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ルーニー解任のワケは?

23-24EFL Championshipで戦うBirmingham Cityは、1/2のLeeds戦(●0-2)敗戦後にウェイン・ルーニー監督を解任した。わずか就任から約3ヵ月での解任となった。

ルーニーはご存じの通り、現役時代はManchester Unitedを中心に華々しい活躍を見せた。Derbyなどで監督を受け持った末に2023年10月21日のMiddlesbrough戦より、シーズン途中から監督に就任し期待されたがBirminghamを率いた15戦で2勝4分9敗と厳しい戦績となってしまった。

上位チームとの対戦も多かったが、下位チームからの勝ち点のもぎ取りさえもできない試合が多くあった。段々と試合内容の成熟は見えたものの、結果という一番求められているものを得ることはできなかった。

では、どんなゲームが続いてしまったのか。戦術的な見方から見てみる。

過去のゲーム分析はこちらから↓



コンセプト

ルーニーBirminghamのコンセプトを観察する。

攻撃

スタイルはカウンターアタック。タテへの意識を強く持ち手数のかけないカウンターを持ち味としていた。フィニッシュまでの速さを重視しているような印象がある。

カウンター時も普通の遅攻でも起点となるのはサイド。サイドアタックからゴールへ迫る回数が多い。サイドのプレイヤーとしては、DembeleやBacuna、三好、時にStansfieldがサイドで仕掛ける場面もある。とは言えども仕掛ける能力としてはDembeleが突出しているのみで、三好はチャンスメイカーとしてパサーの役割を担うなど。Stansfieldはトップを、Bacunaはセンターのポジションをやるなど定まってサイドでプレーするわけではない。

ルーニー就任以前のアタッキングサイド(今季)
ルーニー時代のアタッキングサイド
前線のプレイヤーの配置(リーグ全節)
※データはすべてWhoscoredより


サイドからの攻撃が多いのが故なのか、サイドのプレイヤーが孤立するようなシーンも多くみられた。ビルドアップ時にサイドに預けた際にも、サポートがなく受けてから潰されたりとなぜか孤立。
サイドのプレイヤーの仕掛けに期待を超えた依存をしているのか。チャンスメイクするための起点は確かにサイドではあるが、1v1が1v2に変化しホルダーにとって苦しい場面になるのは当たり前だ。そういう時にサイドのホルダーに対してのサポートがないと攻撃が組み立てられない。

アタックに繋げるためのビルドアップはどうだろうか。
入り口の基本は2+4なのだが、Leicester戦のように左SB(Bachanan)に高さを取らせて右SB(Aiwu)を降ろして3+2の形になるときもある。それは対戦相手によって変更がなされる。

vs. Leicester ビルドアップの変化


だが、ビルドアップはそこまで繋ぐような意識はないように見える。最終ラインから前進できないように守備をされると、結局前線へ放り込んでおしまい、みたいな形になる。放り込んだ先で五分五分な中でチャンスを作れれば良いだろうという考えになる。
または、カウンタースタイルということなのでサイドウラに蹴ってウラ返すようなシンプルさの狙いもあるか。この場合には相手の前プレ×自分らのスピードである。意図的にカウンターの状況を作り出しているという感じか。

ただし、放り込んでもロングボールというものはどちらかが確実に保有しているものでもないので、相手にボールを回収される可能性が非常に高まる。慎重につなぎながら前進するという戦術を磨くことが保持率を上げる・より安全にチャンスをつくる ということに繋がる。しかし、安全に繋ぎながら前進しようとせず前線のプレイヤーのウラへの動きのみに頼った。足元で引き出して、中盤や前線でタメを作れずキーパスも出ない
ちなみに、あとにも出てくるが三好のようなプレイヤーがいれば安全なビルドアップからのアタックは実現できる。しかしそれには味方も協力する必要がある…ができなかったことがほとんどだったからこう書く。

スタメンで出ることが多いFWのプレイヤーはStansfieldであり、同じ長身のJutkiewiczはベンチスタートが多い。スタイル的にカウンターに繋げたいので足元があり、スピード感のあるStansfieldを使うことになるのだ。ウラにボールが流れればチャンスでありスタイル通りの攻撃になる。
逆に、JutkiewiczがFWにいるときは前線で時間を作ることになる。ターゲットとして存在しロングを収められる。しかし、そうなると攻撃が止まってしまう。カウンター要素が消えて遅攻になる。スタイルを実現できない。

安定的な攻撃ではなくワンチャンスを目指す、「数撃ちゃ当たる」という流れになってしまった。


守備

次に守備。
守備隊形は4-2-3-1のミドルブロックが多い印象。そこまで前プレをかけ続けるような高強度な守備ではなく、トップも自制しながら背後の相手アンカーやCHを消すようなやり方も多かった。プレスのタイミングがあるとすれば相手のSBに出たとき。大外ではめ込むような形。相手が繋ぎながらリズムを掴む前にとりにいく。安定してまわさせてしまったら撤退という形へ。
とりきれずに押し込まれるならローブロックといった感じで、基本的にブロックを組んでの対応となる。そして、奪ってからは攻撃のスタイルであるカウンターを発動する。

しかし、ブロックを組んでいるが緩さが目立つ試合が多かった。自陣に押し込まれて相手が保持する中でどこでプレスをかけるのか・どこを狙い目に奪うのかという意思が見られなかった。密集しているなかで誰がプレスに行くのか・カバーするのか。連動性がなくはっきりとした守備ではなかった。
常に同じような守備対応であっという間にスルスルと侵入され崩されという風に。どこをとっても後手に回る試合もあり、そのような現状を改善することもなくとりあえず前半終わらせれば良いという雰囲気だったり。

簡単に深くまで押し込まれることで勝手にラインが下がりローブロックになってしまっている。そうなると、奪ってからカウンターを仕掛けようにもゴールや敵陣まで距離があり速攻を仕掛けるには難しい。だからこそ、プレスを強める位置や状況を定める必要があると思う。


攻撃の細部を見る

ある程度のコンセプトがわかったので、もう少し細かくみる。まずは攻撃。


スタイルへの固執

課題となったのは精度である。カウンターにしろ遅攻にしろチャンスになった回数は少ない。なぜかと考えると、端的な攻撃ばかりに目が向いてしまったからだと考える。

カウンターは相手の枚数関係なく発動し仕掛けるのだが、1v1で奪われたりウラへ通してそれが遮断されてロストしたりとイマイチな攻撃になる。もちろん成功することもあるが、あまり成功シーンを見た印象がない。
ウラばかりに急いでロスト、急いだ結果枚数足りずにロストなど。カウンターだけに意識を置いてしまったのか。近くに預けて失わないことへの考えはあったのか。果たして練習では何をやっていたのか。仮にカウンターを重点的に練習していたとしたら、もっとバリエーションに長けたカウンターが見れたのでは。そしてもっと確実性のある・得点力のある攻撃になっていたのでは。

カウンターを主体的に取り組んでいたが、対戦する相手でブロックを組んで守る相手もいた。これが最大の課題ともいえよう。
カウンタースタイルを継続するが相手によってはその強みを消すようにして対応してくるクラブもあった。

ブロックを組まれると崩せないのだ。カウンターばかりに目が向いているBirminghamはブロックを崩すような細かい攻撃に関してはアイディアがない。なので困難を極めてしまう。どのクラブであってもブロックを崩すことは簡単ではないのだが、Birminghamと同じような順位にいたクラブでもブロックを切り崩せていた。

それがCoventry City。第20節でCoventryと対戦したBirminghamは、ブロックを組んでくるCoventryを崩せないままだった。対して、BirminghamのブロックはCoventryがアイディアを出せば出すほど破壊しゴールを奪った。ゴールにならずともビッグチャンスになるシーンが多くあった。Birminghamの守備の緩さもあったとはいえ、同じような戦術を持ちながら、同じような順位にいたのだが、違いはこのアイディア性だったのである。結局今を見ると(第26節終了時点)、Birminghamは20位でCoventryは8位である。工夫ができるかどうかがブロックを崩せるかどうかに繋がっている。アイディアを持てなかったBirminghamは沈む一方になってしまった。


打開策としての三好康児

三好はビルドアップからアタックへつなげることのできるパイプ役で、DFラインからライン間で引き出してフリーで前を向いて前線へつける。チーム全体がカウンターに急ぐ中で落ち着きを与える役割を担っている。敵陣では仕掛けることやラストパスの精度を買われ、チャンスメイカーとしてもとても重宝された。

しかし、カウンターを重視するなかで三好の存在は重要ではなかった。あくまで、オプションとして見られていたのだろうか。とにかくカウンターを仕掛けたいチーム戦術において、少しでも攻撃に時間のかかるようなプレーは嫌われているように感じる。コンセプトのところでもJutkiewiczが起用されないことも同様な理由と考える。

実際に目についたのは、第16節のSunderland戦。
ライン間で何度もボールを受けて前へつなげようとする三好だったが、ほかの前線のプレイヤーはウラへの意識のみで足元で受けようとするプレイヤーはいなかった。そうして、サポートのない状態で適当にウラへ入れるようなリスキーなプレーを排除した三好は相手に囲まれロスト。カウンターを喰らうことになった。サイドのプレイヤーが孤立するのと同じように三好も孤立するシーンが目立ってしまった。


脳筋的なカウンターサッカーを志向する戦術のなかで、ほかの攻撃方法を無視しインテリ的なプレーが持ち味のプレイヤーを孤立させ、能力を潰し活かしきることができなかった。

三好を持ち上げすぎなようにも見えるが、せっかく能力・技術の高いプレイヤーを活かさないのはどうなのか。ましてや、遅攻に課題を感じている中で遅攻の場面で強みを発揮できるプレイヤーを活用できないのはどうなのか。そういう疑問が残ってしまう。

プランAだけにこだわり、それを遮られたときのプランBは存在しなかった。存在していても無視した代償として、ほとんどのプレイヤーは馴染むこともなく、チームの攻撃の質の低下を露呈した。

コンセプトの中でもここでも書いているが、ホルダーが孤立することが多い。その場面が多い。
そもそもサポートが遅れている。または、カウンターという速さのある攻撃に意識が向いて速さがなくなるサポートということには目が向かなかった。そんな意識が続いたから遅攻時にもサポートの仕方がわからなくなり、攻撃のアイディアの幅が狭まった。


サポートの薄まり

Coventry戦や他のゲームでもそうだが、Leicester戦でサポートの薄さを突かれたシーンがあった。

このゲームでは、何度か前がかりになりチャンスも作れていた。しかし、その攻撃時に詰まってしまうとサポートがないのでホルダーが孤立してしまった。そうして、ホルダーが奪われてカウンターを喰らった。しかも2回も。いずれも失点に繋がってしまったのだ。

攻撃時のサポートの薄さとロスト後のマネジメントがよくなかった。
サポートがいないということはお互いの距離感が悪く(距離が遠い)、奪われた際に1stDFを繰り出せないのだ。プレスに出るプレイヤーがいないのであとはカウンターを喰らうだけになってしまう。DFラインのプレイヤーを出したとしても後方の枚数は攻撃時には減少するため、交わされた時のリスクがあるので容易にプレッシングやディレイに出ることはできない。

プラスしてネガトラも遅く、素早い相手のカウンターアタックに置いていかれるという始末。守備への意識はどれくらいあったのだろうか。

カウンターを喰らう前兆
奪われれば大ピンチ


守備の細部を見る

守備コンセプトはミドルブロックであった。
引くことが多く、それはカウンターというスタイルに合わせたものであると思われる。特にゲームの前半はそれ。


プレス時の問題

ただ、後半序盤はハイプレスを施行し前から奪おうという試合が多くあった。ほとんどのゲームでビハインドして折り返しているので、後半は力を入れなおすということなのかもしれない。

4位以下くらいのクラブ相手ならある程度前プレは効果的で、限定から蹴らせて回収するという流れを構築できるが、1~4位くらいのクラブ相手に同じようにプレスをしても簡単にウラ返されてしまう。これは、最上位のクラブほどプレイヤーひとりひとりの個人技術が高く、どんな状況でもテクニックや連携で脱出する。しかもDFに触られることなく。この差がChampionship内での順位格差になっていると考えられる。今シーズンはそれが顕著で、首位のLeicesterや同じ降格組のLeeds・Southamptonは個人の能力が高い。そういった相手に対して飛び込んでいっても交わされるだけだ。

ルーニーが率いた15戦では上位相手とのゲームが多かったが、前プレが通用しなかったという印象はこのような理由があったからとも考えられる。


しかしながら、「相手が強かった」と片付けてはならない。同じリーグで戦っている以上格など関係ない。

前プレの仕方を見てみると、飛び込んでしまうことやゲートを通されて簡単に前進されることが目についた。
飛び込んでしまうということは、限定や規制を考えずにプレスにいっているということ。+チャレカバの形ではない。普通のプロ相手ならそんなものははがされて当然。特にイングランドのプロリーグなんてなればもっと簡単。

ゲートを通されるということも、2トップとかでプレスにいけばその2枚の”間”というものが存在する。これがゲート。横並びであればあるほどゲートがわかりやすく発生し、相手にとって通しやすくなる。相手CBが保持している時ならアンカーへのコースを空けることになる。すると、アンカーに渡され1stプレスラインは無効化。=プレスの意味をなさない。

ゲートとは?

こういうプレスを前からかけるのなら周りも押し上げなくてはならない。コンパクトさを発揮できるミドルブロックなのに、間延びして連動したプレスがかからなければ意思統一できていないとわかってしまう。そして守備の綻びからチャンスメイクされる。


ブロック時には

ブロック時のことに話を戻すと、ブロック時のプレスがあいまいになっているという特徴があった。
数試合見てもブロック時には狙いどころがないように見えて、プレスに行くのか行かないのかもはっきりしていなかった。こういう時に、サイドで数的優位ならサンドして取りきってみるとか、後ろ向きのホルダーには強くいくとか。やれることはあったし、できるだけ高い位置でボールを奪ってゴールまでの距離を縮めた状態でカウンターにいけたのではと思ってしまう。まずは失点せずに耐えることを優先し、押し込まれることを許容していたのかもしれないが。


基盤的な問題の存在

守備強度の問題が多くみられるなかで、そもそも論で考えるとカウンタースタイルを貫いていたために疲れが生じていたのでは。

ゲーム前半の守備強度の不安定さはここでは置いておき、特に後半での守備強度の問題を見る。

どのプレイヤー・クラブであっても後半に疲れは溜まる。守備の時間が多ければそれはなおさらである。特に60分が過ぎれば疲労というものは増大する。
という中で、Birminghamの場合はカウンター重視のために攻撃にかかる走力と力量が求められる。それを前半からフルに行っていればどんどん体力ゲージは減ってくるものである。そうして、後半に時間が進むにつれて守備の集中力が下がってしまう。また、疲れている状態でカウンターに出ようとしても質が低下してしまいロスト率も上がる。ロストすればまた守備に回るという負の連鎖に陥ってしまう。これが守備強度に関する原因であると思われる。

Coventry戦の後半を見ればわかるが、Birminghamはもうへとへとな状態で守備をしていた。再三のチャンスを浴び、サンドバック状態になった。
GKのRuddyのファインセーブのおかげで大量失点は避けられたが、後半の守備の緩さを露呈したゲームであった。

ところで、前半時の守備強度の低さはもはや守備が下手ということになってしまう…。言い方が悪いがそういう見え方になってしまう。


番外編

三好の役割オーガナイズ

攻撃の項で三好の役割はある程度書いたが、これからチームを引っ張ることになるであろう三好の役割を整理しておきたい。

やはり魅力はチャンスメイク。
ビルドアップ時には後方から引き出して前線とつなぐ。パスだけでなくドリブルもあるので自分の力で打開することもできる。また、パスを引き出す際にはライン間で受けることが多いのだが、これが大事で、相手のマークから離れてフリーな状態で前を向けるので組み立てからアタックへスムーズに繋げられる。これは大事なプレー。
良い展開の要因にもなっており、受ける→預ける→動きなおしてまた受ける→サイドに展開。とチームにはいないタイプのプレーができるのも強み。

今期はここまで、サイドやトップ下でのプレーが多く仕掛けてゴールへ絡むシーンもあった。時にはボックス内へ侵入しクロスやこぼれ球を決めるなど、得点という大きな結果を出すこともできている。

継続的にゲームに出場していたが、ここまで書いているようにチームスタイルにはイマイチあっていない。その中で、オプションとしての役割を果たすことが効果的であった。攻撃の項では、オプションとして使われることをマイナスに受け止めているようだったが、本当はプラスな意味が多く三好自身の持ち味を発揮できていた。その例がLeicester戦。

Leicester戦の右SHの先発はDembele。彼のプレースタイルはウラ抜けである。ウラへのボールを要求し背後へのrunを仕掛ける。ただ、このようなプレーを続けていると疲労や相手の対応(ウラをシャットアウト)で、うまくサイドからの攻撃が機能しなくなる。
そこで、後半途中から投入されたのが三好であった。三好はウラへの抜け出しはなく足元で受けてから時間を作るプレーをした。大胆に仕掛けずに慎重に。Dembeleとは違いのあるプレースタイルといえる。
サイドでタメを作り味方の上がる時間を確保し、チャンスメイクから結果的にゴールが生まれた。しかもファーストプレー。

右サイドでの攻撃が機能しなくなり左サイドで攻撃を組み立てるしかなかった中で、安定してボールを持てる三好を右に配置し左右どちらからも攻撃できる形へ。相手に的を絞らせないと同時に攻撃の幅を広げる。こういうときに、チームスタイルと異なるからこそチームを助けられるのである。

こんなメリットがあるがこれからのチーム作りではどう活かされるのかに注目。


最後に

まさかの転落でルーニーは解任されてしまったが、これはもう過去の話となった。ここからまた立て直してやるしかない。
プレイヤーひとりひとりの能力は高く、タレント力もあるBirmingham。力を活かしながらこれからの躍進に注目したい。

リーグはまだ残り20節。十分に試合数はあるが戦術の落とし込みには時間がない。そんな状況で少しでも上の順位を目指せるかが重要。詰まっているリーグの中で少しでも連勝すればプレーオフも見えてくるか。逆に、また負けを積みかさねれば降格という最大の危機がやってくる。どちらに転ぶかはチーム次第。残り4か月で巻き返しなるか…。


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