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映画「福田村事件」を観る

映画「福田村事件」を観た。広島市内の映画館で9月から上映されていたが、忙しくて、10月30日になってやっと映画館に行くことができた。

関東大震災後の朝鮮人虐殺事件を加害者側から描いた。朝鮮人ではなく被害者は日本人、被差別部落の行商人であったという差別構造の中で起きた悲劇であった。

恐怖と憎悪が、普通の村人たちを虐殺者に変える。朝鮮人を迫害したり虐殺したりしていることを当時の日本人は知っている。怒った朝鮮人たちが仕返しに来る、井戸に毒を入れている、日本の町が襲われているーこうした流言飛語が、村人たちの不安感と恐怖心を極限にまで高めていく。

充満した恐怖の「ガス」に火をつけるのが、夫が出稼ぎ先の東京で朝鮮人に殺されたと信じ込んだ妻の「一撃」である。炎が一気に燃え広がるように、村人たちは、妊婦や子どもたちまでも惨殺する悪魔に化身していく。

いま、中東のガザの町をイスラエルが無差別攻撃している。子どもたちが虐殺されている。逃げ場のない市民たちが、水道も電気も止められ、食糧もない中で、ミサイルによって吹きとばさている。ハマスが先にイスラエルを攻撃したとはいえ、どう見ても今のイスラエルは悪魔である。非戦闘員も皆殺しにする決意を固めて、非道の限りを尽くしているとしか思えない。

こんな残虐のことができるのも、恐怖と憎悪があるからだろう。ナチスによる大虐殺を体験したユダヤ人にとって、いつ、あれが再来するかもしれないという不安感が常にある。一方でパレスチナ人の土地にイスラエルを建国したのちは、パレスチナの人々を迫害しており、仕返しされるのではという恐怖心がある。

注意すべきことは、恐怖は権力によって意図的に作られることだ。福田村の映画でも、朝鮮人が騒動を起こしていると触れ回っているのは、変装した警察官だった。警察は混乱に乗じて、社会主義者ら権力に逆らう者たちも殺してしまう。これが本当の狙いだったのではないか。

大震災の混乱のなか、「朝鮮人が悪さをしているというデマを流して、それに乗じて社会主義者らを抹殺しよう」という計画が立てられた。しかし、思いのほかデマが広がってしまい、日本中で虐殺が起きてしまう。慌てて、自警団は即刻解散して、平常に戻れという、通達を出すが、もう止まらない。映画では、村人が「お国のために、お国に言われるままやったのに、なんてことだ」と号泣する場面がある。「お国」の言うことを安易に信じてはいけないということだ。

それを伝えるのは、報道機関の役割だ。映画では一記者が自分の見たことを伝えようとあがくが、紙面には真反対の内務省発表ばかり掲載され、大虐殺を煽ってしまう。これは、いつの世にもあることだ。

では、私たちは何をよりどころにすればいいのか。まことしやかなデマが流され、自分や家族の命が危ないと思い込んでしまうのを、どうやって防げばいいのか。

答えは難しい。でも言えることは、そういう状況を起こさないように普段から努めておくことだ。朝鮮人やパレスチナ人を迫害しているから仕返しを恐れる。自国の都合で他国民を迫害しないことだ。つまり戦争を起こさないことだ。戦争につながるあらゆる事象に目を光らせ、早めにその害悪の芽を摘み取っておくことだ。そういう普段の努力を日本国憲法は国民に課している。憲法前文である。

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。



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