見出し画像

災害から一人でも多くの命を守りたい~避難時の行動分析と富士通の技術による社会課題解決~

こんにちは!富士通 広報note編集部です。

2011年3月11日に発生した東日本大震災から今日で13年が経ちます。当時、津波から避難した人々の行動について、様々な研究が進められており、人々の行動には、地震発生時に居た場所、仕事などその時にしていたこと、家族の安否確認の必要性など様々な事情や心理といった要因が複雑に影響していたことがわかっています。

富士通にも、大学院生時代から、東日本大震災の津波から避難した人々の行動について長年研究してきた者がいます。今回、このインタビューを通じて、研究の中でわかってきたこと、そしてその結果を富士通のテクノロジーと掛け合わせることで広がる可能性などについてお届けしたいと思います。


インタビュイー
牧野嶋 文泰(まきのしま ふみやす)
プロフィール:津波避難に関する研究で2019年に東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。現在は富士通株式会社コンバージングテクノロジー研究所ソーシャルデジタルツインコアプロジェクト研究員、東北大学災害科学国際研究所特任准教授(客員)。

富士通 コンバージングテクノロジー研究所ソーシャルデジタルツインコアプロジェクト 牧野嶋

いつ頃からどのような研究を行っているのでしょうか

牧野嶋: 私は2014年に東北大学の大学院に入学してから現在に至るまで、津波が襲来したときの人々の行動について研究しています。2004年に発生した新潟県中越地震の際に祖父母が被災したことが、防災分野に関心を持つきっかけになりました。その後、2011年に東北大学の今村文彦教授を団長とする東日本大震災津波避難合同調査団に参加したことを契機に東北大学の大学院に進み、津波避難に関する研究がスタートしました。今後、災害が起きた時に、一人でも多くの方の命を守ることにつなげたいという想いで研究を続けています。
 
東日本大震災での避難行動に関する研究の一例をご紹介します。地震や津波が発生してから沿岸部に津波が到達するまでの間に人々は様々な行動をとります。近年の調査と分析によって、人々が避難行動をとる前には、避難行動とは異なる非常に複雑な行動が見られ、避難開始が遅れていることがわかってきました。しかし、「人々はなぜその行動を選択したのか」、「その時に何を考えていたのか」といった、この複雑な行動の背景は十分に明らかになっていませんでした。複雑な行動がとられたときの人々の心理状況も含めた当時の詳細な行動実態を明らかにするために、私は、東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市に何度も足を運び、現地で震災伝承に取り組むNPOや住民と連携して、津波からの避難を経験された約100名の方々への詳細な聞き取り調査を実施しました。心理的要因や社会的要因が絡み合う複雑な行動の背景を分析し、その結果を論文などにまとめて発表してきました。

こうした行動分析により、どのようなことがわかったのですか

牧野嶋:まず、津波から避難した方々へのインタビューから、当時、人々はどのような場所を移動していたのかを明らかにしました。図1がその結果を示すものです。地震発生直後にいた場所からどのような場所を目的地にして移動していたのか、当時の人の流れを内訳とともに示しています。地震発生直後にすぐに高台に避難された方が多い場合、この図では、1番目の目的地のうち日和山(高台)に向かった人数が多くなります。しかし、調査した101名中、一度目の移動で日和山へ移動した方は35名に留まっていました。ほかの方は自宅や小学校へ移動したり、仕事で外出していた方は職場に戻ったりしていたことがわかりました。一度目の移動以降も、知人宅を訪れたり、自宅に戻ったりするなど、別の場所への複数回の移動を続けた方もいて、約半数が2カ所以上の目的地を持つ、非常に複雑な避難プロセスが明らかになりました。

図1:調査で明らかになった石巻市での津波からの避難プロセス

この背景には何があるのでしょうか

牧野嶋:分析の結果、地震発生から津波到達までの間の行動は、家族の安否確認、自宅や職場などの被害確認、仕事などの様々な目的による行動で複雑化していることがわかりました。地震発生時に外出していた場合、安否確認や被害の確認のために自宅に向かう行動が多く見られました。また、仕事で外出していた場合は、職場や自宅に戻る行動が多く見られました。当時、電話などが通じず、連絡が取りにくかったこともあり、こうした行動が起こりやすい状況だったと考えられます。地震発生時に自身がどこにいたのかに加え、家族の有無、家族の居場所、自身が勤務中か否かなど、それぞれがおかれた状況や社会的な要因が避難行動に大きな影響を与えていることがわかります。

また、分析の結果、避難行動は他者の動きに影響し、連鎖する可能性があることも明らかになりました。今回調査した震災当時の石巻市の例では、小学校の教員が児童たちを即座に高台に避難させた率先避難行動が、家族や周囲の人々の避難行動を促進したことがわかっています。人々は様々な社会的なつながりをもった中で避難します。そのため、ある人の意思決定がほかの人の行動にも影響を及ぼし、さらには地域の避難の傾向を左右する可能性も考えられます。自分や組織の逃げる/逃げないの判断は、自身の避難の成否を決める以上の大きな意味を持っているということです。津波災害時には、これまで言われている高台や堅牢な建物の高層階といった高所への即時避難の徹底を原則として、災害時に人がどのような行動をとってしまう傾向があるのかという理解が進めば、避難行動を促進する社会の仕組みづくりや技術開発につながるのではないかと考えています。これからも災害時の被害を少しでも減らすことに貢献する研究を続けていく予定です。

 こうした研究結果を受け、現在はどのような取り組みをされているのでしょうか

牧野嶋:現在は、富士通のコンバージングテクノロジー研究所でソーシャルデジタルツインに関する研究開発に取り組みながら、これまでの研究で得られた知見もふまえた防災への応用などを検討しています。最近では、東日本大震災での避難実態に基づいて、避難者同士のコミュニケーションの影響や心理的な要因を考慮した避難シミュレーション手法を考案し、論文として発表しています(図2)。このシミュレーションを使って率先避難の効果を評価すると、少数の率先避難者によって避難行動の傾向が大きく変化する可能性があることがわかりました。新しい避難促進方法の検討や効果的な避難計画立案に資する知見だと考えています。

図2:石巻市・釜石市での避難シミュレーションの例

近年、AIを活用した人の行動の観測技術の高度化もあって、例えば人流の観測情報といった人の行動に関する様々なデータが利用可能になってきています。こうしたデータを分析することで人の行動を理解し、またモデル化してシミュレーションと組み合わせることで、人の行動をより精度良く再現し予測できるようになってきています。人の行動を理解し予測することができれば、現実の社会で問題が顕在化する前に、デジタル空間上で先回りして効果的な対策を検討し、問題解決に向けて実際に働きかけていくことが可能になるかもしれません。多様で複雑化する社会課題の解決に向けた施策立案などを支援する技術として、富士通ではソーシャルデジタルツインの研究開発が進められています。こうした技術は、防災はもちろん、幅広い社会課題の解決につながると考えています。今後も技術開発を進め、防災も含めた様々な社会課題の解決に貢献していきたいと思います。
 

ご利用環境により、上記ボタンが反応しない場合は、<fj-prir-note@dl.jp.fujitsu.com>をご利用ください。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

富士通 広報noteについてメディア取材ご希望の方は以下よりご連絡ください。 ご利用環境により、以下ボタンが反応しない場合は、<fj-prir-note@dl.jp.fujitsu.com>をご利用ください。