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工場長、工場管理者の仕事

それは「相互信頼」と「万事徹底」の実践です。そのために必要なのは「わが身を惜しむなという気構え」です。これまで紹介してきた予算編成と月次業績フォローも経営管理における徹底と言えると思いますが、ここでは日々の現場活動について書いてみました。

私のいた工場にはある標語看板が立っていました。そこには、「顧客が安心して使え、喜びを感じる製品を世に送ろう」とありました。私はこの言葉が大好きでした。工場長になってからは、山本五十六の名言「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ、・・・」が好きでした。これらの名言が自分の行動指針となりました。

1.相互信頼

私の工場管理者としての仕事は、技術管理課長、製造部長、工場長でした。「相互信頼」を得るためには工場管理者は自分に厳しくなければなりません。そして、業績以前に部下や従業員の安全と作業環境、品質管理を重視します。毎朝始業前と時間ができたとき製造現場を歩き、作業者やリーダーと情報交換します。特に、生産性や品質と並んでやりづらい作業について聞きます。現場で生産や品質の問題が発生して、一番辛いのは作業者なんだと思えば現場との信頼関係が生まれます。質問はしても、現場を疑って掛かってはいけません。原因の「なぜなぜ」をやれば、最後には工場長や社長に問題があるのですから。

現場を歩いて作業者から異常の予知に関する情報が得られたときは感謝の気持ちで調査します。現場作業者の問い合わせやお願い事項には必ずすぐに何かしら回答します。管理者が現場に反応しないのに、管理者の言うことを現場がすぐに対応すると思う方がどうかしています。現場を歩いても静的観察である「目に見える」ところからは問題が見つかりません。「動的観察」と「裏方」、「非定常作業」にヒントがあります。「やりにくい作業」は、事故、不良、生産低下の原因です。

屋外のコンプレッサーや排気設備、水処理設備の問題など、ユーテイリテイに関するトラブルはライン停止や環境事故につながるので、工場長は設備管理者と月に1回は点検したいです。また、固定費的エネルギーの管理にも気を付けます。クリーンルームは作業がなくても大きな電気代を消費します。一発段取り、ワンタッチ交換、外段取り、動線最適化など、現場リーダーと情報交換します。特に、改善活動などに関する現場の自慢話には耳を傾け、ほめます。

技術課長だった頃、出荷した半導体パッケージ基板の端子に打ったワイヤーボンドがはずれてしまう品質事故が顧客で発生しました。外観検査員数名に検査主任を付け顧客工場に送りました。彼らは深夜まで実体顕微鏡で金めっき端子を観察選別していましたが、顧客の組立スピードに追い付けず良品基板を準備できません。SOSの電話により、私が昼勤の検査員数名を連れて飛んで夜9時過ぎに訪問したら、顧客の品質管理課長が「交代して明日の朝まで検査しろ」と言います。私は昼勤の作業者を連れてきたので、すぐに徹夜で作業させるのは無理だと断りましたが、彼は追い詰められているのか引き下がりません。私も怒り「何かあったら、あなた、労働基準監督署に訴えますよ」なんて言って、その夜は午前零時にビジネスホテルに全検査員を連れて戻り、午前零時の朝礼を暗いロビーでしました。全員に感謝すること、安全・健康を作業に優先すること、これを守りなにか問題があっても全責任を私がとることを伝えました。この午前零時の朝礼は後々まで語り継がれたと聞かされました。無鉄砲なことをやる管理者でしたが、気合は言葉に勝るとはこのことか、顧客の品質管理課長は翌朝、「今夜から自分が夜勤に入ります」と言ってくれました。後日談ですが、我々の知らないところで顧客の原価低減活動がありワイヤーボンドのワイヤー径が小さくなっていたため、これまで実績のあった端子表面の凹凸レベルでは問題が生じていたことが分かり、無電解下地ニッケルめっきの析出条件を変更して改善しました。このとき以来、顧客は条件変更の度、私が了解していればやって良いというようになったそうです。

2.万事徹底

「万事徹底」の話で記憶に残るのは、工場長になったころ休日にゴルフに行ったとき、「携帯電話をゴルフのときも身に付けていろ」と先輩に指導されたことでした。工場で異常発生時、電話にすぐに出て指示を出すためでした。寝るときはもちろん、24時間、365日、常に連絡が取れることを徹底しました。震度4以上の地震が発生したら必ず当直が現場点検し異常の有無を電話で報告してきました。これは本社事業部長にも伝達しました。事業部長も電話して出なかったことはありませんでした。社長の指示で、飛行機で出張するときは幹部は必ず別々の便で飛びました。誰かが生き残るようにでした。

製造現場は作業基準に従います。作業基準に問題があったら、その場で作業基準を直し、作業基準に従って作業します。そのため、作業基準を直す権限のある製造課長、技術課長、品証課長は同じ事務所に居て、現場から品質問題発生の情報があると、全ての仕事を中断し5分以内に現場に集合し、暫定処置・対策を1時間以内に決め、従来作業基準に手書きで修正を加えその場でISOの三権分立に従い3課長がサインして発行しました。これで、不良は1ロット限りとし不良を作り続けないこと、設備停止時間を最短にすることができ、現場作業者に安心感を与えました。

異常時は直ちに上長に報告すること、上長も困れば上位上長に報告すること、最後は工場長です。工場長はいつも覚悟を持って仕事にあたります。工場長の全ての時間は工場のためにあります。東日本大震災の時も娘が下宿近くの避難所でおにぎりをもらって無事でいることを電話で確認した後は、工場の復旧のため、何事あっても最後の責任をとるために昼夜現場にいました。わが身を惜しんではトップは務まらないです。

人によっては時代錯誤と言うかも知れませんが、これを実践している工場がいくつもあることを、今も実感しています。


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