何処までもやせたくて(91)本格的過食?

伯母にクリニックの話を持ち出された翌日……
やはり、相川さんのいるクリニックに電話をすることにした。

最初はそんなつもりなどなくて、いろいろな嘘を考えてみたのだけど、そのうち、それどころじゃなくなってしまったから。

夕食前に体重を測ったら、とうとう30キロ台に。
計画的過食によって、あえて増やしてるとはいえ「3」から始まる数字が目に入った瞬間、パニックになった。

だから、夕食を控えめにして、調節しようと思い、伯母には「最近頑張って食べてたから、胃が疲れてるみたい」と言って、了解ももらえてたのに。

「そんなに食べて、大丈夫なの? 胃、ますますおかしくなったりしない?」

伯母に心配されるほど、食べてしまった。
少なく見積もっても、1500キロカロリーは行ってる。
朝も昼も、さらにおやつまで食べちゃったから、一日で3000キロカロリー超えだ。

しかも、消化されるまで寝ないつもりで、頑張ってたら、日付が変わったあたりで、猛烈におなかが空いてきて。
台所に行き、食べてもよさそうなものを片っ端から口に入れた。

だから、さっきのは訂正。
夜食、なんて可愛いもんじゃないけど、これも含めれば、5000キロカロリー以上だよね。

おなかの苦しさが治まっても、太る恐怖はつのるばかりで、朝まで眠れなかったけど、ずーっと同じ夢を見ていた。
自分が豚みたいに、ぶくぶくと太ってしまう、という悪夢を。

朝、祈るような気持ちで体重計に乗ると、32.5キロ、という信じられない数字。
一日で3キロも増えてる。
このまま十日もたてば、60キロ超えちゃうってことだ。

どうしよう、こんなの想定外だよ。
あくまで、計画的過食なのに。

いや、もしかして……
私、過食に転じてしまったんじゃないだろうか。
認めたくないけど、これって明らかに異常だもの。
計画的過食なんて理由つけて、何日も何日も好きなだけ食べてるうち、本格的過食になりかけてるんだ、きっと。
拒食でやせると、かなりの確率で過食に転じて、太ってしまう、というから、細心の注意を払ってきたのに。

やだ、絶対やだ、そんなの。
でも……
みんながみんな、過食になって太るわけじゃないよね。
たとえば、相川さんみたいに。
激やせから回復して、モデルみたいな体型、キープしてる人だっているんだし。

そうだ、相川さんに相談してみよう。
まだちゃんと治ってないから、心理療法士の立場としては、私を受け持てない、って言ってたけど、相談くらいなら乗ってくれるはず。
だけど、もしダメって言われたら……
そのときはもう、相川さんの元・主治医っていう院長さんでもいいや。
この際、過食を停める方法を教えてくれるなら、誰だっていい。

名刺に記された番号に電話して、受付の人に、相川さんの知り合いだと言うと、すぐに代わってくれた。

「あのぅ、私のこと、覚えてますか」
「忘れるわけないじゃない。何年か前の私なんだもの」

あのときと同じ、優しい語りかけに、心がそっと包まれる感じ。
やっぱり、もう一度会って、話してみたいな。

「もしかして、カウンセリング、受けてみる気になった?」
「いえ、っていうか、まだ決めたわけじゃないんですけど……」

少し体重を増やそうとして、食べる量を増やしたこと、そしたら、過食みたいになってきて、ものすごく不安なこと、本格的な過食にならない方法を教えてほしいこと、を伝えると、

「だったらやっぱり、院長のカウンセリング、受けてみない?
もし、一対一で話すこととかに抵抗があるなら、最初は私も同席できるよう、頼んでみるから」

そっか、相川さんも一緒にいてくれるなら……

「ホントですか。だったら……お願いします」
「うん、ありがとう。じゃあ、すぐに院長の予定、聞いてみるから、ちょっとだけ待っててくれる?」

それから、一分くらいして、

「あのね、ごめんなさい。
院長、診療以外にも講演とか勉強会とか、いっぱい詰まってて、3週間後か、あとは急だけど、次の月曜に少し空きがあるだけみたいなの」

次の月曜!?
それって、私が伯母に言ってた、嘘の通院日じゃない。
すごい、なんてラッキーなんだろ。

「あ、月曜日、大丈夫です!」

自分でもビックリするくらい、大きな声を出してた。

「じゃあ、そうしましょ。えーっと、時間はね……」

クリニックへのアクセスとか、いろいろ教えてもらい、電話を切ると、なんともいえない安心感。
これで、過食を停められるかもしれないし、伯母にも嘘をつかずに済む。

一人暮らしにだって、意外と早く戻れるかも……

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