Identity VとDead by Daylightに学ぶ、コンシューマゲームをスマホゲームに落とし込む時のヒント
今回は、IdentityとDead by Daylightを比較することで、コンシューマゲームをスマホゲームに落とし込む時のヒントを探ろう、という分析をやってみます。
今回は主にゲームデザインについて2つの作品を比較して、そこから学べるものを見つけていきたいと思います。
比較①ルール
まずはルールについて比較していきます。
【Dead by Daylight】
【Identity V】
はい、ルールは全く同じですね。
図で見ても分かると思いますが、ルール自体は1VS4の非対称バトルということで、大きな違いは見られません。
比較②操作仕様
続いて、操作仕様について比較していきたいと思います。
この比較は作品ごとというより、「サバイバー」と「キラー(ハンター)」という操作キャラクターごとに比較をしていきます。
凡例として、【D】はDead by Daylight、【I】はIdentity Vのことを指します。
【サバイバー】
▼発電機(暗号機)
・【D】発電機が見えない。探す手間がある。
・【V】暗号機が常に見える。探す手間がない。
▼スキルチェック(調整)
・【D】完全な円形のメーターで、開始点が常にランダム。
・【V】半円で、始点は常に左端から始まる(固定)。
▼ハンターが近くにいる時
・【D】心音が鳴るのみ。
・【V】心音が鳴る以外に、プレイヤーに心臓エフェクトが表示される。
これらの違いを比較して、Identity VはDead by Daylightよりも操作の難易度が全体的に下げられていることが分かります。
これはスマホゲームユーザー向けに仕様変更したものだと考えられます。
【キラー(ハンター)】
続いてキラー(ハンター)の操作仕様を見てみましょう。
▼カメラ視点
・【D】一人称視点。
・【V】三人称視点。
これについては一目瞭然ですね。
一人称視点自体がスマホゲームに少ないですし、コンシューマゲームユーザー向けな仕様です。スマホゲーム層には一般的ではないです。
また、一人称視点でサバイバーを探すのは三人称視点に比べて、結構シビアです。スマホゲーム層には難しい操作仕様だと考えられます。
ここでも、スマホゲームユーザー向けに仕様変更がなされていることが分かります。
比較③ゲーム性
比較②の操作仕様の違いを踏まえて、ゲーム性についても比較することができます。
特に、先述したキラー(ハンター)の操作仕様が違うことで、ゲーム性に差異が生まれています。
詳しく見ていきましょう。
【Dead by Daylight】
ステルス重視のゲーム性であると言えます。
キラーの視点が一人称視点であるため、まずそもそもサバイバーを見つけにくいです。
サバイバーは草むらに隠れることで、やり過ごすことができますし、近い距離ですれ違っても気づかれない場合があります。
そのため、サバイバーはいかにキラーから見つからずに発電機を付けて逃げ切れるか?というステルス性の高いゲームになっています。
【Identity V】
チェイス重視のゲーム性であると言えます。
ハンターは三人称視点であるため、これによってサバイバーを格段に見つけやすくなっています。
そのためサバイバーは草むらに隠れる意味がほぼありません。
見つかった場合、逃げなければ確実に捕まります。
操作仕様が変わったことによってゲーム性が大きく変わってしまっていますが、Identity Vでは変わったゲーム性を正として、周りの仕様も固められています。
チェイス重視になったことでハンター有利になったゲームバランスを保つために、サバイバーが有利になる要素が用意されています。
例えば、「ハンターがサバイバーを殴ったあとの刀拭きモーションが長い」という仕様があります。
これによって、ハンターが自分の刀を拭いている間にサバイバーがより遠くに逃げられるようになっています。
また、チェイスに特化したアイテムも多く、チェイスというゲーム性が成り立つように作られていることが分かります。
比較④スキル効果
では、もう少し具体的なスキルに踏み込んで見ていきたいと思います。
ここでは、共有パークを比較することで、どのようなことが見えてくるかを探っていきます。
僕が行った比較は、共有パークの効果属性の比較です。
Dead by Daylightには「共有パーク」、Identity Vには「内在人格」という、どのキャラクターにも共通して設定できるスキルがあります。
これらの効果属性にはどのようなものがあって、効果属性ごとに何個のスキルがあるかを調べることにしました。
そして調べて比較してみた結果がこちら。
面白い結果になりました。
Dead by Daylightでは「オーラ可視化」「隠密」「索敵」「遅延・妨害」などが多かったのに対して、Identity Vでは「速度強化」「チェイス強化」などが多くなっていました。
これは、先述したゲーム性の違いがスキル効果の数にもしっかりと反映されていることが分かります。
比較⑤成長システム
最後に成長システムについて触れていきます。
成長システム
【Dead by Daylight】
Dead by Daylightの成長システムは、「ブラッドウェブ」と言って、レベルごとに変化するスフィア盤のようなものです。
ブラッドウェブの中にパークやアイテムがランダムで配置されており、ゲームプレイで獲得したブラッドポイント(二次通貨)を消費することで獲得できます。
パークは、レベルに応じて最大4個まで付けることができます。
装備できるパークは4つと少なく、獲得できるパークはランダムなため、Dead by Daylightの成長システムは「キャラクターのレベルを上げて目当てのパークを獲得して理想のキャラクターを作り上げる」、という遊びになります。
【Identity V】
一方のIdentity Vでは、「内在人格」というシステムです。
Identity Vでも、内在人格で得たパークをキャラクターに装備することで、ゲーム内で有利になるシステムです。
ただし、内在人格はブラッドウェブと違い、最初から獲得できるパークの種類と個数が決まっています。
そのため、「キャラクターのレベルを上げて装備できるパークを増やしつつ、最終的にはプレイするキャラクターの特性に応じてパーク装備のバリーエーションを変える」という遊びになります。
ここでも、Identity Vでは獲得できるパークの最大値を制限することでパークの組み合わせ数が増えないようにして成長システムの難易度を下げています。
まとめ
「Dead by Deylightをスマホゲームにどう落とし込んでIdentity Vを作ったか?」という視点で分析してきましたが、いろいろ発見がありました。
やはり1番大きな特徴としては、「スマホゲームユーザーに受け入れられる仕様を採用した」ということだと言えます。
具体的には、全体的な操作難易度を下げたり、ゲームテンポを早めたりすることで、スマホゲームユーザーにマッチするプレイ感にしていったということです。
取り上げた要素は以下。
これらの仕様を変えたことで、チェイス重視のゲーム性となりました。
ただし、ゲーム性が変わったとしても、それを軸としてIdentity Vではゲームバランスを再構築していきました。
個人的に凄いなと思ったのは、「たとえ原作からゲーム性が変わったとしても、スマホゲームユーザーにとってマッチする仕様をちゃんと選択した」ことです。
原作があるゲーム制作だと「原作があるから変更しないほうが良い」という意思決定がなされてもおかしくないと思ったのですが、Identity Vではしっかりとそこに線を引いて、ユーザーが喜んでくれる仕様を選択したのが凄いです。
「面白くて奥深い」からといって、スマホでコンシューマゲームを作っちゃ絶対ダメ!ということですね。
おまけ:トムとジェリー:チェイスチェイス
今年2021年、日本で『トムとジェリー:チェイスチェイス』がリリースされました。
開発元はIdentity Vと同じくNetEase Gamesです。
遊んでみるとゲームシステムがけっこう似ている部分があったので、このタイトルもおまけで見てみようと思います。
▼ルール
Dead by Deylight、Identity Vとともに、全く同じルールでした。
▼ゲーム性
ゲーム性については、Identity Vと同じくチェイス重視のゲーム性になっています。
大きな理由としては、「トムとジェリー」という原作があったからだと言えます。「トムとジェリー」はあのドタバタ追いかけ合うシーンがあってこそだと思うので、それをゲームデザインに落とし込んだらチェイス重視になりますね。
また、2Dゲームであることもチェイス重視にならざるを得なかった理由になると思います。
2Dゲームは3Dゲームと違い、視野角を利用して物陰に隠れる、ということができません。
2D上で物の後ろ側に隠れる、ということは可能ですが、そのような遮蔽物はほとんどありません。(遮蔽物だらけになったら追いかけっこの要素が無くなってしまいますもんね)
Identity Vと比較した時にこのゲームならではの特徴としては、ステージ上に多くの投げアイテムがデフォルトで配置されています。
これは原作のドタバタ感を演出するとともに、Identity Vに比べてゲーム中にトムに見つかることは不可避なので、ジェリー側が少し有利になるように用意されたものだと言えます。
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