見出し画像

暴力を伴う外交⑥「民間軍事会社」

一般に傭兵といえば金銭報酬によって随時で調達される戦力のことを指すが、民間軍事会社(PMC)は単なる傭兵業にとどまらない業務を遂行することで各国政府や民間企業などの様々な需要に応じる新しい軍需産業である。

業務分野としては概ね3つに分かれており、まず技術進歩への素早い対応が求められる情報支援やサイバー戦や兵器開発などのハイテク業務、次に外注によるコスト削減を目的とした補給や整備や福利厚生や訓練や警備などの後方支援業務、そして軍隊そのものの民営化やコンサルティングを目的とした警護や人道支援や建軍支援や戦闘行為などの軍事作戦的な業務、などが挙げられる。

PMCは先進国政府の影響が強い政府系PMCと、その他の独立系PMCに大別できる。独立系PMCは各国政府に始まり民間企業、宗教組織、犯罪組織など、利用者を問わずどんな業務内容でも受注する中小企業が多く、多くの依頼者は自身に不足している能力を調達するために独立系PMCと契約する。例えば、治安の悪い地域で地下資源を採掘する際や海賊の多発する海峡を通過する際などに民間企業がPMCに警護業務を発注し、また破綻国家などは自国の軍隊を再建あるいは代替する目的で契約することがある。

対する政府系PMCは大企業だが、受注するのは当該PMCの母国や同盟国やその関連企業など比較的身ぎれいな利用者からの依頼のみであり、特に先進国は自国の軍隊と同等の能力を安く調達する目的で依頼することが多い。

理由としては、先進国では兵役に適した人間はその育成コストが膨大であり、また志願制の軍隊だと募集費や給料に加えて、退役や死傷した場合は本人や遺族に支払われる年金や医療保険などの費用もかかることが挙げられる。そして治安戦のような勝利目標が曖昧な戦争では自国兵士の犠牲に有権者からの支持を得るのが難しく、反発の強まりは国家元首や首相の政治的進退に関わってくることもしばしばである。

しかし、あくまで発注先の社員であるPMCの社員に対しては、政府は各種年金や医療保険を支払う必要が無いためそれらのコストを圧縮できる。加えてPMC社員が自国軍の正規兵でないことから、政府が公式発表する犠牲者数にPMC社員は含まれないことが多く、たとえ契約したPMC社員が全員死亡したとしても国内政治への影響を極小化できる。

契約したPMCへの報酬は一般の警備会社と同様に金銭報酬が原則だが、場合によっては占領地域の地下資源採掘権を報酬として支払うこともある。この場合、PMCへの依頼費用よりも地下資源の販売益が上回った「儲かる戦争」にできる可能性があるが、これは報酬によるコントロールが不可能になることでPMCが軍閥化するリスクを孕んでいる。

PMCは民間企業であるためコストパフォーマンスに敏感である。そのため市場から安価に調達できる歩兵戦力やサイバー戦力についてはPMCでも充分な戦力を確保できるが、大型戦闘艦や高性能戦闘機などの長期的な大規模投資が要求される分野については苦手であり、そのため先進国レベルの海軍や空軍や宇宙軍と同等の戦力を持ったPMCの維持は難しい。しかし特にサイバー戦については技術進歩のスピードに追いつくため先進国軍も大幅な民間委託の可能性が充分に残されている。


参考資料
新訂第5版 安全保障学入門(防衛大学校安全保障学研究会) ISBN:978-4-7505-1543-4
軍事理論の教科書 戦争のダイナミクスを学ぶ(ヤン・オングストローム J.J. ワイデン 北川 敬三) ISBN:978-4-326-30296-3
戦争の新しい10のルール 慢性的無秩序の時代に勝利をつかむ方法(ショーン・マクフェイト) ISBN:978-4-12-005440-2
民間軍事請負会社(PMC)と国家の責任(国際政経論集(二松學舎大学)第 15 号,2009 年3月,1 〜 11) http://id.nii.ac.jp/1284/00002402/
民間軍事会社(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E9%96%93%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E4%BC%9A%E7%A4%BE


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?