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ソフトテニスにおける代表選考や処分をめぐる紛争の解決方法

弁護士ソフトテニス愛好家のふくもとです。

ここ最近、全中が開催されたり、ミニ国体が各地区で行われたりと、ソフトテニスの大会が多いですね。
全国大会や、国際大会などの大舞台の試合で代表として活躍している選手には憧れます。
学生時代の私はそのレベルまでは到達しませんでしたが、一つでも多くトーナメントを勝ち上がることや、チームでレギュラーを取って団体戦に出るために、練習に打ち込んでいました。

しかし、そんな気持ちとは裏腹に、試合に出られなかったり、代表メンバーに選ばれなかったりすることもあります。

今回は、「ソフトテニスにおける代表選考や処分をめぐる紛争の解決方法」というテーマで、ソフトテニスをめぐって起こりうる紛争の解決方法について、弁護士の視点から書きたいと思います。

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1 はじめに

・大会に出場して試合をすることの意味

ソフトテニスの選手にとって、大会に出場して試合をすることは、自分の個性を発揮し、自分の社会的評価を高めるために、最も重要な活動のひとつです。

選手は、試合で結果を残すことを目標として、日々練習に励んでいます。

しかし、そんな“大会に出場して試合をする”ということが、選手自身の意思では左右できないこともあります。

例えば、競技団体による代表選考の結果、落選という決定を受け、国際大会や、国体などに出場できないということがあります。
また、レアなケースかもしれませんが、競技団体からの不利益処分によって出場停止の決定を受けて、その競技団体主催の試合に出場できなくなるということもあり得ます。

このような競技団体の決定は、選手にとって、出場したかった大会に出場できず、活躍のチャンスを逃すという結果をもたらすこととなります。

・競技団体の決定を受け入れられない場合

多くの場合、このような競技団体の決定を受け入れることになると思いますが、どうしても受け入れられないこともあると思います。

それが、選考基準や、処分理由に納得のいかない場合だとなおさらです。
特に、最近、ソフトテニスでも誕生しているプロ選手にとっては、生活に関わる問題となる可能性もあります。

このような場合にも、選手は競技団体の決定を受け入れるしかないのでしょうか。

その答えとしては、後述するように、裁判手続での解決は難しい可能性があるものの、スポーツ仲裁機構という専門機関での解決の可能性があるといえます。

もっとも、ソフトテニスにおいて、スポーツ仲裁機構が利用できるかについては、なお課題もあります。

2 紛争の解決手段として裁判所を利用できるか

人の社会活動には、貸したお金が返ってこないなど、もめごと(紛争)はつきものです。

このような当事者の間の紛争を終局的に解決する手段としては、一般的に、裁判手続が挙げられます。
裁判手続では、裁判所の判決という形で、裁判所という中立な第三者の関与の下、法令を適用して紛争の終局的な解決を図ります。

しかし、代表選考や不利益処分の結果を争いたい選手が、裁判を起こしても、裁判所がその裁判手続を適法なものとして認めない可能性があります。

その理由は、自律的なスポーツ競技団体内部における代表選考等についての争いは、裁判所法第3条が定める「法律上の争訟」に該当せず、裁判所による司法審査の対象とはならないと判断される可能性があるからです。

実際の裁判例においては、スポーツ競技団体内部の紛争の解決方法として、裁判手続が適法として認められたものと、適法として認められなかったものの両方があります。

【参考】
● 適法と認めた例
→ 全日本柔道連盟(全柔連)による選手の選考が、世界大学スポーツ連盟の平等取扱条項の趣旨に反し、全柔連に与えられていた裁量権の範囲を逸脱した違法があったことを認め、全柔連に対し慰謝料5万円の支払いを命じたもの(東京地方裁判所昭和63年2月25日判決/判例タイムズ663号243頁)。

● 適法と認めなった例
→ 日本自動車連盟の審査会がした罰則を課する決定の取消しを求める請求について、「法律上の争訟」に該当しないと判断したもの(東京地方裁判所平成6年8月25日判決/判例時報1533号84頁)
→ 日本競技ダンス連盟の傘下にある団体の理事会においてされた会員資格停止の決議は裁判所による司法審査の対象とならないとしたもの(東京地方裁判所平成4年6月4日判決/判例タイムズ807号244頁)。

したがって、スポーツ競技団体内部の紛争の解決方法として、裁判手続を利用することについては、適法と認められない可能性もあるといえます。

3 スポーツ仲裁機構の利用

裁判所に代わり、中立的な第三者の関与の下で、スポーツをめぐる紛争を解決する方法として、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構を利用する方法が考えられます。

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 https://www.jsaa.jp/

日本スポーツ仲裁機構は、“スポーツの競技又はその運営をめぐる競技者等と競技団体との間の紛争を解決するため、仲裁・調停手続を実施しているスポーツ紛争専門の裁判外紛争解決機関”などと説明されます。
まさに、スポーツをめぐる紛争の解決を専門とする機関です。

そして、日本スポーツ仲裁機構が実施しているスポーツ仲裁手続においては、代表選手の選考や、競技者に対する不利益処分の決定に関する不服に関する紛争の解決がなされています。

実際にも、スポーツ仲裁手続においては、例えば、日本ボート協会が行った2012年ロンドン五輪大会アジア大陸予選会における日本代表クルーの内定が、選考方法及び選考過程の点で著しく合理性を欠くものであったと判断し、日本代表クルーの内定を取り消すという結論が示されたことがあります(JSAA-AP-2011-003)。

したがって、スポーツ競技団体による代表選考や不利益処分などの決定について争いたい選手は、スポーツ仲裁機構の手続を利用するということが考えられます。

4 ソフトテニスとスポーツ仲裁にまつわる課題

・スポーツ仲裁手続を利用できない可能性

スポーツ仲裁は、当事者双方の合意(仲裁合意)がなければ手続を進めることができません(スポーツ仲裁規則第2条第2項)。

そのため、選手からスポーツ仲裁の申立てがされたとしても、競技団体が仲裁に合意しなかった場合には、手続を開始できないという問題があります。

この点について、日本ソフトテニス連盟の競技者第7条第2項には、「競技者の権利等に対する不服申し立ては、日本スポーツ仲裁機構の『スポーツ仲裁規則』に従って行う仲裁により解決されるものとする」との条項(自動応諾条項)があるため、日本ソフトテニス連盟の決定や処分についての紛争の解決は、スポーツ仲裁手続によることが期待できます

しかしながら、日本ソフトテニス連盟以外の団体が下した決定や処分についての紛争の解決については、仲裁合意がないことを理由に、スポーツ仲裁手続を利用できない可能性があります。

実際に、ソフトテニスにおいて、日本学生ソフトテニス連盟が選手らに対して行った処分の不服に関する仲裁について、仲裁合意がないことを理由に手続が開始できなかった事例が存在します(JSAA-AP-2019-008~011)。

したがって、スポーツ競技団体内部の紛争について、当然に、スポーツ仲裁手続を利用できるわけではない点に、注意が必要です。

・スポーツ仲裁手続が利用できないという問題点への指摘

仲裁合意がないことにより、スポーツ仲裁手続が利用できないという問題については、問題の解消に向けた取り組みを進めるべきだとする指摘もあります。

その指摘の背景には、選手の利益の保護紛争の迅速かつ適正な解決競技団体に対する信頼向上といった観点があるものと考えられます。

具体的には、この問題について、ある書籍では、以下のような指摘がされています。

・競技団体が仲裁に応じなかった場合、JSAA(※日本スポーツ仲裁機構のこと)によってその事実が公表され、競技団体に対する信用ないし社会的評価が低下し、競技自体の人気の低下を招くおそれがある。スポーツ団体としては仲裁に応じ、真摯に紛争解決にあたるべきである。
・この問題の解決のため、近年、JSAAの働きかけなどにより、競技団体の規約等に「競技団体に対する不服申立ては、スポーツ仲裁機構のスポーツ仲裁によって解決する」という内容の条項(自動応諾条項)を盛り込むことが増えてきている。この条項があれば、仲裁合意の成立が自動的に認められ、仲裁手続を進めることができる。
今後より多くの競技団体が自動応諾条項を採択し、一つでも多くの紛争が公正な仲裁手続により解決されるようになることが期待される

スポーツ問題研究会編『Q&A スポーツの法律問題〔第4版〕 ―プロ選手から愛好者までの必修知識―』(民事法研究会、2018年)205,206頁

上記の書籍の指摘においては、この問題の解決において、「自動応諾条項」の重要性について触れられています。

前述したように、日本ソフトテニス連盟の競技者規程第7条第2項には、自動応諾条項が定められています。
しかし、日本ソフトテニス連盟の下部団体を始めとする他の団体の規程の全てに、自動応諾条項が定められているというわけではないように思います。

したがって、ソフトテニスの競技団体についても、上記の書籍の指摘を借りるならば、より多くの団体が自動応諾条項を採択し、一つでも多くの紛争が公正な仲裁手続により解決されるようになることが期待されるといえます。

5 最後に

この記事では、ソフトテニスをめぐって起こりうる紛争の解決方法について、ざっくり以下のとおりの解説をしました。

● 裁判手続の利用は利用は難しい可能性があるものの、スポーツ仲裁機構の仲裁手続を利用できる可能性があること
● もっとも、スポーツ仲裁手続の利用には、仲裁合意が必要であるという課題があること
● 仲裁合意が必要であるという課題の解決には、「自動応諾条項」が重要であること

この記事では、ソフトテニスをめぐる紛争という、読者の皆さんにとってはあまり馴染みがないかもしれないテーマを取り上げました。

弁護士の仕事をしていると、裁判や交渉といった紛争が身近にあるため、このようなテーマを取り上げた次第です。

記事でも指摘したように、自動応諾条項の採択など、ソフトテニス界においても考える価値のあるテーマであるとも思いますので、この記事が理解を深めるきっかけになれば幸いです。


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Ryan McGuireによるPixabayからの画像


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