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幸福日和 #099「価値の交差点で」

人は自分の価値観だけを頼りに生きているようで、
実は多くの人びとの価値観に
影響を受けながら生きているのだと思う。

孤島にいる今、人々と距離をとりながら、
そうした価値観に触れられてこれたことが
かけがえのない財産になっていると実感しています。

例えば職場。

人は働くために、一つの場所に向かうわけだけれど、
そこは、違う価値観や世代が交わる交差点でもある。

もちろん、日本に居た頃はそんな冷静な目で
職場での日常を眺めていたわけではありません。
働いていた当時は、仕事で人間関係のストレスに
悩まされたこともありました。

それでも、組織から離れ、孤島にいる今は、
あの場で多くの人と出会い、価値観に触れられたからこそ
いろいろな視点で冷静に世の中を眺められている気がするんです。

そうした別の価値観に触れることがなければ、
自分勝手な行動で、誰かを気づつけることを
していたのかもしれませんしね、、、、。

✳︎ ✳︎ ✳︎ 

いつだったか、両親が僕の進学のことで
対立していたことがあったんです。

父は僕に英才教育をさせたかったらしく、
家から数時間も離れた進学校に行かせたいと考えていたんですね。
下宿させてでも、同じ価値観や目標に向かう同級生と学ぶことこそが
僕の教育、将来のために良いことだと考えていたんです。

そのいっぽうで、
母親は僕を地元の公立学校に通わせることを譲りませんでした。
その理由は決して経済的な理由や距離的な問題ではなく、
公立学校の方が、色々な立場の人と触れ合える。
後の僕の人生のためには、
そのほうがいいのだと思っていたみたいなんですね。

両親の間で、
そんな話し合いがなされていることも知らず、
僕は自分の意思で「家から近い」という理由で、
自ら公立学校への進学を選んだわけです。
母があの時、安堵の表情をしていた理由が、
今になってわかった気がしました。

とても小さな学校だったけれど、
過疎化が進んだ田舎だったこともあって近所の村や町から通う子もいた。
農家の子供もいれば、商家やお役所の子供もいる。
家の所得も違えば、家柄も価値観も違うことが、
子供の僕でも、着ている洋服でわかってしまうほどでした。

また、近所には身寄りのない子供を引き取っていた
児童寮という施設もあって
そこから通う同級生もたくさんいた。

彼ら彼女らとの交流を通じて、
「自分には親がいる」という当たり前のことが、
どれだけ恵まれたことなのか、幼なながらにも感じたものです。

今思い返してみると、
あの時、学校で様々な価値観を持つ同級生と触れあったことが、
社会に出た時に大いに役立った気がするんです。

父は学校に通うことを人生の通過点、
一本の道のように眺めていたのだろうけれど、
母はその同じ場所を、あらゆる人々の
価値観が交わる交差点として眺めていたのだと思う。

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それから数年の月日が経ち、
僕は社会人になっていました。

田舎育ちの僕には、
都会での労働環境や人間関係はあまりに過酷なもので、
そうした状況の中で時折、自分を取り戻すために故郷にもどっては
いっときの安らぎを得てもいました。

故郷の実家で、
母とコーヒーを飲みながら、
昔を懐かしんで言ってくれた一言が
今でも忘れられないんです。

「人間関係は複雑だけれど、、、」
「それって多くの価値観に触れられる機会なんじゃない?」

母らしい励ましだなと思ったし、
僕の進学の時、あれだけ父の意見に反対していた
母のおもいに、あらためて触れた気もしました。

色々な価値観に触れるということが、
どれだけ大切なことか。

今になって実感しているんです。

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現代はそれぞれの価値観がぶつかり合う場所というものが
少ないような気もします。

昔のように、ムラ社会でもないし、
生涯ひとつの場所に居続ける時代でもない。

自分の気の合う人とだけ交わればいいし、
好きなことだけで繋がってもいられる。
見たくないものは、見なくてもいい時代。

でもそれは、
長い人生の中で本当に良いことなのだろうか。
ふとそんなことも考えます。

確かに人間関係は煩わしい、
そんなところに気を使い、労力を使い、
時間を費やすことが無駄に思うこともあるのかもしれない。

それでも、
長い道のりの中では、やはり価値の交わる交差点にでて、
多くの生き方に触れるからこそ、自分が歩んできた道と、
これから歩むべき道がよく見えるのではないかともおもう。

時に、誰かの熱量に圧倒されることがあるかもしれません。
思わず拒絶してしまう何かに触れてしまうかもしれません。
そんな中で、心に染み入るものとの出会いもあるでしょう。

自分の信じる一本道を歩みながらも、
時には、多くの道の交わる場所で自分を晒してみる。

自分を見つめ直す、
良い機会なるとも思うんです。

最後までお読みいただきありがとうございます。毎日時間を積み重ねながら、この場所から多くの人の毎日に影響を与えるものを発信できたらと。みなさんの良き日々を願って。