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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~姿を変え、したたかに生きる~


 さて、今回もかつての里山に生える低木類の続き。
 上は低木中の低木といってもいい、コウヤボウキ。いや、木には見えないけど・・と思われたかもしれませんが、それもそのはず、高さはせいぜい4~50センチ、幹の太さなど1センチもないような”草のような木”なのです。しかも写真のように頂部に花が咲くので、まさに”草”にしか思えません。でも、茎のような部分は確かに木質化しており、冬になると葉が落ちて、春には新芽が出てきます。


 名前の由来は、上の写真ではわかりにくいかもしれませんが、とても細い枝や幹(といっても、両者は区別できないほど細いが)を、高野山では刈り取って集め、束ねてホウキにしたからだそう。確かに一気に刈り取って集められるほどひとところに群生しており、さらに、草ではないのでその枝や幹はそこそこの固さがあってしなりもあり、実際にホウキにしたものを触らしてもらったことがあるのですが、とてもしなやかでいいものでした。ただ、コウヤボウキ自体の大きさがせいぜい4~50センチなので、そんな大きなホウキにはなりません。

 花の特徴からもキクの仲間なのですが、日本のキクの仲間の大半は草の姿をしています。ところが、外国には(じつは小笠原島にもありますが)木のキクの仲間があり、それを見たとき、「キクは草だろ」と思っていた自分の固定概念を壊された思い出があります。このコウヤボウキもなんらかの理由があって、その大半が草の姿をしている日本において、木(といっても限りなく草の姿に近いが)の姿をするようになったのだと考えられます。

 お次は白い花と、写真ではよく見えませんがトゲのある茎が特徴のノイチゴの仲間。こちらも”低木”とは思えないかもしれませんが、茎は冬でも枯れることなく、葉だけを落として寒さに耐えます。

ノイチゴの仲間といってもわが国にはいろいろなノイチゴがあって、上の写真はそのなかの”ニガイチゴ”。低木とはいえ、上に向かって伸びるというよりはトゲのある茎を他の木に絡ませてあちこちに延びていく”ツル植物”に近い姿をしています。

花が咲いてしばらく後にできる果実はご覧のとおり、”森の宝石”といってもいいようなもので、食べると甘酸っぱい果実のなかにコリコリとした苦みのあるタネが入っていてなかなか大人の味わい。鳥や、森の地面を歩き回ってエサを探すイタチ、テン、タヌキなども好物のようです。

 一方、こちらも白い花の咲く”低木”。やはりトゲのある茎を他の木に絡ませて伸びるノイバラです。伸びてもせいぜい数メートルといったところなので”低木”に分類されますが、こちらも限りなく”ツル植物”に近い姿。花の数が多いので開花期にはたくさんの虫たちを引き寄せます。

上はマルハナバチの仲間がやって来ているところ。

 上は果実。なんとなくお気づきかもしれませんが、ノイバラはその名のとおりバラの仲間(バラ科)。そしてひとつ前のニガイチゴもバラ科。ニガイチゴの果実は人間でも食べられるくらいに柔らかな液果(えきか)ですが、ノイバラのほうは固くてそのままでは食べられない堅果(けんか)です。このあたりの違いが同じバラ科でもニガイチゴはキイチゴ属、ノイバラはバラ属、というように分類される際の基準になるわけです。

 さて、今回、紹介した”低木”はどれもいわゆる”木”というものとは離れた姿をしています。最初のコウヤボウキは高させいぜい4~50センチ。そして、幹とはいえないような太さ1センチにも満たない枝のようなもので体を支え、ニガイチゴやノイバラも幹というよりむしろ、トゲのついた茎のようなもので他のものに絡みついて伸びる、という姿をしています。こうしてみると低木とはいえ、その姿は草やツルに近く、それらの区別はとてもあいまいなものであるような気がしてきます。

 このように、どうも植物というのはわたしたち人間が思っているほど木とか草とか、低木だとかツルだとか、ハッキリと区別できるようなものではないようです。ニガイチゴやノイバラのように低木とされながらも、光を求めた結果、トゲを生やし、ツルのようになって伸びるようになったもの、コウヤボウキのようにもともと草のようなものだったものが茎を木質化させ、春には新たに茎を伸ばすことなくその葉だけを広げて生きるようになったもの、低木のなかにはこうした、生き延びるためにしたたかに自分の姿を変えてきたものたちがいるようです。

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