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かつての里山に暮らす動植物 その3  樹木 ~低木という生き方~

 さて、新年2024年を迎えたわけだが、我が家では年末から8歳の息子がインフルエンザにかかり、正月になってようやく回復の兆しが見られると、今度は妻がそれを引き継いでしまった。
 そんななか、1日には能登半島の大地震。そこは新婚旅行をした思い出の地だったので、なにか他人ごとではない気がしている今日この頃だ。今年も自分の身に起こる事ごとに、ひとつひとつ丁寧に向き合っていくしかない。

 そんななか、これもまた日々、続けたいと思っている森の記録を2024年も続けていこう。


 ちょうどいま、かつての里山では上のような木の実が見られるのではないだろうか。色鮮やかな花や紅葉した木々の葉のない地味な森のなかで、ひときわ目に鮮やかな真紅の実をつけるアオキの木。温暖な太平洋岸の森でしか見られないかもしれないが、高さ1~2メートルほどの低木で、数多く生える。庭木にもよく使われるので、ご存じの方も多いのでは。深緑の葉に真紅の実がつき、お正月らしい色合い。その名はこの、冬でも青々と茂るたくさんの葉を付けるところからきたのだと思われる。

 冬枯れた森のなかでひときわ目を引く真紅の実だが、これだけ目立っても意外に鳥は見向きもせず、春までずっと実が付いていることが多い。なのに森の地面一帯にこの木が生えていることもあり、その繁殖力に驚かされるのだが、それはタネで増えるよりも、土のなかに地下茎のようなものを伸ばし、どんどん増えていくのだと知った。

 花はほんとうに地味である。大きさも1センチ程度なもの。最初、上の花を見て、4つの雄しべの真ん中の奥の部分に雌しべがあるものと思っていたのだが、聞くところによると、この木は雌雄異株(雄の木と雌の木がある)だという。確かに雌花だけを咲かす木があり、じゃあ、上の写真の花はいったいどうなってるんだと思っていたら、雄花に付いている雌しべは退化したものだということがわかった。つまり、上の写真で雌しべのように見えるものは、退化した雌しべだということだ。

 「なんでわざわざそんなめんどくさい姿をしているの・・」なんて一言も出てきそうなものだが、植物はなるべく自家受精を避ける(子孫が遺伝子的に弱くなってしまうので)ように進んできたことを考えると、アオキも以前は両性花(一つの花に雄しべと雌しべがある)を咲かせていたが、それが次第に雄花と雌花に分かれるように進化してきたのだろう。にしても、退化したものを付けているとは。あっ、そういえば人間の尾骨という骨はかつて人間がサルだった頃のしっぽの名残だと聞いたことがあった・・。こういうものを”痕跡器官”と呼ぶそうです。

 こちらはイヌザンショウ。全体の写真がないのですが、高させいぜい1~2メートルの低木です。ご存じサンショウにわざわざ”イヌ”をくっつけた名前なのですが、イヌとは”ニセモノ”という意味があるので、イヌザンショウとはサンショウの”ニセモノ”というわけです。では、いったいなにが”ニセモノ”なのかというと、おそらくはその香りだと思われます。サンショウとは兄弟のような間柄なので、やはり葉からは強い香りが漂うのですが、それはサンショウに似ているとはいえ、かぐわしいとは言いづらいものです。なので、昔の人はサンショウとこの木を明確に区別して名前をつけたのでしょう。

 サンショウも同様に林のなかに生える低木なのですが、イヌザンショウに比べるとやや深山に生え、かつての里山のような林にはこちらのイヌザンショウが多い気がします。

 花は上のように小さく目だないのですが、アゲハチョウの仲間なんかが蜜を吸いにやってきます。そして、しっかりと葉っぱの裏に卵まで産んでいく。そう、イヌザンショウもまたサンショウ同様、その葉がアゲハチョウの幼虫のエサになるのです。アゲハチョウの幼虫は敵に襲われると鮮やかな触角を立て、同時になんとも言えない強烈な匂いを発しますが、その匂いの元はエサの葉っぱにあったのです。

 今回からはかつての里山に生える低木の紹介です。低木はその名のとおり、低い木のままで一生を過ごし、大きくなることなく高木や中高木の下で育ちます。たくさんの陽を浴びることなく、小さな体のままで生きる低木には、高木や中高木とは違った生き方があるはずです。

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