山手線の平成新駅

 開拓史は全て忘却の集積物の上に立脚している。しかし、最初から知らないことは、忘れることすら出来ない。

 田町と品川の間に新駅が建設される。工事が進行している。
 この新駅の開業は、新元号の発表、施行より後になるというから、平成の間は、その場所に歩いて近づくことは出来ないのだろう。
 名前はまだ決められていない。その駅名と新元号と、明らかにされるのはどちらが先なのかも分からない。
 広大な車両基地の一部を転用して建てられる新駅の工事現場は、未だ夥しい本数のレールに取り巻かれている。その姿は、レールの海上に、新しく浮上した小島のようにも見える。

 開拓史は全て忘却の集積物の上に立脚している。しかし、最初から知らないことは、忘れることすら出来ない。
 この鉄道の東側は、かつては本当に海だった。先史時代まで遡れば、この街自体も、この平野全体も、かつては海底だった。
無情と忘却とに抗議することは、とりわけ詩人の任務に属している。
 

 この区間を山手線で通過してみる。新駅の工事現場を遠景として眺めることとなる。

 開拓史は全て忘却の集積物の上に立脚している。しかし、最初から知らないことは、忘れることすら出来ない。
暑い。
「無情と忘却とに抗議することは、とりわけ詩人の任務に属している」というのは、二十世紀のドイツの詩人の言葉であることを思い出す。
 

 この区間を京浜東北線で通過してみる。新駅のプラットフォームとなるであろう構築物の至近距離を駆け抜ける。近過ぎてその姿はかえって良く分らない。

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