哀しみの鰻

幼い頃から、鰻が大好物である。

本当は土用の丑の日だからなんて言わずに年中食べたいぐらい好きなのだが、懐具合的にそういうわけにもいかないので、夏になると満を持して一気に鰻熱のボルテージが上がる。

今年は生後3ヶ月の赤子がいるため、お店でのんびり幸せを噛みしめながら大人の時間を過ごすというわけにもいくまいと、あちこちの鮮魚コーナーを物色して、三河産の良さげな鰻の蒲焼を2枚購入した。

フライング土用の丑。
はやるハートが前のめり。

大好きな鰻を購入し、浮かれて帰宅した私はふと気づく。

うちには電子レンジが無い。

いや、そもそも鰻を電子レンジにかけて縮ませてしまうなんていうのも失礼なのだが、じゃあどうしよう。
フライパンか、魚焼きグリルか。
どちらもやったことがない。
迷った末、フライパンで鰻を温めなおすことにした。
やり方がよくわからないので、ググってみた。
そしたら熱湯をかけろとか水洗いしろとか絶対に焦がすなとかなんだかみんな色んなことを言っていて、わーどうしよう!と動揺した私は、びびったまま少量の酒をふりかけ、半信半疑の弱火で鰻を炙ってしまった。

結果。
弱気の弱火で炙られた鰻は、フワフワでもカリカリでもない中途半端にぬるい謎の蒲焼になってしまった。

ああ哀しみが止まらない。
もっとちゃんと自分の勘を信じれば良かった。
色んな情報に流されなければ良かった。

そんなことを言っても覆水盆に返らず。
鰻を口にした瞬間、やはり鰻好きの彼がひと言、

「…ぬるいね」

ドーン!
鼻血を吹き出しそうになるのを堪えつつ、なんだかんだと言い訳してみる。
しかしうちは2人とも食いしん坊なので、期待値より低かった時の食卓のテンションが、ちょっといたたまれないぐらい低い(逆の時はうるさいぐらい高くなる)。

食後、哀しみに暮れる私に追い討ちをかけるように、すれ違いざま「うなぎ」「強火」と悪魔の声でささやくひとがいる。
挙句、悪魔は私と元嫁の名前を呼び間違えた。一瞬軽やかにスルーしてしまおうかと思うぐらい、ごく自然に呼び間違えた悪魔が、次の瞬間、今度は動揺している。

やーいざまあみろ。
とは思わず、笑いながら胸の奥が熱くなった。
彼の元奥さんが、近いうちにやりたかった夢を叶えるのだと昨夜聞いたばかりだったからだ。

誰かを好きになったり愛したり、大事に思うということは、本当に素敵なことだ。
関係が変わったとしても、そういう気持ちをなくさないでいられるっていうのは、ちょっと泣けるぐらい素敵だと思う。
そんな感じで、これからも夏になったら一緒に鰻を食べたいなと思った。

今日には今日の、明日には明日の鰻がある(無いわ)。
明日は職場で「鰻の蒲焼何枚分ぐらい書けたかなあ」と思いながら、原稿を書きたいと思います。
鰻は強火で、人生は強気…じゃない日も笑いながら続くのだ。

#鰻 #うなぎ #夏

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

8

fujiko

Thousand Songs

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。