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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~種類の多い中・低木~

 さて、今回もかつての里山に生える中・低木の続き。ところで、こうやって書いてきてみると、かつての里山に生える木々は高木よりもやはり、中・低木のほうが種類が多い。これは、かつての里山がまだ植生遷移の途中であることを物語っており、この先、何十年かをかけて森が成熟していくと、ある程度、種類の決まった高木が形づくるうっそうとした森になる。そうすると、あまり光が届かないその森のなかには、多くの中・低木は生えられなくなるだろう。つまり、遷移途中の環境には多くの種類の木が生える「余地」のようなものがあるが、環境が成熟していくと、そこにはある程度限られた種類の木だけが生えるようになるようです。このこともまた面白い現象なので、時間のあるときにゆっくり書いてみたいと思います。
 

 というわけで、そんなかつての里山に生える上の木はハゼノキ。秋になると葉が紅葉してよく目立ちます。逆に言うと、秋まではあまり目を引かず、あるかないかほとんど気にならないような木。大きくてもせいぜい10メートルほどの高さで、陽当たりのいい環境に生えます。
 紅葉した葉はとてもきれいですが、この木、じつはウルシ科の木(といっても、触るとひどくかぶれるわけではありません)。わたしが知っているウルシ科の木はほかに、ヤマウルシ、ツタウルシ、ヌルデなどがあるのですが、どの木も葉が美しく紅葉します。ウルシ科のひとつの特徴でしょうか。

 上はハゼノキの実。表面に白いロウのようなものをまとった実がたわわに付くのですが、昔はこのロウのようなものを溶かして実際にロウソクを作ったのだそう(和蠟燭と呼ばれる)。一度、自分でもチャレンジしてみようかと作り方を調べたことがあったのですが、相当な手間が掛かるようだったので諦めました。

 冬に落ちている鳥のフンなどの中身を調べると、よくこの木のタネが出てくるので、鳥たちの好物なのでしょうが、じつはこの木の実の大半はタネであり、実と呼べるのは上に書いたロウの部分だけです。そしてそのロウの部分は1ミリあるかないかの厚さしかありません。つまり、鳥たちはこの厚さ1ミリあるかないかのロウの部分だけを目当てにこの木の実を食べ、そしてフンとしてタネを排出することになります。この1ミリあるかないかのロウの部分にはよほどの栄養が含まれているのでしょうか。でなければ、なにかしらの理由があって鳥たちが思わず口にしてしまう、いずれにしろ、ハゼノキにとってはそれほど多くの実の部分を作ることなしにその子孫(タネ)を鳥たちに運んでもらっているといえるでしょう。たいへん効率のいい結実法だと言えます。

上はジョウビタキという小鳥のフンをきれいに洗い流したものだが、
一番大きくてツヤツヤとしたものがハゼノキのタネ


 上がハゼノキの花。人間には目立ちませんねえ。

 さて、こちらはヒサカキという木の花。枝にびっしりと付いていて、集合体恐怖症の人にはちょっときついのかも・・。かつての里山のなかにはけっこうな数が生えているので、開花時期の早春には林のなかがこの木の花の匂いで満たされることがよくあります。その匂いは(人によって違うのですが)ガスのようであり、コショウのようであり、インスタントラーメンの粉末スープのよう、という人もいるのですが、つまり、あまりいいものではない。しかし、これだけの花の数なので、とにかく林のなかやときには林の外にいても風に乗って香りが漂ってきます。あまりいいものとは言えないとはいえ、ヒサカキの花の匂いを嗅ぐと春の訪れを感じます。

 木は大きくても2~3メートルなのですが繁殖力が強いのか、かつての里山では場所によって、林のなかが一面、このヒサカキに覆われている、なんてこともあるぐらい。ただ、ハゼノキとは違い、陽当たりのいい場所にはあまり生えておらず、上部を他の木々の枝葉に覆われた林の”なか”に生えていることが多い。これは、写真のような厚い葉(常緑葉)で水分の蒸散を抑え、少ない光の下でも少しづつ光合成をし、ゆっくりと成長していく生き方をしているからでしょう。

 ヒサカキという名前は否サカキなのか、緋サカキなのかわかりませんが、神道のお供え物にするサカキもこのヒサカキも同じモッコク科です。常緑樹なので冬でも雨の多い、温暖なおもに太平洋岸のかつての里山でよく見かけます。

 
 

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