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第3回・数学は苦手だけど「ばらまき批判」に関する論争を理解したい人のために ~ドーマー条件の数式の手ほどき~

今回は、《【藤井聡】財政規律のための「ドーマー条件」の性質について》(新経世済民新聞)を取り上げます。

0.初めて読まれる方に向けた前書き

(第1~2回と同じ内容ですので、それらを読んでいただいた方は2に飛んでください。)

矢野財務事務次官の寄稿が話題になっていますね。

反論記事等もYahooでよく見かけますが、その際のキーワードの一つが「ドーマー条件」(「ドーマーの定理」とも)です。
小難しい説明と一緒に数式が出てくると、煙に巻かれてしまいそうになりますが、実は数式そのものはいたって簡単です。

正確な理解は建設的な議論の前提ですので、ドーマー条件の説明で出てくる「数式」を思いきりかみ砕いて説明してみます。中1レベルの数学が分かる人には理解できる説明を目指します。

想定読者はタイトルに記載の通り、「関心はあるが、数式を見ただけで嫌になる」という方です。

想定読者の方はこのまま読み進めてください。
想定読者よりも豊富な知識をお持ちの方は、「初心者への説明はここまで詳しくやるのか」(あるいは、「そこまでは必要ないんじゃないか」とか「もっと詳しくやらないと!」)という視点でご高覧いただければ幸いです。

なお、上記が本記事の執筆趣旨ですので、矢野氏や反論者の主張自体は取り上げません。

また、「ドーマー条件」そのものの詳細な説明も行いません。
「よくわからない数式で煙に巻かれる」ことを避けるための記事です。

1.これまでの流れ

第1回では、わかりやすさを重視して、「プライマリーバランス(PB;当年度の収支)がゼロの場合」の数式解説を行いました。

第2回では、「プライマリーバランス(PB;当年度の収支)がゼロの場合」という条件を取り払い、一般的な形での数式解説を行いました。

2.今回からの内容

数式の解説自体は第2回で完了しているのですが、実は各種記事で提示されるドーマー条件の数式は、第2回で示したものと異なっていることが少なくありません。

単なる表記上の差異であることもあれば、提示された数式が誤っていたり、「誤りとまでは言えないが説明不足」であることもあります。

そこで、今回からはいくつかの実例を用いて、各種記事で提示されている数式と、第2回で示した数式の関係・異同を解説します。

3.比較解説 実例1

今回は、《【藤井聡】財政規律のための「ドーマー条件」の性質について》(新経世済民新聞)https://38news.jp/archives/04878 を取り上げます。

第1回でも紹介した記事です。この記事は、説明自体は整然としていてわかりやすいと思いますが、数式をテキストベースで無理やり書いているので、数式部分がかなり読みにくいのが難点です。

そこで今回はテキストベースの数式を見やすい形式に直しつつ、第2回の数式と比較していきます。

なお、結論を先に言うと、この記事の数式は、第2回の数式と完全に整合的です。突っ込みどころは特にありません。

以下、画像貼り付けの形で《【藤井聡】財政規律のための「ドーマー条件」の性質について》の一部を引用します。

画像1

数式で書くと、こうですね。

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第2回の数式ではこうです。

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ほぼ同じですが、PBの前の符号が逆になっていますね。

これは定義の問題であり、どちらも正しく、同じことを言っています。

第2回の数式では「PBの黒字⇒プラス表示」「PBの赤字⇒マイナス表示」という標準的表記をしています。PBが黒字であれば債務残高は減少するので、数式ではPBの前にマイナスがついています。

一方、実例1では「ここにPBは、今年の政府支出の赤字額(ただし利払いを除く)を意味します」という定義づけを行っています。「PBの黒字⇒マイナス表示」「PBの赤字⇒プラス表示」となります。実際にはPBは赤字が続いているので、この方が説明しやすいという考えに基づくものでしょう。

第2回の数式と実例1では、「PB」の定義が真逆なので数式上、PBの前につく記号もプラスマイナスが逆になっています。

表にまとめると、このようになります。

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繰り返しますが、内容は全く同じであり、差はありません。

ただし、プライマリーバランスが「黒字の時にマイナスで表示される」というのは、直感に反しており、理解の妨げになることは否めませんが。

次に、GDPの側を見てみましょう。

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数式表記すると、こうなります。

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第2回の数式ではこうです。

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完全に同じ内容です。

次に、債務対GDP比を見ます。

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ややこしいですね。見やすい分数形式にしましょう。

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第2回の数式ではこうです。

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これは、実例1の1行目と全く同じ内容ですね。(PBの前の符号が違うのは前述の理由によるものです)

実例1で数式として明示しているのはここまでです。
第2回の下記数式に対応する数式は示されていませんので、下記数式に関する比較はありません。

(実例1の記事では、ここから先は言葉で説明しています。説明の内容・趣旨は第2回で行った下記数式の解説と整合的なものです。)

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4.今回のポイントのおさらい

今回の比較においては、PBの前の符号がかたや「+」、かたや「ー」となっていましたが、実は定義の仕方が異なっているだけであり、どちらも正しいというのがポイントですね。

数式部分だけを比較して、「こっち(あっち)のは間違いだ!」と叫ぶと早とちりになってしまいます。

今回の記事は以上です。
読んでいただき、ありがとうございました。


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