自動メモ

 眼球にレンズを埋め込むタイプの老眼レーシック手術をした。
「レンズといっても、ただのレンズやおまへんで。へっへっへ」
 と、白髭をはやした医者は不気味に笑った。
 無料で手術してもらったので、なにをされても文句は言えない。人体実験である。
 手術がおわると、たしかに、近くのものがクリアになった。メガネなしで新聞の文字が読めるのは感動的だ。
 そこいら中にある文字に挑戦。正露丸小瓶の説明書きはちょっと無理だったが、こんなものは昔から無理だ。
「どうでげすか、へっへっへ」
 この医者、にやけながらでないと喋ることができないらしい。
「快適ですよ。ものすごく。いいレンズじゃないですか」
「へっへっへ。瞬きしてみなはれ」
「ん? えーと、なんだろうこの感覚は。なにが起こったんですか」
「そのレンズ、超小型のデジカメなんや。へっへっへ」
「へっ」
「瞬きするとシャッターが落ちまんねん」
「メモリーはどこ?」
「へっへっへ」
「笑うのはいいから」
「いろんなとこ」
「え」
「脳の空き部分ちゅーか」
「どうやって取り出すんですか」
「そこまでできたら完成やがな」
「保存しっぱなしかい! 脳内メモリがいっぱいになったらどうなるの?」
「さあ。鼻血が出るとか」
「いい加減なことをいうな」
「人が一日に何回くらい瞬きするか、知っとる?」
「100回くらい?」
「平均2万5000回」
「うわーっ。一日の行動バレバレやんっ」
「心配するのはそっちのほうでっか。あんさんもロクなことしてまへんなあ。へっへっへ」

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