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ソフトテニスの試合動画をYoutubeにアップする際の権利問題

弁護士ソフトテニス愛好家のふくもとです。

お盆休み、夏休みという人も多いと思います。
私の夏休みの思い出は、ソフトテニスに打ち込んだ日々です。
毎日朝から晩まで練習をして、帰宅後はトップ選手の試合動画を見て動きや戦略を研究しました。

今回は、そんな私が、「ソフトテニスの試合動画をYoutubeにアップする際の権利問題」というテーマで、主に、自分が撮影したソフトテニスの試合動画を、YouTubeなどの動画投稿サイトにアップロードしている/しようと考えている人に向けて、弁護士の視点から権利の問題について書きたいと思います。

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1 はじめに

・ソフトテニス動画の位置づけ

皆さんは、ソフトテニスの動画を見る機会はあるでしょうか。

ソフトテニスの動画といえば、大会の試合動画がまず思い浮かびます。

私は、過去に遡れば、中学生の頃、NHKで放映される天皇杯の決勝戦の録画を見て、当時早稲田大学に所属していた塩嵜選手のプレーに魅了された記憶があります。

また、ここ数年では、いわゆるソフトテニスYoutuberによるバラエティ動画や、練習の指導動画も充実してきており、ソフトテニス動画の幅も広がってきました

大会の試合動画も、試合のライブ配信がされたり、編集で好プレーのリプレーが付いていたり、選手による解説が付けられたりと、視聴者が楽しめる工夫が様々になされています。

このように、ソフトテニス動画は、日々進化し、ソフトテニスファンのエンターテインメントとしてや、競技者の技術向上のための勉強素材としてなど、視聴者の多種多様な需要に応えた人気コンテンツとなりつつあります。

・この記事を読んでわかること

そんな視聴者の需要も大きいソフトテニス動画ですが、Youtubeなどの動画サイトに動画をアップロードする際には、留意すべき権利の問題があります。

動画の種類に応じて色々と留意すべき権利の問題はあるのですが、この記事では、大会の試合動画に絞って解説します。

そして、結論としては、自分が大会会場で撮影した試合動画をアップロードする場合においては、後述するように、(1)テニスコートの所有者(2)大会やイベントの主催者(3)選手を始めとする出演者との関係で、それぞれの有する権利または法的な利益を考慮する必要があります。

2 ソフトテニスの試合動画にまつわる権利

・試合動画と放映権

放映権という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

放映権とは、ある書籍によれば、「スポーツの試合を放送する『排他的な』権利」と説明されています。
この書籍では、放映権という用語や、その性質については、おおよそ以下のような説明がされています。

・日本には「放映権」を定義した法律は存在しない。
・そのため放映権の意義は論者によってまちまちではある。
・もっとも、米国での議論を参考にすると、放映権とは、スポーツの試合を放送する「排他的」な権利と考えられる。
排他的であるがゆえに、権利者は第三者が試合を放送することを許可し、その対価としてライセンス料の支払いを請求できることになる。
・日本では放映権が明文化されていないため、放映権が侵害された場合の救済範囲等が明確でないなどの問題点が存在する。

平尾覚監修 佐藤弥生監修 稲垣弘則編著 西村あさひ法律事務所スポーツプラクティスグループ 著『DX時代のスポーツビジネス・ロー入門』(中央経済社、2021年)227頁

テレビなどでプロ野球の試合が放送されていたり、DAZNなどのインターネット上のサービスで海外サッカーの試合が配信されていたりすることには、放映権が関わっており、プロスポーツ団体の大きな収益源の1つとなっています。

ソフトテニスにも、プロ選手の誕生、賞金大会の開催など、ビジネス化の動きがあり、ソフトテニスの試合動画についても、他のスポーツと同様に、スポーツの試合の放送に関する権利の問題として、放映権が問題となる可能性があります。

・試合動画と著作権

次に、著作権という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。

大会会場で撮影したソフトテニスの試合動画の放送に関する権利(ソフトテニスの放映権)の根拠は、著作権法にあるのでしょうか。
しかし、結論から申し上げると、著作権法はソフトテニスの放映権の根拠にはならないと考えられます。

著作権法上に規定されている権利のうち、ソフトテニスの放映権との関係で問題となりそうなのは、著作者の権利(著作権法第17条第1項)と、実演家の権利(著作権法第90条の2以下)であると考えます。

まず、著作者の権利について、ソフトテニスの試合やプレーは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではないと考えられます。
したがって、著作権法上の「著作物」に当たらず、著作者の権利は問題とならないと考えます(著作権法第2条第1項第1号、同項2号、第17条第1項)。

次に、実演家の権利について、ソフトテニスの試合やプレーは、「著作物」ではなく、「著作物を……演ずる」ものではないと考えられます。
したがって、著作権法上の「実演」には当たらず、実演家の権利も問題とならないと考えます(著作権法第2条第1項第3号、同第4号、著作権法第90条の2以下)。

以上のように、大会会場で選手がソフトテニスの試合をする姿を撮影し、それをYouTubeにアップロードをする場面においては、著作権法の権利は問題にならないと考えられます。

(なお、第三者がソフトテニスの試合を撮影・編集した映像を自分が利用しようとする場面においては、同映像が著作権法上の「映画の著作物」に該当する可能性があり、著作権法上の権利の問題が生じる可能性があります。)

3 ソフトテニスの放映権は誰が有するのか

前述したように、大会会場で撮影したソフトテニスの試合動画については、放映権が問題になります。

それでは、ソフトテニスの放映権は、本来誰が有する(誰に帰属する)のでしょうか。

この点、放映権については、法律上に明文の規定がなく、法律の条文に答えが載っていないので、難しい問題となります。

ソフトテニスの放映権が、本来誰に帰属するのかという問題を考えるためには、放映権が発生する法的根拠に遡って検討する必要があります。

・放映権の法的根拠とその帰属主体

放映権の法的根拠については、(1)施設管理権に由来するという見解、(2)主催者に帰属するという見解、(3)選手の肖像権に基づく権利であるという見解があるといわれています。

各見解の詳細な考え方と、その見解から導かれる放映権の帰属主体についての詳細は以下のとおりです。

(1)施設管理権に由来するという見解
スポーツの試合を撮影するためには、試合会場の管理権を有する者から機材を持ち込んでよいという許諾を得る必要があり、放映権はこの施設管理権に由来する。
この見解によれば、本来的には試合会場の所有権を有する者に放映権が帰属することになる。
もっとも、通常は、試合の主催者が試合を実施するために施設を利用する権利(いかなるものの入場や機材の持ち込みを認めるかという管理権を含めて)を許諾されていると考えられるため、主催者がその試合の放映権を有すると考えることが可能である。

(2)主催者に帰属するという見解
スポーツの試合を実施するための競技場の手配、選手の確保、宣伝広告等に費用を投下しリスクを負担したことに放映権の根拠を見出す。
この見解によれば、リスクの負担者である大会の主催者に放映権が帰属すべきであるとされる。

(3)選手の肖像権に基づく権利であるという見解
スポーツの試合を撮影して放送等する場合、必然的に選手の容貌を撮影することになるが、選手は自己の容貌をみだりに撮影されないという人格的利益(肖像権)を有しているため、この肖像権に放映権の法的根拠があると考える。
この見解によれば、本来的には選手に放映権が帰属することになる。
もっとも、選手契約や大会への参加規約によって肖像権の利用許諾が行われている場合には、かかる許諾を受けて肖像権を管理している者に放映権が帰属することになる。

平尾覚監修 佐藤弥生監修 稲垣弘則編著 西村あさひ法律事務所スポーツプラクティスグループ 著『DX時代のスポーツビジネス・ロー入門』(中央経済社、2021年)240,241頁

このように、放映権は法律に明文の規定がなく、放映権の法的根拠をどのように考えるかによって、放映権が本来誰に帰属するのかという結論も変わることがわかります。

もっとも、プロ野球や、Jリーグなど、規模の大きいプロスポーツ団体では、利害関係者に適用される協約等を制定して運用しているようです。

4 ソフトテニスの動画をYouTubeにアップする際に留意すべきこと

・留意すべきこと

前述のとおり、放映権の法的根拠とその本来的な帰属主体については、複数の考え方があります。

しかし、放映権の問題については、少なくとも、その帰属主体となり得る3者(試合会場の所有権者、大会の主催者、選手)が利害関係者であることがわかります。

これをソフトテニスの大会会場で撮影した試合動画をYouTubeにアップロードする場合の放映権の問題として考えると、(1)テニスコートの所有者(2)大会やイベントの主催者(3)選手を始めとする出演者という利害関係者に対して、それぞれの有する権利または法的な利益を考慮する必要があるということに、留意が必要だと思います。
(少なくとも、これらの利害関係者のいずれかの意思に反して試合動画をアップロードすることには、慎重になるべきだと思います。)
 
安全な対応としては、(1)テニスコートの所有者、(2)大会やイベントの主催者、(3)選手を始めとする出演者のそれぞれから、試合動画をYoutubeにアップロードすることの許可を取得することであるといえます。
 
仮に、試合動画をYoutubeにアップロードしたことによって、放映権を有する者の権利または法的な利益が侵害されたとの主張があった場合、発生した損害について賠償責任を負う可能性も否定はできないと考えられます。

・補足例(天皇杯・皇后杯の場合) 

なお、例えば、日本ソフトテニス連盟主催の大会である「第77回天皇賜杯・皇后賜杯全日本ソフトテニス選手権大会」の大会要項においては、「13. 参加の条件」の(12)に、「本大会に係わる映像等の広報についての活用と一切の権利については、日本連盟に帰属し、承諾するものとする。」と規定がされています。

「第77回天皇賜杯・皇后賜杯全日本ソフトテニス選手権大会」の大会要項:
https://www.jsta.or.jp/wp-content/uploads/t_records/2022/2022_A09_10d.pdf

この大会要項の法的な意味については、日本ソフトテニス連盟の「競技者規程」との関係や、他の利害関係者の有する権利または法的な利益との関係など、検討すべき点がいくつかあるとは思います。

もっとも、少なくとも、天皇杯・皇后杯において、日本ソフトテニス連盟の許可を得ないで試合動画をYoutubeにアップロードすることは、日本ソフトテニス連盟の意思に反するということがいえそうです。

5 最後に

この記事では、主に、自分が大会会場で撮影した試合動画をYouTubeなどの動画サイトにアップロードする場合を念頭に、放映権という権利の問題を中心に解説しました。

ソフトテニス界が、今後、健全に発展していくためにも、この記事が放映権の問題について理解を深めるきっかけになれば幸いです。

また、この記事では紹介しきれませんでしたが、ソフトテニスの動画にまつわる法律の問題は他にもあります。
需要があれば、今後、別の切り口からも記事を上げていきたいと思います。


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