派遣切りの次にはゾンビ切りが行われた。
　私も会社から追放された者のひとりである。
「クビになったよ」
　と淡々と伝えると、あまりの覇気のなさにあきれたのか、妻は子供を連れて実家に帰ってしまった。
「ああ、楽になった」
　と思った。とうとう最後まで自分がゾンビであることを告白できなかったが、いまとなってはそのほうがよかったようにも思う。
　自分の場合、健康状態にはなんの問題もないのだが、脳波が停止している。心臓が停止している者たちもいて、彼らは大変だ。命に別状はないが、ほっておくと体が腐敗してしまう。夏場は冷凍倉庫に潜んでいたが、年末になってようやく外に出てくるようになった。

　そんな時だった。日比谷公園に「年越し派遣村」ができるのだという。
　ゾンビ仲間と話してていて、
「日比谷公園なんて甘いよねえ」
　という話になった。
「こんな経済になったのはやっぱ官僚の責任だよなあ」
「派遣村を作るとしたら霞ヶ関の中央官庁だよ」
「だよねー」
「そんなことしたらすぐ排除されるだろうけど」
「おれたちがやろうか、ゾンビ村」
「殺せるものなら殺してみろってんだ」
　ゾンビネットワークに情報を流し、御用納めとなった中央官庁を占拠してしまった。住宅じゃないので生活はしにくいけど、ま、いいか。
　警察や公安は怒った怒った。
　強行突入してきたが、心臓停止ゾンビをいくら殴ろうが銃撃しようが、ぜんぜん平気。腕をひっぱってどかせようとすると、腕がずぼっと抜けてしまう。
「うわああああ」
　武装集団はパニックをおこして逃げだし、それをテレビ中継でみた国民もあわてふためいて大騒ぎになった。世界中に「日本はゾンビに占領された」というニュースが配信される始末だ。
　誤解されておいたほうが面白いので、当然、否定はしない。
　さ、これからどうするか。
　ご意見のある方は、財務省ゾンビ村までお手紙をください。

（了）

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