アメリカ民主党支持者の苦悩

アメリカの著名な心理学者、スティーブン・ピンカー氏が今日リツイートしていたAndrew Sullivanさんという方のブログ記事が目を惹いた。今のままでは民主党は選挙に負けてしまうというものである。以下要旨を纏めてみた。今のままでは民主党が選挙に勝つことは難しいという主旨であり、今米国内で起きつつある過激行動や極端な歴史観の見直しの動きに対しては、バイデン陣営は一線を画す姿勢が必要だという意見。

ジョージ・フロイト氏が殺害されたことをきっかけに米国全土に広まったBlack Life Matters(BLM)の動きについては、過去の奴隷制度や人種隔離政策に根差す差別意識が今も残っていることに対する抗議として共感する。しかし、BLM運動が過激になってきて、国民が従来誇りにしてきた歴史を人種差別主義に塗れた歴史に塗り替えようという動きになったり、実際には世界でも類をみない人種の坩堝なのに白人至上主義の国と形容しようという動きが強まっている現状に対しては極端すぎると嫌悪を覚え、民主党副大統領候補のハリス氏も「米国では黒人が一人の人間として扱われてこなかったのが現実」と主張し続けている点にも辟易している。

特に、このような主張を訴える上では法と秩序を犠牲にしてもよいという考えには賛同できず暴動や無法は悪である。これを止めることが出来ない公権力はその正統性を失い、暴力が連鎖を呼び拡大していく中、リベラルがこの動きを止めることが出来なければ、ファシストが止めることになるだろう。

民主党が大統領選挙に向け一つに纏まろうとしている中、今までとは異なる政治信条(極左)とも結びついていることも影響しているが、まるで白人至上主義者自身が提唱するような極端な歴史観を持ち出してきて、これを恥ずべき歴史として認識すべきだと、民主党系メディア自身が煽っている。この動きは共和党に逆手に取られており、トランプは昨晩のスピーチで、「国を分裂させることにここまで熱心な民主党は、この国をどのように導くつもりなのか」という、自分のことを棚に上げたような発言をしているが、本質的には的を射ている。

共和党の党大会では、古き良きアメリカを前面に出し、ペンス副大統領は演説で1960年代のディズニーの世界を現代に焼き直したような将来を示した。このようなノスタルジックな内容は一部からは軽蔑されるかもしれないが、アメリカの歴史が極左勢力に書き換えられようとしている時、却って一部の人々には癒しを与える効果があるだろう。

(WEBでみつけたペンス演説の一部を抜粋。アメリカ本来の価値観に立ち、共和・民主ということではなく、このアメリカのまま将来にバトンを繋いでいこうという内容。確かに分裂を煽る内容とは対照的。)


ニューヨークタイムスの編集員が、ニューヨークでの暴動を止めるために連邦政府が介入すべきだと言う共和党系のオピニオンが掲載され、世間より強い非難を浴びたことが原因で辞職する事件が最近あった。これは、ニューヨークタイムス内でも、警察は自由社会に規律をもたらすものではなく、白人至上主義を強化するものだという意見が強くなったことの表れでもある。この事件はきっかけに、無秩序と混乱が社会的に容認されるようになってきた。

トランプはこのような混乱が自らが行う権威主義的政治にとって有利だということを理解、これらの暴動に対しては軍の介入も辞さない姿勢を示す一方、白人至上主義者の過激行動は見逃しており、自ら混乱を煽っている。また、米国では多くの高卒の白人男性が警察や軍隊に入っており、彼らを全面的に支援する姿勢のトランプを大いに支持している。極左勢力は警察を無差別に非難し大幅に縮小することを主張、民主党の一部もこれに賛同する動きを見せているが、民主党として全面的にこの動きに乗ることは選挙に於ける自殺行為になりかねず注意が必要である。

今の米国は大戦前のワイマールのような状態だ。中央政府が機能せず、極右・極左の過激派が争い、中道右派・左派は黙っているものの内心お互いに憎悪を募らせた。

今の米国では、失業者が増え、コロナのために外出もできず、大いにフラストレーションがたまっている。そのような中、テレビに映る暴動や、これを鎮圧できない政府というものは、いらいらさせるノイズのようなものであり、この不快な状態を出てきて踏みつぶしてくれるような人、いわばトランプのように自由民主主義の本来の規範を踏みにじってでも、そうしてくれる人を望む向きは少なくないだろう。

私(著者)はかつて、トランプの大統領選出は、民主主義が絶滅することに等しい出来事だと主張し失笑を買ったが、今はまさにそのような時代となっている。群衆がプロパガンダを掲げ、脅し合い、人種差別的な嫌悪感をぶつけあう。規範はないがしろにされる。リベラルが非リベラルに、保守派は革命的になる。共和党の党大会ではもはや新しい政治のプラットフォームをつくる素振りすらせず、将来的には自分のファミリーに仕事を引き継ごうと考えるリーダーに全てを託す。今の状況は、もう我々の理解を超えた領域に入ってしまっていると言えるだろう。

選挙で僅差でトランプが破れた場合、その敗北を認めないであろう。若し負けた場合でも、支持者と結託し外から政権を揺るがそうとするかもしれない。

一方のバイデンは弱腰の党人であり、党を纏める上でやむを得ない面はあるものの、極左勢力の主張する点に今のところ全て妥協していきている。彼が大統領になったらその姿勢が変わるだろうと信じるのは馬鹿げているだろう。それでもアメリカを元に戻すための選択肢はバイデンしかない。先週、バイデン及び党は暴動を容認するような態度を取ってしまったが、クリントン時代のSister Souljah Momentのような工夫が必要だろう。(党内の過激派に対して公の場で巧妙かつ明確に反対の姿勢を取ること)


以上が要旨となる。日本は米国のように複雑な歴史背景は無いものの、今は格差や世代間での分断がコロナ問題によって拍車が掛かっている面はある。いかに正当な理由があったとしても、分断を強めるような動きは一国としては百害あって一利なし。我々国民一人一人が、分断に繋がるようなモノ・コトに注意を払い、決してそれを助長することなく、極力潰していく努力をすることが大切なのだろうと思った。

大義を語る人間は危険だと思った方が良い。

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