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図書館のお仕事紹介(12)展示

今回は、図書館業務にしては華やかな部類と言える展示についてご紹介します。

ふだんの業務で一番多いのは「新着展示」ですね。新しく入った本をすぐに配架せず、新着本コーナーに展示します。

もうひとつは「テーマ展示」です。よくあるテーマは季節行事(ひな祭りとかクリスマスとか)、推薦図書、人物関連、時事問題、貴重書や郷土資料の紹介などでしょうか。

作業の流れとしては「展示テーマを決める」→「資料の調査・リスト作成」→「資料現物の収集」→「必要に応じて目録データの所在コードやOPAC表示の調整」→「展示設営」→「情報発信」という感じです。

展示の目的

身も蓋もない目的から言えば、まず「客寄せ」です。
定期的に展示を企画することによって情報発信のきっかけになりますし、展示目的の来館者も見込め、館内のビジュアルも華やかになり、貴重書など自慢のコレクションの広報にもなり、図書館としても「やってます感」というか、積極的に活動しているという対外的アピールにもなります。

ただ、それだけではありません。
展示の見落とされがちながら重要な目的として「分類による配架とキーワードによる検索の限界を超越する」ことがあります。

図書館の配架法では、関連する資料のすべてを並べて置くことはできません。
「これとこれは一緒に読んでほしいな」と思えるものでも、NDC分類に依るとどうしても離れた棚の分類番号になってしまったり、文庫本と大型本で棚の規格上並べられなかったり、スペースの都合で本館と分館、閉架書庫などに分かれてしまったり、ということが起こります。

検索で探そうにも、ひとつのキーワードで関連資料のすべてが一発でヒットする、ということはめったにありません。目録作成者は「典拠コントロール」などの方法でなるべく検索しやすくなるように工夫していますが、限界があります。
キーワードと検索条件を変えながら何度も検索したり、複数のデータベースをあたってみることが必要で、スキルと労力がかかります。

展示とは、図書館がその手間を代行する仕事とも言えます。

この「何と何をどう関連づけるか?」というのが司書の腕の見せどころです。
「これとこれを並べてみたらどうだろう?」「こういう切り口のテーマでは?」「このキーワードで検索したらどうなる?」といった試行錯誤で、AIには絶対思いつかないような人間ならではの組み合わせが出てくることもあるのです。

テーマ展示の切り口いろいろ

貸出回数0回の本

逆に「貸出回数ランキング上位の本」という手もありますが、0回のほうが可哀想なせいか、反応が大きかったりします。展示すると貸出回数0回が1回や2回にはなるもので、やはり効果はあるようです。

メディア展開

たとえば原作(洋書)・翻訳(日本語版)・映像化(DVD)・脚本(シナリオブック)を並べて展示します。メディアが違うとどうしても配架場所は別になってしまうので、一堂に会するには展示しかありません。
翻訳が複数ある場合は訳者による訳文の違いを原文と照合したり、映像版なら何度もリメイクされて変遷していく過程を検証できます。

わけあり形態

世の中には「普通の形をしていない本」というのもあります。
たとえば「綴じていないペラの図版が箱に何十枚も入っている画集」「ジグソーパズルになっている本」「かるたになっている本」「立体的に組み立てて楽しむ本」などです。
これらは「紛失・破損覚悟で一般書架に出すか、保存優先で閉架書庫置き・禁帯出にするか」の2択を迫られるわけですが、保存を選んだ場合、誰にも存在を知られず死蔵してしまう可能性が高まるわけで、展示が唯一のチャンスです。

展示で気をつけていること

情報を盛りこみ過ぎない

つい張り切ってあれもこれも詰めこみたくなりますが、どうも人間というのは情報が一定量を超えると脳が拒絶反応を起こして何も見えなくなるらしく、負担にならない程度までこちらで資料を絞り込んであげる、という配慮が必要です。掲示の文章もなるべくシンプルにします。

資料の所在不明を避ける

利用者から「この本が見つからないんですけど」と言われてスタッフがあちこち探し回った結果展示コーナーにあった、ということはよくあります。
データ上の表示を調整したり、本に目印を付けたり、カウンタースタッフと情報共有に努めます。

押しつけにならない

こちらがするのは「ご案内」「ご提案」なので、あくまでも「こういう切り口もありますよ」という姿勢です。
自分の好みや価値観の押しつけにならないように資料を選ぶようにして、掲示の文言なども「読まないと恥ずかしい」「世界一」みたいな根拠なく決めつける表現は避け、なるべく特定の利用者層が排除されていると感じないようにしたいです。

展示のちょっとしたコツ

面だし

これは図書館や本屋では定番でしょうが、本の背ではなく表紙を見せて並べる手法です。

ただこれはすごく場所を取るので、見栄えのいい本だけ面だしにして、あとは背を向けることも多いです。
新着本などは分類番号別に、棚ごとに最新のものだけ面だしにして、新着が来るたびに入れ替えるとわかりやすいです。

配色とフォントを統一

「よし今回のペンギンブックス展はオレンジ+黒で行こう!」などと決めて、掲示のフォントも統一すると、展示場所が一目でわかるので見やすいです。

メリハリ

目立たせるのにライトアップできればいいのですが資料の劣化を招くのでそれはダメで、予算もないので大掛かりな装置も使えません。

そこで「高低差」「立体感」で勝負です。
ひな壇をつくって文庫本を並べてみたり、ボードを使って背景を暗くしたり、中央の大型本を輪になって囲むように小さい本を並べたりしました。
登山のイメージで頂上の原著から裾野の入門書まで難しい順に山をつくったり、薄くて透ける和紙で遠近感を出したりもできます。

まとめ

展示も「資料とそれを必要としている人をつなぐ」という図書館の仕事に変わりはありません。

私も普段は地味な仕事が多いので、自分が手掛けた展示を熱心に見てくれる人がいたり、感想をいただけたり、いままで日の当たらなかった本が利用されるようになったりするのはやっぱりうれしいですね。


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