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無責任なクリエイションから見えた、遊びの真髄

2020年6月13日。
俳優兼演劇ワークショップファシリテーターの菊池ゆみこさんをゲスト講師にむかえ、オンラインワークショップ「UMUMがっこう-物語を紡ごう-」を開催しました。
この記事では、その企画の振り返りを綴ります。

1.ふたつの領域の重なり

「演劇」と「アート」というそれぞれのフィールドから、これまで菊池さんと何度かワークショップをご一緒させていただいてきました。
菊池さんが講師を務める中学校の演劇の授業で、演じる生徒自身が必要な小道具を考え、デザインし、作る授業をしたり
高校での授業では、抽象的なイメージを「絵」と「演劇」の二つで表現することに挑戦したり。

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どの授業も、生徒一人一人の感性に問いかける授業。
私たちが大切にしていたのは、生徒に完成度の高い作品を作らせることではなく
「五感を使うこと」
「違いを面白がること」
「正解がないことを楽しむこと」
という表現活動の普遍的な魅力を伝えることでした。

そして、この魅力をより多くの人に伝えたい、と
アートと演劇の面白さを織り交ぜた場創りを、共に考え始めます。


2.オンラインウェーブと抵抗感

わたしたちが自主企画としてワークショップを企て始めた頃、やってきたコロナ禍とオンラインウェーブ。
ふたりで「オンラインでできることはなんだろう?」と頭を悩ませました。

さらに、大きな声を出したり、人前で発表するというイメージの「演劇」と
絵がうまくないと楽しめない、よくわからないイメージの「アート」。
それぞれの抵抗感を超えてシンプルに
「五感を使うこと」
「違いを面白がること」
「正解がないことを楽しむこと」
を、モニターを介して伝えるにはどうしたらよいだろう?

UMUMで取り組んでいたオンラインでの肌感と
私たちが大事にしたいことの重なりを探りながら話し合いをすすめ
「自粛期間で固まっている感覚を、柔らかくするワークショップをやろう!」となって生まれたのが「UMUMがっこう特別授業-物語を紡ごう!-」でした。


3.無責任な、2つのクリエイション

迎えたワークショップ当日。
この日はアイスブレイク後、メインアクティビティを2つ行いました。

①自動新生物製造機・・自分の中の偶然を絵にしよう・物語を想像しよう
②シェアード・ストーリー・・人からもらう思いもよらない発想を楽しんで受け止めよう

菊池さん曰く、いずれも演劇の世界でお稽古を始める前に行う「シアターゲーム」や「エチュード」をベースにしたもの。
体や気持ちをほぐしたり、自分の感覚を研ぎすませたり、共演する人とよい関係を作るための「遊び」です。


①の自動新生物製造機は、この「遊び」にアートの要素を組み合わせました。
線、点、形など感覚で描いたパーツを選択肢とし、偶然性を使ってそれらを組み合わせ、新生物をつくります。
どんな生き物になるか、自分の描いた線が何になるのか最後までわかりません。
紙の上に姿を現す、なんだかよくわからない新生物を前に、みんなニヤニヤ。
なんだかかわいかったり、家族に似ていたり、声が聞こえてきたり。
「ビスケットが好きそう!」「頭良さそう!」など
その新生物の視覚情報から五感をひろげ、性格や生息地などをイメージし、世界に一つのキャラクターができあがりました。

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続いて②シェアード・ストーリーでは、ファシリテーターの菊池さんが設定したテーマを起点に、一人一つづつ発した単語をつなげていき、物語を紡ぎます。
「山のぼり」というテーマに対し
「ある朝」
「わたしは」
「思いつきました。」
「あ!」
「山に」
「行ってみよう!」
「そうしたら」
「楽しい」
「何かが」
〜〜〜〜ファシリテーターが区切るまで続きます。
自分のイメージしている通りには物語が進まないもどかしさと
前の人からどんなパスが回ってくるかわからないスリル。
もらったパスから、自分の中からイメージを引っ張り出して次の人に渡します。
笑いと緊張感が混ざった、独特のクリエイションタイム!
出来上がった物語を振り返ると、その場にいる全員の感性が重なった、ちょっとおかしい、でもなんだか味わい深い、一つの世界ができあがっていました。

二つの活動は、いずれも完成がどうなるか誰にもわからないまま、目の前のコミュニケーションに集中することで制作が進み、最終的に「ちょっと変なもの」ができあがる、無責任なクリエイションでした。


4.振り返り:「遊び」の真髄

「アート」や「演劇」というと、どうしても「いい作品(演技)を作らなきゃ」と入ってしまう力があります。
①の自動新生物製造機では偶然性を使ったクリエイションによって、自分の中にある固定観念から解放され、力みが自然と取り除かれました。
さらにそのプロセスを共有したことで、その場にいる全員の間にあーだこーだ言いあえる対等な信頼関係が構築されていたように思います。

さらに②シェアード・ストーリーでは、自分の思い通りにならない前提でクリエイションが進んでいきます。
想定内の単語、想定外の単語
どんどん立ち現れる言葉と変化する文脈から、必死にイメージを膨らまし
評価や相手の反応を気にせずアウトプットして
それが自然と受け入れられていく気持ち良さ。
そのまんまの自分を出して
そのまんまの相手を受け入れていくコミュニケーション。
自分の思い通りにならないけれど、確実に自分がその一部として存在する場で、完成ではなく今目の前のプロセスを楽しむ!

無責任だから
思い通りにならないから
そのまんまの自分だから
今、目の前のことだから
楽しい。
これが「遊び」の真髄だ!

この社会で生きていると
無責任なんて
思い通りにならないなんて
そのまんまの自分でいるなんて
先読みしないなんて
どれも消極的に捉えがちなこと。

そんな印象を自然と持っているおとなに
そしてそんなおとなへの道を歩いているこどもたちに
大切にしてほしい「遊び」の様相が見えました。


そして、この遊びは、一人ではできない他者ありきのもの。
目的も責任もない、遊びのコミュニケーションでした。
これが稽古の前に行われていると思うと、本当に演劇の礎はコミュニケーションなんだなあと実感しました。
自分に問いを重ね、社会に問いを表出するアートと
他者とのコミュニケーションを重ねることで生まれる演劇。
この2つの表現活動の重なりは、追求し甲斐がありそうだ...!!!

今後も菊池さんとはオンラインでも対面でも面白い「遊び」と「クリエイション」の場を作っていきますので、みなさんぜひご参加ください◎


「UMUMがっこう」は、8歳以上のお子様&おとなの方が一緒に学ぶ、アートとデザインのワークショップです。
言い換えると、おとなもこどもも対等に、それぞれの感性や表現を交換できるプログラム!
正解やスキルを教えるのではなく、みなさんがもっている感性と表現力をフル活用し、対話を通して育みます。
ぜひご参加ください◎



いつも長文を読んでいただきありがとうございます! サポートは、企画のための画材&情報収集に活用させていただきます。