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イベントレポート:2023年のデザイントレンドを振り返る! - アルムナイを迎えて

富士通デザインセンターには、アルムナイ(退職者)と在籍者の交流の場として「アルムナイコミュニティ」という自主活動があり、アルムナイのキャリア紹介やアウトドアワークショップなど様々な取り組みをしています。
今回は「社内外で振り返る!2023年のデザイントレンド どうだった?これからどうなる?」と題し、アルムナイと在籍デザイナーが座談会形式で、最近のデザイントレンドを取り上げてディスカッションするイベントを開催しました。

2024年2月15日、川崎のオフィスにある応接室と、Teamsによるリモート中継のハイブリッドで開催し、アルムナイも含め約76人が視聴・参加したこのイベントの様子を、デザイントレンド/トピックに沿ってレポートします!

登壇者
粟井 拓海(あわい たくみ)さん
富士通(2022年退職)→ グッドパッチ→ 現在、コンサルティング・開発を行う会社にてサービスデザインと開発に従事

吉川 嘉修(よしかわ ひろまさ)
富士通デザインセンター(プロフィール

モデレーター
飯嶋 亮平(いいじま りょうへい)
富士通デザインセンター

左から吉川、粟井さん、飯嶋

※トピックの2023年デザイントレンドは、事前に用意した項目についてオーディエンスが投票した結果、票を多く集めたものから順に取り上げました。



トレンド:クロスプラットフォームでのUXの強化

プロダクトデザイナーは【デスクトップからモバイルへ】のみならず、その逆の【モバイルからデスクトップへ】についても考える機会が増えてきている昨今、このテーマからディスカッションをスタートしました。

粟井さん 現職で公共サービス案件を担当しています。公共サービスは対象ユーザーが広く多様であることが特徴です。この案件では、早く多くのユーザーに使ってもらって声を聴くことを目的に、広く普及しているスマホ向けからスタートし、デスクトップにも展開しました。

UXの5段階でいうところの「表層」では、スマホをベースに検証した操作性や情報設計はあまり変えずに展開しています。

同じく「戦略」としては、収益は目的ではないアプリです。対象ユーザーにいかに使ってもらうかを目的としてUX戦略を立てました。

粟井さん

飯嶋 ちなみに吉川さんのチームでも社内で未来の価値を探索しながらサービスやアプリを作っていますけど、そこではPCファーストなんですか?

吉川 そうですね、PCでの利用を想定したサービスのプロトタイプはPCのWEBアプリとして作りますが、アイデアの良しあしを早期検証するのであればスピード優先ですね。これまでの事例だとExcel、VBAで十分だったり。そこに生成AIを通してサービスを試作すれば検証できますしね。

その後、スマホファーストでPC展開するのと、PCファーストでスマホ展開するのと、どちらがやりやすいか?という話題になりました。前者の方が一見楽そうだけども、PCになったとたんに「ごちゃごちゃした」「何がどこにあるかわからなくなった」と言われることが多いそう。どちらから始めるとしても、単純に情報を移し替えるのではなく、情報設計をしっかりやる必要がありますね。


トレンド:データストーリーテリング

複雑なデータや分析情報に基づいて、ストーリーの裏付けに役立つ説得力のある説明を作り上げ、対象者に影響を与えたり情報を提供したりする概念。

粟井さん データが沢山取れすぎてダッシュボードに出せる情報があふれて、逆に判断しにくい現代だからこそ、データを見る人をペルソナとして、その人の意思を盛り込んでデータのまとめ方、見せ方をしましょうというシンプルな理由から生まれたデザイン領域だと思います。

データの見せ方というと、グラフのデザインひとつで制作者の主張を恣意的に見せる類のものは「悪しきデータストーリーテリング」ですね。デザイナーは見せる技術があるので、モラルをもって、良いデータストーリーテリングを行っていきたいですね!

粟井さんは自身が関わったヘルスケア領域における業務支援アプリを事例として取り上げ、データを適切に見せることでユーザーの行動変容につなぐことも可能だと話してくれました。ヘルスケア業界の経営者は施設の利用率や稼働率が関心事なのですが、データ入力側である現場は常に忙しいので、成功している施設のデータを調べつつ、現場に入れてほしいデータを絞り込む、ある種コンサル的な動き方をしたそう。

リサーチによって専門業務の知見を吸収し、データとかけ合わせて最適な業務プロセスを見つけていくことも、新しいデザイン領域となる可能性がありそうです。


トレンド:MLP(Minimum Lovable Product)

顧客に愛される(=LOVE)、ファンになってくれるユーザーが世の中に存在するか検証することに重点を置いた最小限のプロダクトのこと。アジャイル開発で扱われるMVP(実用最小限の製品)とは区別して用いられます。グッドパッチのブログでMLPを軸としたデザイン手法が紹介されています。

吉川 誤解を恐れずにいえば、仮説検証的なアプローチは 、うまくいかない理由を探すためにMVPを作るので、LOVEを見つけるための最低限のプロダクトを素早くリリースするMLPとは違いますけど、デザイナーがユーザーに愛されるものを追求するのは間違ってないし、実装も成功しないといけないので、MLPかMVPかではなく、どちらの考え方もバランスよく使いたいですね。

吉川

粟井さん 何がユーザーに愛されるかはインタビューを根拠にします。インタビュー結果は定性データですが、皆が作るべきものを一旦納得するスタート地点になります。いくらミニマムでも、サインアップ画面しかなかったら使ってもらえない。ユーザーに愛されるか検証するために最低限つくるべき地点はどこか。

例えば競馬投票アプリだったら、最初のリリースで投票までできるようにしたいですよね。でももし馬の情報を見るサービスが世の中にまだ無ければ、最初は馬のデータを見られるアプリとしてリリースし、次のリリースで投票機能をつけ足していくのでもいいんです。馬の情報を見る手段が世の中にすでにあったら、優先順位は下がりますので、投票機能が先です。

富士通では業務アプリの案件が多く、MLPは特に新しいトレンドとして参加者も含め大いに盛り上がりの様相でした。
サービスの愛され要素をまず提示した富士通のサービス事例として、aerukamoを推す声がありました。aerukamoとは、アフターコロナでオフィスに知り合いが出社しているか、どこにいるかわかる、というLOVE要素にフォーカスして初回リリースした富士通の社内アプリです(参考)。


トレンド:ジェネラティブAI

生成AI。膨大なデータの中から目的のものを自動生成して新しいモノを生み出す技術。デザインセンターでもアイデア出しやプラグマティック・ペルソナやシナリオ作成など、デザインプロセスでのAI活用をトライアル中。

飯嶋 粟井さんは生成AIを使ってますか?経営文書を要約したり、動画を編集したりもできますが、品質を上げるのが難しいともいわれています。

飯嶋

粟井さん プライベートでは色々使って試しています。

以前業務の中で、文章を整えるときにChat GPTを使いましたが、その文章を顧客に見せたときに「気持ち悪い」と拒否反応がありました。AIが生成した文章は何か人間味の点で違和感があるのかもしれません。

グッドパッチにいたときは、ペルソナシートに入れるイラストを生成するなど、材料を用意する手間を省くのに活用していました。イラストの人物の指が7本描かれてしまうのを5本にするためにプロンプトを試行錯誤していたので、めっちゃ助かるってことは無かったかも。


学び続ける姿勢:常に「ラーニングゾーン」であれ

最後にオーディエンスから粟井さんへこんな質問がありました。
「粟井さんが転職するとき、どんなことを考えて会社を選んでいますか」

粟井さんは、自分の成長を意識して仕事を選んでいるそうです。

粟井さん 今後やってみたい仕事はフィジカルなもの。スクラム開発で、対面の打ち合わせで5人集まっても、それぞれPCをのぞき込んで話をしている状況に違和感を感じています。なので、次はフィジカルなものの開発に関わりたいなと。それに、改善やエンハンスではなく、完全0スタートのサービスもやってみたいです。

人が成長するには、慣れ親しんだ領域である「コンフォートゾーン」の外側の「ラーニングゾーン」に出ないといけない、という話も。(参考:ラーニングゾーン


ここで粟井さんから「転職しなくても、仕事を変えることはできます」とフォローがありました。確かに大企業の富士通では、希望の部門に手を挙げて異動する制度、短期プロジェクトにジョインする制度などが整備されており、在籍したまま異分野の挑戦が可能です。

余談ですが、富士通の大企業らしからぬ環境変化への対応の早さ、身軽さにこの記事を書いている人(社員)はいつも感心しています。富士通にいるだけでも自分の身の振り方ひとつで変化の荒波を体験できます。


イベントは終始和やかな雰囲気で進み、あっという間の1時間半でした。粟井さん、お忙しいところありがとうございました。デザイントレンドと世界の変化を常にウォッチしつつ、現状に安住しない姿勢、Keep Learningでいきましょう!

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