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Web3、メタバース、OMO、パーパスに通底する「コントロールへのアンチテーゼ」


2月13日、アメリカでは国民的スポーツの祭典、スーパーボウルがありました。

スーパーボウルで行われたことは、毎度色んなところで話題になるわけですが、今回はこんな記事を見かけました。

まるでディストピア? スーパーボウルのCMが映したテクノロジーの未来図


AmazonやMeta(旧Facebook)がここぞとばかりに作ったCMが、テクノロジーに支配されるディストピアを彷彿とさせるものだった、という内容です。技術を集約して出来ること、これから可能になることを渾身の想いで描いたに違いなく、確かにそれは企業目線では素晴らしいことかもしれないが、どうしてもディストピア的な世界への誘いにしか見えてしまうといったことが語られています。

最近あらゆる事柄が「コントロールをすること」「エゴであること」に対する行き詰まりを示しているような気がしてなりません。

プラットフォーマーに対するアンチテーゼ

この言葉は、最近ではWeb3関連で聞く言葉かもしれません。

これまではGoogleならGoogle、AmazonならAmazonのプラットフォームの上にいる間は、彼らが中央集権のオーナーであり、基本的にその上でどんな行動をしていようともオーナーであるGoogleやAmazonが全てのコントロール権を握っていました。ユーザが自社にとって有益な行動を無意識に取ってしまうように誘導する「ダークパターン」のようなことができ、得られたデータを悪用することも出来る、そのような状態だからこそ、Googleでは”Don’t be evil”(=邪悪になるな)という言葉が行動規範として語られていました。

上記をWeb2.0的な中央集権のインターネットとすると、Web3は「分散型・非中央集権のインターネット」と言われます。

ブロックチェーン前提のインターネットになると、「特定の一企業」が全ての情報とコントロール権を握るという世界観ではなくなってきます。Don't be evilどころか、皆が手をつないだネットワーク構造のような形でルールが成り立っているので、そもそも邪悪になることが不可能になり、Can't be evilになるとも言われています。

Web3と共にバズワード化しているメタバースもこうした「特定の誰かがコントロール権を握らない構造」を背景にしていますし、同様に流行っているDAO(分散型自律組織、Decentralized Autonomous Organization)という概念はそうした「特定の誰かがコントロール権を握らない構造」を、組織の在り方に当てはめたものです。

分かっている人にとっては当たり前のことを言うようで申し訳ないのですが、今バズワード化している多くの言葉には、この「特定の誰かに集中する構造」「特定の誰かがコントロール権を握る状況」へのアンチテーゼが通底して流れています。SDGsも、パーパス経営も、独善的なものへのアンチテーゼですよね。私はずっと「D2Cのブームもプラットフォーマー中心社会へのカウンターカルチャーとして出てきている側面がある」ということを言っているのですが、同じ流れだなと感じています。

プラットフォーマーへの富と情報の集中が、反動としてこのような流れを生んでおり、ブロックチェーン、Web3、メタバース、DAO、SDGs、パーパス経営、D2C、ポスト資本主義、あらゆる潮流がそちら側に流れてきている。アメリカではオンライン広告の7割をMeta(旧Facebook)とGoogleが占めていて手数料を20%程度取っていき、App Storeでアプリが売れても30%Appleに手数料を取られ、Amazonでモノが売れても30%取っていく。Winner takes allの状態がどんどん極端になり、あらゆる企業がそういった意味では苦境に立たされているわけですね。

冒頭に示したスーパーボウルでのMetaのCMを見ると、正直MetaでさえまだWeb2.0的な世界観のまま、独善的な考え方で進めようとしているのではないか、と感じています。なので本音を言ってしまうと、企業が「メタバースを作るぞ!」と独善的な目的で語っているケースを見ると、本当に萎えるというか、言葉だけを表層的に追っているんだなあと思ってしまいます。(笑)

ところで、

OMOも同じ潮流だよ。

というと、皆さんどう思うでしょうか。いや、さすがにそれは解釈しすぎでしょ、と思いますかね。


OMOも「コントロールとエゴからの離脱」

昨年9月に刊行した『アフターデジタルセッションズ 最先端の33人が語る、世界標準のコンセンサス』は、こうした観点があらゆる角度で話されていたのだな、と、今になって強く感じています。MaaSの提唱者、インスタグラムのデザイン責任者、世界最大級のゲーム実況プラットフォームの創設者、NFTを先取りするアバタープラットフォームスタートアップの創設者などが、まさに今話題となるこうした観点を先取りして話しています。今からでも是非読んでいただきたい。

OMOという文脈で言えば、MaaSの提唱者、サンポ氏がひたすら最後まで「コントロールしようとするな」というメッセージを発していました。

メタバースのような完全なるデジタル没入世界の進化だけではなく、世の中では引き続き「オンラインとオフラインの融合」が進んでいます。サンポ氏の発言はこうです。

「オンラインとオフラインが融合する現在、オンオフ双方のケイパビリティを持ち合わせているプレイヤーはほとんど存在しないし、ましてやオフラインは様々な権益が絡むのだから、夢のようなことを実現しようとするには一企業だけでは成し得ない。その時にエコシステムを創ろうなんて簡単に言うけど、だいたいはそれぞれの思惑を表面的に寄せ集めた『エゴシステム』になってしまう。」

「みんなが心から望む『ジョイント・ビジョン』(繋ぎ合わさったビジョン)を掲げることで、初めて周りからの協力が得られ、大きなイノベーションを成し遂げることが出来る。ジョイント・ビジョンとは人々がこんな生活になったら素敵だと感じる夢であり、ユースケースのこと。この時にこんな車だったらいいとか、こんな家電だったらいいとか、ユースケースではなく製品起点になってしまうことは非常に多く、これでは全て失敗する。何故ならそれは一企業の狭い視点から見た、独善的な考え方だからだ。」

「ジョイントビジョンを持って、皆とエコシステムを作らねばならないし、APIエコノミーが前提となり、社会善のためにオープンであるべきにもかかわらず、多くの企業はエコシステムをコントロールしようとする。エコシステムはコントロール不可能だという現実を乗り越えなければならないのに、多くの企業が失敗するのは、コントロールしたがることにあるんだ。」

現在のイノベーションはオンラインとオフラインの融合の中で生まれ、その時代において一社だけで成し遂げられることは多くない。その時には社会や人々の夢になることを心の底から掲げ、他の企業も行政も一緒になって取り組まないといけないので、コントロールしようとか、独善的な利益を掲げるとかいうマインドセットでは、大体うまくいかないよ、ということですね。

まさにOMOも、同様の流れの中で起きているのだなあと思います。アフターデジタル2で書いた「多様な自由が調和するリバティ型アフターデジタル社会」、つまり「人がその時々で自分らしいUXを選べる時代」が、現実味を帯びてきているように感じます。


利益を追求する「企業」という存在に何ができるのか

「そんなこと言っても、企業という利益を追求する存在にいまさら何が出来るのか」と思われるかもしれません。

簡単に答えを出すことは出来ませんが、例えばTHE GUILD代表でnoteのCXOをやられている深津貴之さんは以下の動画で、「noteはあらゆるブログサービスの中で独り勝ちのようになっているように見えるが、何が要因だと思うか」と聞かれて、他社の施策を細かく見ているわけではないので詳細までは分からないが、という前置きの元、以下のように答えています。


「多分一番大きな違いとしては、逆のnote側がnoteをブログとして見ていない、というのはあるかもしれない。ブログをブログサービスとして見てしまうと、やっぱりそのサービスの設計っていかにユーザを集めて、いかにPVを伸ばすかという設計になってしまうと思うんですよ。ただ、今のインターネットを見ると分かるように、PVを無理やり集めるということは、喧嘩だったりスキャンダルだったり悪口だったりを使って注目を集めてバズらせるみたいなことになるので、ブログを従来のブログとしてお金を儲けて集めようとすると、どうしてもスキャンダラスな記事、喧嘩記事をいっぱい集めてきて、それにPVを流し込んでいくみたいな感じになっていくので、どんどんカルチャーとか関係なく、殺伐とした空間が生まれやすくなると思うんですね。」

「noteの場合は、ブログメディア、CMS、そういった文章を書くツールというのは、あくまでnoteが達成したい目的のための手段に過ぎないと考えていて。noteは逆にそこで知の高速道路って僕の中で呼んでいたんですど、面白い人が集まって、面白い意見を言い合って、その面白い意見に集まってきた面白い人が、他の面白いことをさらに提案したりしていく場所を作るということが先にあって、その場所を作るためのツールとして僕らはブログツールを作っている感じなので、サービスに対するアプローチが全然違うんじゃないかなと思います。」(一部言葉を調整しています)

私がUXという言葉でずっと言おうとしているのはまさにこういう話ですし、先ほどサンポ氏が語っていたジョイントビジョンを優先し、エゴやコントロールに走らないというのもまさにこういうことだなと思います。なお、この動画で深津さんが言っていることは、UXの定義から自身のやられていることまで、アフターデジタル実例バージョンみたいな話なので、是非観ていただきたい。

というわけで、いつぞやのニュースレターのタイトルを、釣りではなく本気で回収してみました。それぞれのキーワードを深いところまで説明できていないのですが、伝わっていたら嬉しいなと思います。

お知らせ

この記事は、隔週で限定公開しているニュースレター、"AFTER DIGITAL Inspiration Letter"で3月に公開されたものです。ご興味ある方は、以下から無料登録できますので、是非。



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