに見せるには何が必要なのでしょうか?

まず1つ目に重要な要素は、制作するオブジェクトの現実の形状を徹底的に『モデリング』することです。
アバターについては人体の骨格、筋肉、脂肪のつき方、衣服であれば実際の衣装のパターン、構造、仕様などを観察し、細かなディテールまで再現していくことが重要です。この時点で現実の衣服ではありえないような形状になっていては、この後出てくる要素がいかにリアルであっても、フォトリアルな3DCGにはなりません。

2つ目に重要な要素は『テクスチャ』です。
ファッションの3DCGであれば、衣服の素材に関する情報をおさえておくことが必要です。どのような素材の糸で織られた、あるいは編まれた生地なのか、糸の太さや撚り、織や編みの組織、目付、ゲージ、後加工など、見え方を左右する要素を分解して把握すること、質感を表すための素材に関する知識が、最終的な説得力を生みます。

そして3つ目に重要な要素が『写真撮影の知識』です。
徹底的にディテールを作り込んだオブジェクトに、細部までリアルな質感にこだわったテクスチャを適用しても、最後の最後でリアリティのない設定でレンダリングをしてしまったら、これまで作り上げてきたものが無駄になってしまいます。作り上げた3Dモデルを最終的にフォトリアルな画像に出力するには、現実の写真撮影の知識、光のコントロールが不可欠です。

さらに、よりリアルな3DCGを作る上では、その3Dモデルが置かれている環境、そこに至るストーリーを想像していくことも重要です。日常的に着られている服であれば、着用のクセによるシワができるでしょう。場合によっては多少の色落ちや傷、汚れもなどもあるかもしれません。そうしたモノの裏側にある人の息遣いが感じられるようなひと手間を付け加えることで、ともすれば『キレイすぎる』状態になりがちな3DCGも、俄然リアリティを増してきます。

ここまで述べたように、3DCGをフォトリアルに仕上げていくには、単に3DCGソフトのオペレーションができれば良いという訳ではありません。
現実をつぶさに観察し、表現する素材に関する資料を集め、正確な知識に基づいて3Dモデルを作り上げ、その3Dモデルがより魅力的で説得力のある3DCGになるように撮影技術を駆使して最終的なフォトリアル3DCGが完成するのです。3Dモデリストは、広範囲な知識と技術、そして感性を併せ持った総合クリエイターと言えるでしょう。

次回から『モデリング』『テクスチャ』『写真撮影の知識』についてひとつずつ解説していきます。

文責:木内 潤一(東京ファッションテクノロジーラボ)

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注一覧

※1:ポリゴン数が少ないCGモデル。ポリゴン数を少なくすることにより、処理が軽くなる。
※2:立方体を組み合わせて作る3DCG。
※3:手描きアニメーション、漫画、イラスト風のレンダリング手法。
※4:写真のように写実的なこと。


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