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さがしものがなかなか見つからないあなたへ

想いが大きくなればなるほど、それを自分の中だけには留めていられなくなるタイプの人間がいる。

例えばそれは二次創作という形で発露する。ある物語に心揺さぶられ、夢中で何度も読み返す。次の話を待つあいだにも、書かれていない行間の物語が、頭のなかでふくらんでいく。

ネットでみつけた同志は、それを「本」という形で具現化する特殊能力をもっていて、それをありがたく読み漁る。しばらくは幸福なひとときが続く。でも読めば読むほど、それらは自分のなかの、いちばん触れてほしい部分の輪郭に肉薄するばかりで、自分がほんとうに読みたい物語はどうしても見つからない。そしていつしか

「私が読みたい物語は、自分でこの世に生み出すしかないらしい」

ということに、ついに思い至る。そんなふうに二次創作をはじめた人のエピソードはネットにたくさんあって、僕はそれを読むのが好きだ。


物心ついたころから、自分のなかには言葉にしたくてもできない、謎の領域があった。そこをうまく言葉にしてほしくて、たくさんの本を漁った。かれこれ20年以上は同じテーマを追い続けているけれど、未だに本当にほしい答えがみつからない。

「この本は人生のバイブルになる」と確信する本にも何度か出会った。その著者の本を読み漁り、その人の話を動画やCDで何回も繰り返し聞いた。でもそうしてかれの世界観を理解すればするほど、ほんのわずかな砂粒のような、とても些細な、しかし無視することのできない矛盾、違和感がたまっていく。それが自分の意識を、はじめは些細に、しかし次第に大きく、かき乱すようになっていく。

ついにかれの言葉全体を受け容れられなくなり、また彷徨う。まもなく新たに頼れそうな人をみつけては、また傾倒する。そんなことを四半世紀近く、くり返してきた。

そうして最近、ようやく気づいた。気づいたというか、観念した。僕が知りたい答えは、自分以外の誰かが言葉にしたものでは埋まらないらしい。どうやら自分自身の言葉でなければはまるピースをつくることはできないらしいのだ。

僕が知りたいこのモヤモヤの正体は、きっと言葉にしたらとても陳腐で、単純で、ありきたりなものなんだと思う。そしてそれに近い言葉に、色々な本や人の話のなかで、僕はすでに何百回と出会ってきているに違いない。

でも、僕がこの人生をかけてでも肚に落としたい、最後のさいごの答えは、他人の言葉でみつけようとしても、ただ知識として記憶の棚に並ぶだけだ。こればっかりは、自分自身の言葉で語られなければならないらしい。

そして、これはなぜか直感していることなのだけれど、僕自身が、僕のためだけの答えを、僕自身の言葉で書くためには、僕は自分のためではなく「誰かのために」文章を書かなければならないのだ。

自分だけが納得できればいいのなら、ひたすら本を読み、アンダーラインを引いて、考えたことをメモしたり、日記を書いたりしていればいいようにも思う。でもそれだけではダメなのだ、という確信がある。

これは表現をする人ならわかってもらえると思うのだけど、表現したいものは、自分の頭のなかにあるときがいちばんうつくしく、最高の形をしている。しかしそれを人目に晒すために、拙い技術で形にしようとすればするほどに、最高だったものがどんどん崩れていってしまう。

それでも僕らは、外に出すことをやめられない。最高の表現を最高なままで、自分のなかに留めておくことができない。

きっと僕たちは、自分の中にあるものを完全なものにするためには、他者とのつながりこそが絶対に欠かせないのだということを直感でわかっているのだ。他者とのかかわりのなかに身を置き、自分の中にあるものを、他者に伝わる形に整えて、整えて、こわいけれども、放流する。すると世界からレスポンスが返ってくる。それを受け取って、ときに励まされ、あるいは傷ついて、少し変化した自分が、次の創作に向かう。

そうやって表現者としての義務を果たしつづけるなかでのみ、僕らは正しく成長し、自分の中の答えに近づいていくことができる。

創作という営みははじめ、自分がこの世界にしがみつくために、必要に駆られ、いわば追い詰められるようにして起動する。しかし創作という営みがその真なる目的を果たすためには、いずれは自分のためにそれを使いたいという誘惑から離れ、徹底して誰かのために使われねばならない。創作とはもはや生き死にを超え、自分の存在の意味を賭けて他者に奉仕する営みなのだ。

もし、あなたが何かをずっと探していて、それが未だに見つからないというのであれば、もしかしたらすでに、自分が求めているものを、自分で生み出すべき時期に差し掛かっているのかもしれない。そして僕らが生み出したものが、また誰かの表現を起動する。きっとそういう連鎖のなかに組み込まれて僕たちは生きている。

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