【ショートショート】夜とゾンビ
脳波が止まったのに死にもせず、ゾンビとして暮らしている。昼間は会社に行って、夜は公園に行く。家族は私以外誰もゾンビ化していないから、なるべく接触を少なくしている。というのは言い訳で、たんに家の居心地が悪い。
公園に行くと、ゾンビ仲間が月を眺めている。黙って輪に入る。
退屈なときにはなんとなく会話を交わすこともある。
「どお」
「いやあ別に」
「こないだ会社に言ったらうちの上司もゾンビでさあ」
「あ、うちもですよ」
「そうなんだ」
夜の公園はいやになるくらい静かで、時間が過ぎるのも遅い。
ざああ。ざああ。
「なにか音がしない?」
「しますねえ」
「なんだろう」
「ざああって、波みたい」
「あ。砂場」
「あ」
砂場がごくごく微少にだけど、波打っている。
「風?」
「吹いてないじゃないですか」
それでも砂場の枯山水は、微妙な変化を止めない。
「不思議だねえ」
「不思議ですねえ」
「砂が遊んでるみたいだ」
「砂遊びですか」
砂場を取り囲むゾンビたち。十二時を過ぎると「明日があるから」といって、みんな散っていった。
ゾンビにも明日があるんだよなあ。
(了)
ここから先は
0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。
朗読用ショートショート
¥500 / 月
初月無料
平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…
新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。