第15回Book Fair読書会@幡ヶ谷~本にできることはまだあるかい~

「ある!」と信じているふっかー復活委員長です。

「ない」と思っている人にも「ある」と思ってもらえるような活動がしたいです。ちなみにRADWIMPSでは『君と羊と青』が好きですね。

第15回のBook Fair読書会は、幡ヶ谷にある『あーとカフェ笹峯ぎゃらり』さんをお借りして開催しました!

以前、書店員さん主催の「本に関わる人の交流会」でお世話になったお店を、今回は読書会で使わせていただきました。美味しい米粉スイーツが楽しめるお店なので、皆さん是非一度、足を運んでみてはいかがでしょうか?

(店主さんが「カフェじゃなくて本屋さんをやった方がいいのかも?」とおっしゃるほど、蔵書も充実したお店です!)

※カッコ内数字は参加回数

◆ナオさん(4)→『自衛隊防災BOOK』マガジンハウス

マイ帯【自分の命は自分で守りたい!】

九州から関東に引っ越してきて、驚いたのが地震の多さです。非常事態でも自分の命を守れるように、この本を読み始めました。

この本は、自衛隊員のノウハウがイラスト付きで詰め込まれていて、とても実践的な内容です。

自宅から最寄りの避難場所はどこか?

断水への備えは万全か?

3日間しのげる「防災キット」はあるか?

など、日頃の準備を怠らないことが大事ですね。

また、咄嗟の行動としては、地震が起きるとうずくまってしまう人も多いですが、上から物が落ちてくる方が危ないです。できる限り頭上に注意し、冷静に安全を確保することが大事ですね。

【振り返り】

ナオさんのあまりに軽妙なトークは「回し者感が凄い」との声すら出るほどでした(笑)。しかし、それも「地震に慣れていない」という危機感があるからこそ。

災害時はネットもつながらない可能性がありますから、防災カバンに一冊入れておくと安心かもしれません。

ナオさんからは「頭上が危ないのにうずくまってしまう」、うださんからは「何も落ちてこないのに机の下に入ってしまう」という、矛盾した対応について意見がありました。大人になると避難訓練の機会も激減しますが(でも責任は増す)、しっかりと備えておきたいところです。


◆ニャンちゅうさん(11)→辻村深月『かがみの孤城』ポプラ社

マイ帯【感動系ファンタジー】

Book Fairで何度か辻村深月が紹介されていて、前から気になっていました。初めて読んだのがこの作品です。

中学校に行けなくなった主人公の女の子が、自分の部屋にある姿見を通して「鏡の世界」に入れるようになります。「鏡の世界」のお城には、自分と同じように悩みを抱えた子どもたちが集められていました。

そこの支配人である「オオカミ」は彼女らに、この城に隠された鍵を探し出せば、一人だけ願いを叶えることができる、と告げます。主人公たちは城と現実世界を行き来しながら、少しづつ「鍵探し」を進めていきます。

辻村さんは描写が細かく、心情の機微も捉えられていたので、読んでいて深いなあと思いました。帯に書いたように、感動する物語だったので、別の作品も読んでみたいです。

【振り返り】

550ページ超えの大作。ニャンちゅうさんも「4月に読み始めて、やっと発表できました!」と話していましたが、本当に読みごたえのある作品だと思います。本屋大賞も納得ですね。

うださんも話していましたが、辻村さんの小説は「密かに仕掛けられた謎」にあると思います。たとえば『かがみの孤城』の場合、子どもたちが噛み合わない会話を延々と続けるシーンがあります。分厚い本をめくっている身としては「早く鍵を探そうよ~!」とじれったいのですが(笑)、実はそこに重大なヒントが隠されていたのです・・・!

また、「物語どうしのリンク」も見逃せないポイントで、読めば読むほどに発見があります。

リンクといえば・・・本と音楽をつなげる、こんなイベントもあるのです!ご興味のある方は是非!!



◆如水さん(2)→天野純希『破天の剣』時代小説文庫

マイ帯【彼(か)の者こそ『軍神』】

歴史小説が敬遠されがちなポイントとして

・血なまぐさい描写が多い

・登場人物が多い

・物凄く描写が細かい

というのがあると思いますが、今回は軽く読めるものを紹介します。

主人公は島津貴久。彼は島津家(薩摩=現在の鹿児島県)悲願の「三州(北薩、大隅、日向)統一」を達成するべく、戦いに身を投じていきます。

島津家の統治は一言で表すと「えげつない」です。桜島の火山灰の影響で土地はやせ細り、お米は取れない。よって、土地を基準にして地域を管理することはできません。

ならばどうするか?そこで五人組を作り、徹底した連帯責任で行動させる形式をとらせます。つまり、一人が失敗すれば、全員死罪になる厳しい状況です。しかし、むしろ五人組の結束力が深まり、しかも土地を守って戦う必要がないため、非常に身軽になります。

貴久の戦法もまた「えげつなく」、通常は大名級が犠牲になることの少ない合戦において、相手側を完膚なきまでに叩きのめす勝利を、三回も達成しています。

そんな強烈な「軍神」が主人公ではありますが、小説としては「戦闘パート」と「日常パート」に分かれ、読みやすくなっています。おすすめです。

【振り返り】

如水さんは前回の「ヘビーなライトノベル」に続き、今回は「ライトな歴史小説」を持ってきてくださいました。

出版社の帯では、裏面に「戦闘力にパラメータ全フリしてしまったキャラ」としておちょくられた貴久が描かれていて、面白かったです。

マイ帯では「軍神」として紹介されていた貴久も、日常パートでは、奥さんの尻に敷かれてしまうシーンもあるのだとか・・・


◆パンダさん(初)→速水健郎『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』朝日新書

マイ帯【食べることは選ぶこと】

「フード左翼(右翼)」というのは、食の思想を表す著者の造語です。

フード左翼は、「スローフード」「有機栽培」などの言葉に敏感です。つまり食の安全や産地への意識が高く、水にもこだわりがある人。

またフード右翼は、ジャンクフードに抵抗がなく、安くてたくさん食べられるお店を選ぶ。そして、水は「水道水で十分」と考えている人です。

面白いのは、マックが好きな人とロッテリアが好きな人(フード右翼同士)は話が合うのに、ベジタリアンとマクロビ派(フード左翼同士)は対立することがあるという点です。

著者が「フード左翼」と定義した中でも、ヴィーガンと呼ばれる人々は動物性のものを徹底的に排除します。肉を食べないだけでなく、革製品もウールも使わないんです。女性は出産をきっかけに変わったりもしますし、人種差別はダメなのに、「種の差別」はいいのか?と考える人もいます。

それぞれのこだわりが強すぎて相容れない・・・という点は、なかなか野党が団結できない構図に似ているのかな?という分析もできますね。

何を食べるのか?という選択が、毎日の行動にも影響を与えていくのが、とても興味深かったです。最初はフード左翼的な人たちを奇異な目で見ていた著者が、「美味しければどっちもいいじゃん」と考えを変えていく「オチ」もあります。

【振り返り】

20世紀後半、アメリカ学生運動のスローガンで「個人的なことは政治的なこと(The personal is political)」という言葉がありました。食事は個人的な選択ですが、しっかりと社会につながっています。そう考えると、もっとも政治に近い行動かもしれません(食べない、という選択ですら思想です)。

そのアメリカでは消費行動自体が政治と深く結びついています(スターバックスに行く人は○○党支持者、など)。日本においても、何を食べるのかという「こだわり」は、単に収入だけで分けられるものではなさそうです。

ジロリアン(ラーメン二郎を愛してやまない人たち。本書のマップでは「右翼」側にいた)は独自の美意識を持ってるから、「左翼」の何人かとは意気投合してもおかしくないな・・・など、脳内で「政界再編」してみても面白そうです。

パンダさん主催の読書会はこちら!是非ご参加を↓↓



◆KENさん(初)→新海誠『小説 天気の子』角川文庫

マイ帯【晴れ女!雨の日! 現代版ハムレット? 新海誠、最新映画!】

主人公の家出少年(帆高)が、ルポライターのバイトに就く所から物語は始まります。ネットで「100%の晴れ女」として噂になっている少女(陽菜)と偶然出会い、2人で「天気を晴れにする能力」を商売にし始めます。

それだけなら「いい話」なのですが、天気を動かす力には代償も伴っていたのです。少女の体に異変が生じますが、既に後戻りのできない状況になっていました。彼女のピンチを救うため、少年が選択を迫られる、という場面が重要になります。

決断のポイントは2つあって

ひとつは「作為か、不作為か」

もうひとつは「公(の利益)か、私か」

を選ばざるをえなくなる。そこが『ハムレット』(シェークスピア)の「生きるべきか、死ぬべきか」に近いなあと思いました。

【振り返り】

ひとりを救うか?大勢を救うか?

古今東西の物語が突き付けてきた問いが、新海誠監督の最新作でも投げかけられます。

映画を観た方からは「ある意味ハッピーエンド」という、かーなーり意味深なコメントも・・・。

その場では、正解か不正解かは別として、まずは決断することで全てが動き出し、結果的には良い方向に向かうこともあるよね、という意見も出ていました。

でも、場合によっては「決断しないということ(不作為)を、決断する」方がいいこともあるし・・・難しいです。


◆うださん(初)→垣根涼介『ヒートアイランド』文春文庫

マイ帯【冷静と情熱、暴力と金 生まれ変わったらこんな男になりたい】

私は普段、自分の日常には起こらない出来事を描いた小説を選ぶことが多いです。今回も渋谷でファイトパーティーを開いているような若者が登場する、バイオレンスな話を選びました。

彼らは身体を鍛えているだけでなく、計画的で頭もよく、自分たちのルールの中でお金も稼いでいます。しかし、ヤクザに目をつけられ、自分たちのやりたいことがだんだんできなくなってくる。

そんな中で、仲間の一人が裏の世界から大きなお金を持ってきてしまい、それがトラブルに発展していきます。

渋谷という見慣れた駅の周辺が、「悪vs悪」というか、それぞれの正義がぶつかり合う場になっているのが面白いですね。敵同士を戦わせて自分たちは逃れたり、居場所を守るためなら転がり込んだ大金を手放したりと、自分たちのルールに沿って生きる姿が印象的です。

もし自分が生まれ変わったら、平凡な人生よりも、こんなに色々な可能性があったら面白いなあと思い、帯にはそんな気持ちを書きました。

【振り返り】

うださんが、この本を紹介するきっかけになったエピソードが最高でした。

「最近ドトールに入ったら、隣の席の人が、『ヒートアイランド』を机に置いた状態で続編を読んでいて、つい話しかけそうになったんです!危なかった~(笑)。普通のサラリーマンっぽい男性だったんですが、今どきブックカバーせずに紙の本を読んでいる人って珍しいし、とても気になってしまいました・・・」

これは素敵な偶然ですよね!怪しまれないように、共感だけをアピールする方法を探究したい(笑)

こーせーさんからは『池袋ウエストゲートパーク』(石田衣良)に似ているかも!という話がありました。

自分も最近、裏社会とつながる刑事が活躍する『孤狼の血』(柚月裕子)を読みました。カッコいい「クライムノベル」は、これからも私たちを魅了してくれそうです。


◆ゆいさん(初)→恩田陸『Q&A』幻冬舎文庫

マイ帯【真実とは何か】

とあるショッピングモールで起きた事件の謎に、対話形式で迫っていくミステリーです。

大きな商業施設Мでの四階に刃物を持った男が現れ、大パニックになります。客が慌てて下の階に逃げようとすると、今度は下の階から「毒ガスが撒かれた」と人が逆流してきます。混乱の末、何十人の死者、何百人の怪我人を出す事故へと発展してしまいました。

しかし、警察の捜査により、毒ガスが撒かれた事実はないことが明らかになります。さらに、不審者の情報こそあるものの、刃物で刺された人はいませんでした。事故で亡くなった人々は、ほとんどパニック状態での「圧死」でした。

物語は、事故を調査するとある人物が、関係者に「私だけには真実を話してください」と取材する形で進みます。

人は、同じものを見ているつもりでも、それぞれ少しずつ違うものを見ています。彼らの事故に関する証言も、微妙にずれています。なので、真実がどこにあるのかも分からない。

お化けも出ない、グロテスクなシーンもないのに、家で一人で読むとゾワッとするほど怖い小説になっています。

【振り返り】

音楽系からホラーまで、幅広く展開する恩田陸ワールドですが、こんな変化球もあるんですね。ゆいさんいわく「読み返しても、やっぱり怖い。ラストにモヤッとする。でも・・・面白い」。

KENさんからは「芥川龍之介『藪の中』の現代版かもしれない」との意見も出ました。取り調べられている人が、あるきっかけでスイッチが切り替わり、逆に問いかける側に回るのは似ているかも。

同じ事件に遭遇しても、見ている景色は全く違う・・・という意味では、赤松利市『らんちう』もおすすめです。


◆こーせーさん(15)→R.J.パラシオ(中井はるの:訳)『もうひとつのワンダー』ほるぷ出版

マイ帯【ものさしは自分の中にある】

これは、映画化もされた『ワンダー』という物語を、別の視点から描いた作品です。

『ワンダー』はオギーという少年が主人公。彼は生まれつき顔に重い障害を抱えていて、手術を繰り返してどうにか、自力で食事や会話ができるようになったほどです。

そんな彼が、学校(中等部)に初めて通うことになるのですが、やはり見た目や障害の問題があり、簡単にはいきません。前作では「お世話係」の内の一人であるジュリアンがオギーをいじめるようになります。

今作では、「悪者」「ひどい奴」として描かれていたジュリアンがどんなことを考え、またその後どのような変化があったのか?という過程が描かれます。

結果的にジュリアンは、おばあちゃんから聞いた戦争の頃の話をきっかけに、改心します。ああ、物語としてはそうなんだな、と思いました。では、もし自分の子どもがいじめられる側、あるいはいじめる側になってしまった時、親としてはどんな言葉をかけるのか?と考えさせられます。

そんな時に思い出したのが、イチロー選手の「ものさしは自分の中にある」という言葉です。野球界で大記録を残したイチロー選手ですが、人と比べて努力したわけではなく、自分の基準で行動した結果だ、という意味です。

正解か、不正解かは分からないけれど、自分がどうありたいか、どう生きていくかを考えることが、答えになるんじゃないかと思いました。

【振り返り】

昨年のBook Fairで、ある参加者の方が紹介してくださった『Wonder ワンダー』。世界で沢山の人々の感動させましたが、一方でジュリアンへの批判の声も多く、作者は心を痛めたといいます。

物語には決して「ジュリアンのようになるな」というメッセージが込められていたわけではなく、彼も作者にとって大切な登場人物でした。

先生が期待する生徒像に反発し、学校を去ったジュリアンが、いかに(他者の助言があったとはいえ)自分のものさしを変えていくのか。本当に難しいテーマが盛り込まれていますが、是非2作併せて読んでいただきたいです。


◆ふっかー(15)→カズオ・イシグロ(土屋政雄:訳)『わたしをはなさないで』ハヤカワ文庫

マイ帯【「犠牲者はいつもこうか?」彼らの美しい姿が、静かに問いかける】

イギリスにある「ヘールシャム」という、隔離された施設で共同生活を送る少年少女。実は彼らは、健康な臓器を提供するために育てられたクローン人間でした。

システムとしては、成長した少年たちは「提供者」と、そのお世話をする「介護者」に分かれ、提供者としての順番が来るまでは介護者の役割を担います。

彼らの間には「男女が深く愛し合っていると認められると、提供を猶予してもらえる」という噂が流れています。そこに、小説の語り部である女性・キャシー、親友の女性・ルース、男性・トミーの三角関係が絡み、物語が展開します。

この小説は、設定だけならいわゆる「ディストピアSF」としても読めます。しかし、クローン人間はシステム自体にほとんど反抗しません。「トミーのパートナーになるのは、キャシーか?ルースか?」という問題はありますが、そこもドロドロとした関係にはなりません。

むしろ、淡々と生きる彼らの描写が美しいとすら思ってしまうのですが、それが怖さにも反転しうるのが、この小説の読みどころだと思います。

【振り返り】

「読んでる方としたら、明らかにおかしい世界なんだけれど、そこでは〈君たちはドナーだ〉という教育を受けているから、当たり前のように受け入れられている。そして、ただ淡々と話が進む」

如水さんの感想にもあるように、不思議な読後感のある小説でした。我ながら、紹介が難しい本を選んでしまった!

今回、カズオ・イシグロさんは初読みでした。「わかりやすさ」とは対極にあったとしても、その分読んだ人同士でたっぷり語り合える作家かもしれないなと感じています。

★みなさん、ありがとうございました!!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?