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Please call me

会うことのできない恋人がいた。
もうずっと前・・・
出会いは、パソコン通信の「メールフレンド募集」という掲示板で、
『ちょっとそこのお姉さん!』と呼びかけられて
『はぁい、なあに!』というレスを送ってしまったことから。

彼は24歳、秋田に住むサラリーマンで、
趣味でバンドをやっているとのこと。
「いや、最近煮つまっててさ」
いきなりの「ため口」
知らない子犬が尻尾をふりながら、急に腕に飛び込んできたような
嬉しい驚きだった。

わたしはといえば、彼より5歳も年上で、職場の上司との恋に疲れてしまいもう別れよう、いや、と迷う日々を送っていた。

次々と送られてくる自作、という英語交じりの恋の歌
意味不明だったり。
ちょっとここ変・・・とダメ出ししたり・・・
でも切ない恋の気分たっぷりだった。

Telephone my number
Hey,You! look up my number
telephone and dial now
Just what's my number
息もできない苦しい oh, PLease call me
汗がにじむ助けて oh, PLease call me
お前の声が恋しいBaby!!
一人じゃ耐えれない!!

ここまで言われると心が揺らいだ。わたしに言ってるんじゃないのに。

絵を描くのが好きとメールしたら
「添付ファイルばっちりのメール待ってるよ」の返事
送ってみると
「グッドです」

彼のホームページの表紙を担当することになってしまった。
ホームページの絵は人気で掲示板には女の子たちが競って書き込んだ。

「キャー!トップの絵、ス・テ・キ 💛」
「俺が描いてるんだよ」のレス。

描いてるのは、わたしなのに!わたしって随分なお人よし・・・

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わたしもホームページを作るようになり、彼が毎月サウンドファイルを
送ってくれるようになったが、遅れたり、忘れたり・・・
「わがままなロマンチスト」という自己紹介にピッタリだった。
「東京に出張で行くから会おう」と言われたこともあったが
彼の周りの女性たちがほの見えて、ためらった末、答えを伸ばした。

1年たったころ、わたしの送ったメールが受取人不明で戻ってきてしまった。彼がプロバイダーを変えたのだ。
目の前真っ暗、寂しくて、怒りもこみあげて・・・

二か月ぶりに来たメールが次のよう

26にもなった大人がおかしいんだけど
俺、恋をしてさ
初恋みたいに舞い上がっちまった
彼女、結婚してて、最初なかなか会えなかったけど
やっと一緒に住めるようになってさ
俺、このままでいいって言ったけど
彼女が「離婚はできないしこのままじゃあなたに悪い」って
そのうち、だんなさんが迎えに来て・・・
「いい友だちでいよう」
っていうのが精いっぱいの別れの言葉で・・・
俺、何もかも捨てて彼女とってのができなくってさ
まだまだ子供だよね。
ギター弾く気にもなれなくて弦もさびたまま・・・
ここまで話したの、君だけだよ

最後の殺し文句にまたまた心が揺れたが・・・
もう、おわりのとき
会わないで終わる恋もいいかもしれない。心がシン、と鎮まるような
気がした。

ちょうど、ロンドン旅行を予定していたので、
「旅に出るので、しばらく留守にします」
とメールし、彼には二度と連絡をしなかった。

彼は念願のデビューを果たしたのだろうか?
わたしのために焼いた、と送ってくれたCDの声、久しぶりに
聞いてみた。ちょっとハスキーな若い声・・・

Telephone my number
Hey,You! look up my number
telephone and dial now

               完










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