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ただ楽したいだけ

 人生に挫折はつきものだ。あらかじめ立てた目標を達成できる確率というものはたかが知れている。故に、新年の抱負を決めるということは“ほぼ達成できない目標を決める”、ということと同義である。ならばわざわざ新年の抱負などを決める意味はあるだろうか?

 ということで私は2023年の抱負を「手を抜いて生きる」というものに決めた。
 何故ならば、こうすれば一年を振り返った時に“必ず今年の抱負が達成される”からである。

 私の性格上、手を抜かずきっちりとした生活を送り続けることはまず不可能だ。朝は起きれない、夜は無駄に遅くまで起きている、必ずお腹を壊すとわかっているのにコーヒーをガブ飲みする、コンビニの成人誌コーナーのエリアを意味もなく何往復もする(※しません)など、私の行動はおおよそ社会性に欠けているものが多い。

 それだけではなく、資格勉強を始めると言って始めなかったり、転職活動をすると言ってしなかったり、インターネットをやめると決めてやめなかったりというような虚言癖、サボり癖も見受けられる(他人事)。要は人並みに生きることができないのだ。

 そうした私の特性上、一年間手を抜かずに過ごしきるということはありえない。故に、それを逆手にとれば「手を抜いて生きる」という目標は振り返った時に必ず達成されるのである。万が一、手を抜かずにきちんと過ごしてしまったとしても特に罪悪感はないから問題ない。
 あまりに都合のよすぎる目標設定だと思われるだろう。しかし、それで良いのだ。逆にそうでないと達成の見込みがある抱負として成立しない。
 あえて頑張らない、適当に生きる―――――この志の低すぎる目標があれば、暗雲立ちこめる2023年の日本社会をなんとか生き抜いていけそうな気がしないでもない。

 こういう思考の背景には、もしかしたら最近読んだ「あやうく一生懸命生きるところだった」という本の存在もあるのかもしれない。


 この本には「人生の満足度が低いのは理想と現実のギャップが大きすぎるから。幸せになりたいなら自力で変更可能な理想の方を下げれば良い」みたいなことが書いてあった(はず)が、それに則ればすべてのハードルを悉く下げていくことで人生はパラダイス♪みたいな幸せな錯覚に陥ることが可能となるわけである。


 この世界は当然ながら、真面目にひたむきに何かに取り組みがちな人間との相性が最悪だ。努力は報われず、忍耐は終わりを知らず、虚しさは消えず……何かを一生懸命やればやるほど損をする。もしくは損をしているような気分になる。彼らの眼前には、この世が運に支配されているという救いようのない現実が重くそびえ立つ。
 無論、一生懸命何かをやって報われるというようなサクセスストーリーが存在することに異を唱えるわけではない。成功の陰には努力や失敗が存在するということを否定はしない。ただ、その努力や失敗が成功へと昇華する確率が著しく低いというだけだ。

 なぜこのようなことが起きるのか?なぜ努力や失敗が成功へと昇華されない不満が渦巻いてしまうのか?
 答えは簡単、目標のハードルが高すぎるからだ。もしくは身の丈に合っていない高さのハードルを自分自身で勝手にこしらえてしまっているから、と言い換えてもいいだろう。

 たとえば、これは極端な例だが仮に「1+1=」の解を求めることを“目標”として設定したとしよう。恐ろしいほどに低いハードル設定の例だ。これを徐々に「38+137=」、「1996+20315」、「300096×89991+495+2017」というように解を導き出すまでに様々な工程が必要となるようにハードル設定を上げていくと、正しい解を導き出すのは困難になっていく。もしくは困難にならずとも解を導き出すまでの所要時間は増えていく。

 つまり何が言いたいかというと、算数が苦手な人間が難しい数式の解を求めようとすることは恐ろしく労力を要する、ということである。当たり前と言えば当たり前のことだが、皮肉なことに多くの真面目すぎる人間は解けもしない難解な数式を解くことを自らに課したがる傾向にある。私を含めて。

 なかなか達成感が味わえない、幸福感を味わうことが出来ない現象は、大体このハードルの高さに起因する。
 目標は高ければ高いほど燃えるという熱血漢みたいな考え方の人間もいるかもしれないが、大抵は高すぎる目標に辟易してかなり短いスパンでガス欠になってしまうのが関の山である。

 だから今年はあえて志を低くして生きようと思う。今年は、というか毎年志の低い生き方をしているが。



 とここまで書いてきたが、改めて読み返してみると算数のくだりは必要だっただろうか?もう早速「ひねりの効いた例えを繰り出してそれっぽい識者感を出す」というハードルの高い目標を自分で勝手に設定し、あえなく自滅していることは否めない。



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