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図書館のお仕事紹介(7)分類

図書館の本は、たいてい背ラベルに三段にわかれた記号が書かれています。
一番上の段に書かれた数字が、分類記号です。
その分類記号を決めるのが分類業務です。
この分類、以前紹介した目録と並ぶ図書館でもマニアックな部類の業務です。
https://note.com/fukuidharu/n/n1b78840cd4e3


分類とは:数字には意味がある

分類法にもいろいろあるのですが、ここでは多くの図書館で採用されているNDC(日本十進分類法)を説明します。

たとえば 913.6 という分類記号では、
9(←文学)のなかの、
1(←日本文学)のなかの、
3(←小説)のなかの、
6(←近代以降)
という分類を表します(数量ではなく記号なのでキュウヒャクジュウサンテンロクではなくキュウイチサンテンロクと読みます)。
基本的に階層構造になっていて、左から右に向かって大区分から小区分になり、小数点以下でさらに細分化されます(何桁まで使用するかは図書館によります)。

司書の資格を取るとき、資料組織概論の先生から「とりあえず日本十進分類法を第2次区分までの100桁は暗記しましょう。来週テストします」と言われ、必死に覚えた思い出があります。
とはいえ第3次区分以下まで含めると膨大な桁数になり、とても全部は覚えきれないので、辞書みたいな冊子を見ながら分類します(電子版もありますが)。

私など、分類をやりすぎて脳が疲れていると数字に意味を付ける癖があり、帰りにスーパーで「国産豚ロース213円」という表示を見ても「関東地方の歴史を背負った豚」をイメージしてしまいます。
2(←歴史)1(←日本)3(←関東地方)

分類の正解はひとつではない

同じ本でも、見方によって違う分類になります。
たとえば「人類の歴史における情報技術の発展が社会に与えた影響について」みたいな複数の分野にまたがるテーマだと「世界史の本とみて209か?メディア論とみて361.4?それとも情報科学だから007.1?」などと悩むことになります。
もちろん書誌データ上は複数の分類記号を付与することは可能で、実際そうなっていることが多いのですが、配架できる棚は一か所です。
結局決め手は「この本を必要としている利用者は、まずどの棚をみるか」になります。今まで利用されなかった本が、分類を変更したとたん貸出が増えることもあるので、意外と重要なのです。

図書館によって利用者層が違うので、適切な分類も変わります。
たとえばエイズに関する本だと、通常のNDCでは内容によって493.878(感染症)、494.99(性病)、498.6(防疫)、916(ルポルタージュ)などに分かれてしまうのですが、病院の図書室では患者さんにとって不便なので、病気別にまとめていたりすることがあります。

NDCを採用せず、独自の分類法を使っているところもあります。児童図書館などでは記号を使わずに、赤シール=絵本、緑シール=図鑑、のように色分けしたりしますが、これも立派な分類です。

NDCの謎ルール

そもそも0から9までの数字だけでこの世のあらゆる事象を分類しようというのは無理もあり、私から見て納得いかないルールはあります。
たとえば「占い」というのはなぜか148として心理学の一種に分類されています。頭のいい人たちが決めたことなので何かもっともな理由があるのでしょうが(信じる信じないは気持ちの問題ということでしょうか?)、どうも釈然としません。個人的には民間信仰として387に入れたほうがしっくりくる気がします。
さらに「ロックバンドは764.7(軽音楽)になるが、解散してソロになると767.8(歌謡曲)になる」という謎ルールもあります。ジョン・レノンがビートルズから離れて美空ひばりの隣に並んでいるというのはロックファンが暴動を起こしそうですが。
また、文学作品は言語区分なので、作者の国籍とかに関係なく作品の書かれた言語で分類されます。たとえばフランツ・カフカという作家はチェコ人ですが、ドイツ語で作品を書いているので940(ドイツ文学)に分類されます。チェコ語で書いているチェコ人作家は989.5(チェコ文学)に分類されます。悩ましいのはサミュエル・ベケットという作家で、この人はアイルランドに生まれてフランスに帰化し、英語とフランス語の両方で作品を書いているため、このルールだと930(英米文学)と950(フランス文学)に分類が割れてしまいます。図書館ごとに対応を調べると、律儀に原著の言語によって分類しているところと、あきらめてどちらかに統一しているところがあるようです。
まあNDCのルールに従わないからといって怒られるわけではないので、不便なところは独自にアレンジして分類すれば良いのかもしれません。

分類の便利な使い方

NDCにはいろいろと欠点もあるため「NDCに則った図書館の分類は使いにくい。もっと自由に分類したほうがいい」という意見もあります。
一方、自由な分類が必ずしも便利とは言えない部分もあって、担当者が気分で分類していたのでは何を根拠に決めたのかさっぱりわからず、担当が変わったら二度と再現できませんし、他館でも通用しません。
多くの図書館が共通の分類法を採用していることのメリットは「慣れればどこの図書館に行っても求める本がどこにあるか見当がつき、時間の節約になる」ということがあります。
「分類で検索する」という方法もあります。私は図書館初心者に利用案内をするとき「探している本だけパッと取って帰るのではなく、その周辺も見てください。同じ分類の本が集まっているので、検索でヒットしなかったもっといい資料が見つかる場合があります」と伝えるようにしていますが、同じことは検索画面上でもできます。
OPAC(蔵書検索)の「詳細検索」画面で「分類」を選び分類記号を入力すれば、同じ分類を持つ本の一覧を表示できます。システムによっては分類記号がリンクになっているものもあり、気になる資料の分類をクリックして同じテーマの資料を検索できます。
一般的にはあまり分類で検索することはないでしょうが、図書館ではよくあり、レファレンス担当者が調査で使ったり、他館のOPACで「この図書館はこの分野の蔵書は充実しているが、この分野は弱い」と判断したりもできるので、なかなか便利です。


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