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鎌倉ゆかりの貸本屋を復活させようとしたら著作権と制度の壁にぶち当たった| 法哲学を考える

古民家ゲストハウス鎌倉楽庵で縁側書生生活(住み込み経営者)をしています、ふでぽんです。

ゲストハウスのオペレーション周りがある程度スッキリしてきたので、企画を考えていたところでした。偶然友人と鎌倉文学館に遊びに行き、こんな記述がありました。

鎌倉にゆかりあある文学者は多く、第2次世界大戦後困窮した作家たちが協力して鎌倉で貸本屋を営んだ。貸本屋は繁盛し、文士たちの生計の支えとなった。

とにかく大事なことは、「貸本屋やりてえ!」とビビッときたのである。もともと本は好きで、蔵書もそれなりの数がある。自分の好きな本をお客さんと共有して、感想を言い合えれば、どんなに楽しいだろう。何より、所縁のある鎌倉で貸本屋を復活させる、ということに強いメッセージ性を感じるし、強いコンセプトになると思いました。

貸本屋は鎌倉という土地との相性だけではなく、うちのゲストハウスとの相性もいいと考えました。

まず第1に、古民家を改装しているという点。
貸本という古い概念を体現するには、古民家という場所の空気感はとても相性がいい場所です。縁側で風を感じながら本をめくるのは、"古き良き時代"のノスタルジーを感じます。

第2に、ゲストハウスとしてお客さんとの距離感が近いという点。
本の市場は急速に縮小していると言われているが、そんな中、わざわざ本を買う人が求めているものは、本そのものの内容に加えて、本に関わるストーリーだと考えている。
自分自身、目利きの先輩が「これ面白いよ」と薦めてくれた本は”先輩の本棚”として蒐集気分で買うことが多いし(どれも面白いのがその先輩のすごいところである)、大学で講義を受けた教授が書いた本、映画の中で出てきた本、など、他のモノとの結びつきをきっかけに本を買うことが多い。モノ消費からコト消費に移っている、ということの一つの表象なのかもしれない。

ウチはゲストハウスで、その中でも特にスタッフとゲストの距離感が近いと思っている。ゲストハウスのスタッフは、大体の人にとって未知の人種で格好の興味のマトで、接客の中でコミュニケーションが生まれやすい。大抵の場合仲良くなってしまうし、時にはお酒を飲んだりもする。

普通の本屋だと、書店のフィルターがかかった陳列になっているが、陳列した店員さんに直接ススメてもらうわけではない。個人経営の古本屋とかだと、番台のおじいさんと話すのはあまりに敷居が高い。ゲストハウスのスタッフ、という多くの人にとって未知のタイプの人間が、ちょっと仲良くなって本をススメてくるのは、"ちょうどいい" 選書経験だと思います。

第3に、経営の観点から、貸本の業態が利益につながる点。
鎌倉のゲストハウス市場は参入が激しく、市場環境の悪化は避けられないと考えている。現状楽庵が市場にアピールできているのは「安さ」「個室利用可能」「古民家」という点で、(鎌倉で)競合との差別化があまりできているとは言えない。
差別化という文脈で貸本はブランディングにつながるし、経営の多角化になる。貸本はお客さんが還流する性質を持つので、複数回足を運んでもらうことになる。利益率の高いカフェ営業との相性は抜群だ。遊休状態の昼の時間を有効に活用できるし、ゲストハウスの活気を高めることもできる。

実現するためのシステムを考える

鎌倉楽庵で貸本屋をどう実装するのか考えた結果がこちら

①取り扱う本はふでぽんの私書のみ。
②借りたいときは、本の定価分の値段を一旦支払う
③返しにきたタイミングで、1週間100円分を値引きした代金で楽庵が買い取る

返金のためお客さんの還流が生まれやすいこと、返しに来なかった時にも損にならないということから、このようなシステムを考えました。実現可能性を考えるため、とりあえずgoogleで調べてみると、古物営業法著作権法の貸与権が関わってきそうだとわかりました。(以下の法律の解釈はあくまで僕がネットや調査で理解した範囲のもので、その正しさを保証するものではないことを留意ください)

古物営業法

この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。

古物営業をできる古物商の許可を取るのに2万円かかるので、できるだけ法律の抜け穴を通って許可を取らずにいたいところ。ただ、無許可営業で前科持ちになるのは避けたい。

古物商を取らない言い分としては、

貸本屋は「レンタル業」で、自分の所有物を扱っているだけなので、古物営業法の目的にはかからなそう。

ということが考えられます。

google先生で調べても細かい運用方針などがわからなかったので、古物営業の管轄をしている最寄りの鎌倉警察署にアポなしで突撃してみます。

アポなしだったのにほどなく生活安全課に通されます。

警「古物営業ですね、どうしましたか?」

筆「...みたいな貸本屋をやりたいんですが、古物商の許可は必要ですか?」

警「それはお答えできませんね」

警察の方が言うには、仮説に基づいた「これはOK, これはNG」を判断することはできない、と。なんのための警察やねん、と思いましたが、取り締まりのための警察なので、もし「これはOKですね」と言って言質を取られるのがまずい、というのは理にかなっています。

仕方がないので、古物営業法の細かい運用方針を聞き出す方向に切り替えます。が、貸本という業態がメジャーでないので、関わってくる項目を署員さんが理解しきっておらず、本部に電話して問い合わせてもらいました。警察のお姉さん、めんどくさい問い合わせにも丁寧に対応してくれてありがとう。

結果、古物商の営業許可が必要である(取っておかないと摘発される可能性がある)ことがわかりました。

本来は「お客さんからものを買い取って売る」ことに対して古物商の許可が必要なのですが、特例として「自分の私物を売る場合」「自分が売ったものを買い戻す場合」には古物商の許可は必要ありません。

しかし、下の図で客Aから本を買い取った場合、それは「客から買い取った本」の扱いになり、「客から買い取った本」を客Bに貸すためには古物商の許可が必要です。

平成7年の検察庁の見解で、利益を生むレンタル業については古物商の許可が必要である、とされているようです。例えば、TSUTAYAのレンタル事業は古物商の営業許可を取っているということです。

結局のところ、考えたビジネスモデルで貸本屋をやるのであれば、古物商の営業許可を取得する必要があるということがわかりました。古物商の本来の目的に照らして考えると、自分のものを売って買っているだけのビジネスには必要のない許可ですが、古い法律なので実情と適していない部分も多いのかもしれません。スモールビジネスの事業者としては痛手ですが、仕方ないのでおとなしく2万円ほど払って許可を取りましょう。でも、古物商はお金を払えば解決するからまだよかった...

著作権法 貸与権

著作者は、その著作物(映画の著作物を除く)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。

みなさんおなじみの著作権法です。貸本屋も著作物の貸与を行なっているので、当然著作権法の影響下にあります。貸本と著作権法の歴史的関わりを調べたところ、wikipediaが一番詳しかったので一部編集して引用します。

著作権法では制定当初、第三者が書籍を別の第三者に貸与する事を著作権者が認める権利(貸与権)の存在を想定していなかったため、著作権者に許可を取らず自由に本を顧客に有料で貸す商売が個人レベルでも比較的簡単に起業できた。
1984年には貸与権が制定されたが、これは当時、急速に全国へ拡大したレコードレンタル店(現在のCDレンタル店)に対応するためのものであり、書籍への貸与権は“「書籍又は雑誌の貸与による場合には、当面の間、適用しない(著作権法の附則・書籍等の貸与についての経過措置より)」という文言が記され、長らく放置されていた。
21世紀初頭より一部のレンタルビデオ(DVD)・CDチェーン店でコミックを有料レンタルするビジネスの動きが出始めた。
先述した通り、貸本業は過去の遺物のごとく見られがちで、著作権問題に厳しい大手出版企業も以前は貸本(書籍レンタル)についてはあえて黙認していたようだが、いずれにせよ、著作権者にとってはマンガ喫茶や大規模な中古書店チェーン(ブックオフなど)の存在同様、無視できない状況になってきた。
企業の各種ロビー活動が活発化した結果、2005年には著作権法が改正されてコミックを含む書籍に貸与権を適用する事が認められた。なお、わずかに残った「旧来からのいわゆる「貸本屋」」は、既得権として使用料免除を申し出ることができるが、蔵書数1万以下の小規模店に限られる(Wikipedia 「貸本」より)

出版物貸与権管理センターが管理しているようなので、今から貸本屋をやろうとするにあたって、どのような処置が必要なのか電話で問い合わせてみます。

筆「...みたいな貸本屋をやりたいんですが、どうしたらいいですか?」

出「どんな本を貸しますか?」

筆「小説やハードカバーがメインです」

出「小説等の権利に関してこちらでは扱っておりません」

どういうことか。wikipediaの「出版物貸与権管理センター」の項目を見てみよう

1990年代後半より、出版業界では公正取引委員会が再販制度廃止を検討していたことに激しく抵抗する一方、大型古書店や漫画喫茶が著作権を侵害していると攻撃する傾向が強まっていた。そのうち、漫画喫茶に対しては入場料を徴収して店内で漫画を閲覧させる行為を「貸与」と解釈し、出版物に対する貸与権の適用除外を定めた著作権法附則第4条の2を廃止することでこれを禁止すべしとの意見が業界内から挙がったが、文化庁は利用者が店外へ備え付けの本を持ち出さない限り「貸与」には当たらないとの見解を示したことからこの方針は挫折し、やがてブックオフが実験的に開始していた貸本業(コミックレンタル)が攻撃対象にすり替わった。

管理を行っているのは日本国内で出版されている漫画の単行本が中心であり、小説やその他の一般書籍は将来的に管理対象とする予定はあるが現時点では対象外である(法律上は附則の廃止に伴い貸与権が発生しているが、その分野の貸与権を管理すべき市場の実態が存在しない)。また、日本国外の著作権者も管理対象外となっている。

貸与権の歴史的経緯上、小説や一般書籍は後回しにされ、管理制度の空白地帯が生まれているのである。

筆「え、じゃあ無許可で貸本を行なったらどうなるんですか?」

出「逮捕されますね」

管理センターが管轄していない以上、著作者・出版社と直接交渉する必要がありますが非現実的です。

貸本屋は管理制度の未整備のために事実上不可能なビジネスになってしまっているのです。

ゲストハウスの貸本レベルの小規模な著作権侵害であれば見逃される可能性は高いと思いますが、負ける可能性の高い訴訟リスクを取るわけにはいかないので、諦めざるを得ません。

法律の解釈と法哲学|誰のための法なのか

ブックオフはいいのに貸本屋はダメなのか?

貸本屋が事実上違法になってしまうのは納得がいきません。というのも、貸本屋のシステムは実質ブックオフと同じだからです。ブックオフで本を買った人がブックオフでその本を売れば、僕が貸本屋でやろうとしていることと同じサイクルが生まれることになります。
そもそも著作権法は、著作物の利用に関する著者への利益還元を目的にしているはずです。影響力のごくわずかな貸本屋に貸与権を適用し新しいビジネスの芽を摘むよりかは、法律の適応範囲を改正し古本屋の利益を著作者に還元するべきであると考えます。
ブックオフが合法で運営できるのは、適法に譲渡されたもの(ブックオフの場合はは正規品の古本)については譲渡権がなくなるから、らしいです。

譲渡権(無断で公衆に譲渡されない権利)
著作物を公衆向けに譲渡することに関する権利です(第26 条の2)。
この権利が設けられたのは,主として,無断で海賊版を大量に作った侵害者が,
これを全部第三者に一括して転売してしまった場合に,その第三者(海賊版作成者
ではない)による販売を差し止められるようにするためです。したがって,次のよ
うな限定がかけられています。
第一に,「いったん適法に譲渡されたもの」については,譲渡権がなくなります(第 26 条の 2 第 2 項第 1 号)。例えば,店頭で売られている本や音楽CDを買った場合, 譲渡権はすでに消滅していますので,転売は自由です。
出典:著作権テキスト

法哲学と社会正義

ブックオフと僕の考えた貸本屋が、実質的に同じ仕組みなのに、貸本屋が開業できないのは、法のあり方として社会正義を満たしているのでしょうか?

ここではっきり言っておきたいのは、僕はブックオフを批判しているのではなく、貸本屋の新規開業を事実上不可能としている貸与権管理の未整備を批判している、ということです。

なぜこのような状況が生まれてしまったのでしょうか。

先に引用したwikipediaを見ると、著作権・貸与権の整備が、新しいビジネスが興ったのに対応する形で、権利者を守るために整備されていったことがわかります。TSUTAYAなどのCD・DVDレンタルに対応するために貸与権が設定され、漫画レンタルに対応するために適応範囲が広げられました。
貸本に対してはそれまで「出版に及ぼす影響が小さいから」という理由で見逃されていたのが、漫画レンタルに対応するために出版物への貸与権を設定したために、一括りで著作権の適応範囲になりました。

問題は、実体経済が小さいがために漫画以外の出版物への管理制度が後回しになっていることです。普通は「実態が法制度に先行する」ところが「法制度が実態に先行する」形になってしまったからだと考えます。

法制度は既存の利権を保護するために制定されます。法制度が実経済に先行してしまうと、利権を守ることだけに重きが置かれ、「新しい実態」、すなわちイノベーションを阻害してしまう原因になりかねません。

もちろん、なんでも事後的に整備すればいいというわけではありません。著作権の場合でも、著作者の利権を大きく損なうようなことが起こらないよう、法律で保護する必要はあります。しかし、「このビジネスは実体がないから」と制度が未整備のまま法律で縛ってしまうのは、新しい事業を不可能にするリスクがあるのです。法制度の制定に際しては、その本来の目的、すなわち社会正義(著作権なら著作者の利権保護と文化の発展)に沿った制定を行い、目的にそぐわないような小規模な貸本屋の開業などに関しては対象外とするべきではないでしょうか。(そもそも何が著作者の利権を毀損しているのか、何が毀損していないのか、の判断は難しいところがありますが。)

あとがき

このnoteで書いた法律の解釈は私見によるもので公的な解釈を保証するものはありません。法律に関してはど素人ですので、理解不足や間違いもあると思います。

そもそも社会正義とは何か、に関してはまだ僕の中で考えが深まっていないので、議論をしてくれる人を探しています。

あと、やっぱり貸本屋を諦めるのはもったいないと思っていて、もし裁判になったら勝たせてくれる弁護士さんも募集中です。

ゲストハウスでやる他の企画も持ち込み大募集です!

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