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かつての里山に暮らす動植物 その3  樹木 ~与えられた場所で生きる~



 さて、かつての里山に生える中木の紹介ということで、最後は上のリョウブ。まさに、かつての里山に生える中木の代表といってもいい木です。コナラを中心としたかつての里山でも、アカマツを中心としたかつての里山でも、このリョウブにはよくお目にかかります。そして、その高さもせいぜい4~5メートルといったところで、まさに高木の下に生える”中木”と呼ぶのにふさわしい木です。ちなみに、この”中木”という名称はあまり一般的ではなく、専門書などには”中高木”などと書かれていることが多いようです。わたしの認識では、”低木”と呼ぶには大きくて、”高木”と呼ぶほど大きくはならない(高木は森や林の林冠をなすような木のこと)もののことです。

 さて、上のように樹皮がとても特徴的で、一見、サルスベリのようにも見えるのですが、それとは違う仲間です。しかしながら、古い樹皮がどんどん剝がれていくのか、ほかの木のように樹皮がゴツゴツ、ザラザラしていることがありません。ひょっとしたらどこかで見覚えがあるのではないでしょうか?

 初夏に咲く純白の花は房状になってほんとうにきれい。鮮やかな緑を背景にしたり、眩しい陽の光を反射したりして、さまざまな花が咲く春が過ぎ、一見、寂しくなった初夏の林を彩ってくれます。

 そんなリョウブですが、意外にやせた土地に多く生え、それはこの木がツツジ科だからだと思っていたのですが(ツツジ科の木は土の中の菌類と共生関係を結ぶことが多く、やせた土地にも生えることができる)、いまはリョウブ科に分類されるようになったので、その理由は定かではありません。ただ、とはいえ、ツツジ科とリョウブ科はいまでも近縁でしょうから、ツツジ科のそんな特性を併せ持っているかもしれません。

 芽吹きは上のようにとても鮮やか。はるか昔には飢饉のとき、この新芽を米に混ぜて炊き、ご飯のかさを増やすように国から命令があったのだそう(実際にリョウブ飯と呼ばれていたらしい)。漢字の令法(リョウブ)はそのことを表しているそうです。

 高さ1~2メートルほどのツツジのような低木ではなく、高さ10メートルを越すようなコナラやマツなどの高木でもなく、その中間に枝葉を広げ、生き続けてきた中木のリョウブ。その空間をも上手く利用しながら生物たちはこの地球上で生き続けています。わたしたち人間も与えられた空間で、他の生物たちが暮らす空間を侵すことなく生き続けなければ、やがてこの地球上で生き続けることはできなくなるでしょう。そうした認識を少しでも多くの人がもつことを新年も願いたいと思います。

 今年一年、拙い記事をお読みくださったみなさん、どうもありがとうございました。来年からも森や植物を通して人間の、そして自分の生を考え続けていきたいと思います。

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