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生であるべきか加熱すべきか、それが問題だ

日本人は生がすき。

どれくらい好きかというと

https://www.kanjipedia.jp/kanji/0003833400

読み方多すぎぃぃぃ!

それくらいみんな大好き、生、生、生。

食品でも『生』がつくものは多く、代表的なものとして
☑︎生ビール
☑︎生野菜
☑︎生卵

とか色々あるよね。別にビール、野菜、卵だっていいわけで、なぜかみんな生がお好き。

まだまだあります、生八つ橋、生もみじ、生牡蠣、生魚、生肉、生食パン、生クリーム、生チョコ、生ハム、生キャラメル、生醤油、生茶・・・

しかしてその実態はなんなのか?

今回色々調べながら感じたのは、人間(日本人?)の生信仰は食に対する飽くなき探究心の結果であり、イノベーションの原点でもあると感じました。

いやはや生は馬鹿にできない。でも固執しすぎる必要もない。そんなお話をしていきたいと思います。

三行で結論

・火を通すデメリットは案外少ない
・でもでもやっぱり生は魅力
・安心安全に生を楽しもう


生とは何か?

生=加熱していない

すでにいくらか事例が出ているので一番わかりやすいところで言うと、「加熱をしていない」というパターン。

例えばビールは通常酵母による発酵を止めるために加熱をおこないますが、この加熱を行わないのが生ビール。
当初はそのせいで発酵し続けて品質の変化や容器の破裂などあったようですが、今では酵母をフィルター除去することで加熱をせずに発酵を止める方法が用いられているので、問題ないようです。

ま、でも最後の工程以外にもビール製造では普通に煮沸の工程は含まれるらしいけどね。

生とは何か?はやはり当時も論争になったようで、酵母が残ってないのに生なのか?みたいな紆余曲折はあったみたい↓

他にも生(なま)醤油も同様に微生物を加熱せずに除去したものという記載も見つけましたが、生(き)醤油はまた別のものらしいので、冒頭の漢字の読みにここで頭を悩ませます。

https://www.s-shoyu.com/knowledge/0205

あとは対義語を考えるとわかりやすいですが、
生野菜←→温野菜
生卵←→ゆで卵
生牡蠣←→焼き牡蠣
みたいに、加熱したものと対比されているものは多いでしょう。

生=もっちり、しっとり

ただ、生=非加熱に当てはまらないものもあります。

生チョコ、生キャラメルなど、加熱は関係なさそうです。公式レシピを見ても火をいれていますし。

このあたりは「柔らかい」とか「くちどけなめらか」といったようなテクスチャーに対して「生」と言う表現を使っているように思われます。

例えば生肉はやレアの肉柔らかいものが多いですが、加熱すると硬くなるなどテクスチャーが変わることがほとんど。うぇるだん。その対比を元々固い食品に対してテクスチャーを変えたことを比喩するために「生」と言う表現が使われているのでしょう。

(追記)
生チョコも生キャラメルも、生クリームをたくさん使うからでは?とのコメントをいただきました。
確かにwikiにはそう書いてあるので、その通りかもしれません(汗。ご指摘ありがとうございます!!


その他

例外として「生食パン」は加熱していないわけでも、柔らかいことを表現したわけでもなく、生でも美味しく食べられると言う意味だそうです。

そう言う意味ではジャンルではなく商品名に「生」をつければ、それはもはやどんな解釈でもOKと言うことになりそうです。

加熱により何が起きるのか?

「生」が良いと言うことはその反対である「加熱」は悪なのか?

ここを紐解くと本当の「生」の価値が見えてきそうです。もうちょっとディープダイブしてみましょう。

加熱で生じるデメリット

熱を加えることによって一番イメージしやすいのは固くなるということでしょう。

肉はウェルダンよりレアの方が柔らかいし、生卵はゆで卵になると形が崩れなくなります。

これは食品中に含まれるたんぱく質の熱変性によるもの。

これは如何とも避け難いでしょう。これらの変性は基本的には不可逆反応、つまり焼いた魚は刺身に戻ることはありません。

二つ目のデメリットは、特定成分が変化する(分解される)こと。
栄養素で言うとビタミンCが有名。確かに熱に弱く分解されます。でも多分みなさん思ってるほど劇的には減りません。そんなに劇的に減るならビタミンCの飲料(液体は特に成分が変化しやすい)は出来立てを飲まなきゃいけなくなりますから。
ビタミンの中でもCの他にはB1は熱に弱いしB2は光に弱かったりするけど、B6やビオチンは割と安定だし、「(水溶性)ビタミンは熱に弱い」というのは主語が大きすぎです。

他にも加熱でニオイが変わる食品なんかもあります。

三つ目のデメリットとは、蒸発や揮発による成分の逸失。
二つ目とも近いですが、出来立てのフレッシュな香りは加熱により失われるものも多いです。香り=揮発性が高い=加熱により飛んでいく、ということ。これの課題もかなり大きい。

加熱で起きるメリット

2年前に書いたこの「人類史に影響を与えた食の発明」をぜひ読んでいただきたいのですが、「火を通す」ことにまつわる発明(器による「煮る」の発明、保温のための「高温殺菌」の発明など)は多岐にわたりその力を発揮しています。

つまり、メリットがあるからこそ食を加熱するという行為(調理)は歴史に耐えて残ってきたわけです。

まず、殺菌による食中毒の防止。食中毒を引き起こす微生物の殺菌など。これにより、食べられるものが増え、さらには食品を保存することも可能になりました。

続いて、栄養の確保。火を通すことで本来食べられなかった(消化できなかった)ものが食べられるようになりました。生麦生米でお馴染みの米や麦もそうですね。でんぷんを加熱によりアルファ化することで、固い米は美味しいご飯になります。

デメリットで述べた「匂いや味が変わる」ことは、メリットにもなりうるでしょう。生のトマトが食べられないのに火を通したりケチャップにしたら食べられるのはそう言うこと。

他にも水分の除去も。野菜は加熱することで水分が飛んで量(かさ)が減ります。その結果生野菜よりたくさんの野菜が食べられるわけで、広島風お好み焼き(not広島焼)なんてその最たる例。
また水分の除去は保存性を高めることにもつながっています。

さらにさらに、脂溶性ビタミンなど栄養素によっては油と共に加熱することでその吸収効率を高めることもでき、加熱=栄養素がなくなると言うのは早合点。

前述のビールなんかも、加熱しないと発酵を続けて変質したり爆発するから加熱していたのであって、加熱という工程の重要性がわかります。

うん、あげだしたらきりがない。

つまり、歴史的に考えてもそもそも加熱とは食において重要な役割を果たしているわけであって、加熱は毛嫌いされるべきものではないのです。

ここまで見てきた読者ならお気づきでしょう。

別に生にこだわる必要なんて全然ありません、特に食品衛生と栄養の観点でいうと加熱のメリット。大いにあります。

生を生かすために生まれた技術

加熱のメリットはわかったよ!んなこたぁ、わかってるんだよ!それでも生が良いんだよ!!

繰り返しになりますが、舌触りの良いテクスチャー、素材そのものの香味や栄養成分。こう言った機能的価値や情緒的価値が『生』には間違いなく存在します。

で、

加熱のメリットも享受しつつ生のメリットも享受したい(=加熱のデメリットも解消したい)、そう思う人が現れたのでしょう。贅沢です。

そんな贅沢な悩みや文句を課題として設定したからこそ今の世の中で様々なイノベーションが生まれ、技術が開発されてきました。こう言うのは大概人間の欲から生まれるものです。

柔らかくてぷりぷりして新鮮なものを食べたいのです。煮魚や焼き魚だけでなく刺身も食べたいのです。

最後にその人類のあくなき探究心の成果をご覧いれます。

一つ目は冷凍技術。加熱で劣化するなら凍らせればいいじゃない、というまさに逆転の発想。
冷凍によって鮮度を保ち、食中毒のリスクを下げ、加熱よりまともな可逆性(解凍してもそこまで変わらない)を持って、生の流通が可能になりました。刺身万歳。

二つ目に微生物制御。浄化設備を作ったり微生物汚染の少ない海域で育てたりで、ノロウイルスのリスクを下げることができるように知恵と工夫&制度化が行われました。生牡蠣万歳。
(ちなみに今回調べたら、ノロウイルスの発見よりなま食用牡蠣の規格基準制定の方がどうも歴史が古いようです。ノロが見つかる前から対処法自体はわかってたと言うことですね)

三つ目に、食肉加工。食中毒を起こす特定の菌をいかに殺菌していかに持ち込ませないか、その食品衛生の技術を駆使して安全に生の肉を食べられるものも生まれました。鹿児島の鳥刺しとさわやかハンバーグ万歳。

生卵だって、日本の衛生管理の高さから非加熱でも食べられるし・・こうやってみると食品衛生の話が多いですね。

目に見えないものと戦えるようになったからこそ生でも大丈夫になったのかもしれません。

人間、恐るべし。。

注意

さて、ここまで語りましたが、一番注意すべきは「生のメリットにばかり囚われて、生のデメリットに目を向けないことは危険である」と言うことです。

生肉の提供による食中毒の事件は後を絶ちません。これは店で提供されたものであっても、注意が必要です。提供側が認識していないことすらあるので。

また、お弁当なんかもそうかもしれませんね。新鮮なものを入れたいと思って逆に危険なことだってあるわけです。

動物は当たり前のように生の食品を啄むのに、人間は火という技術を手に入れて食の多様性が生まれ、そしてその多様性がさらなる技術革新を誘発して、生への回帰をもたらした。

そんな人類の進歩に思いをはせながら、生を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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