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その広告、法令違反になっていませんか?~銀行の「マーケティング」と「営業企画」の教科書~

銀行のマーケティングと営業企画について、実務的に学んでいく本シリーズ。
今日は、過去に消費者庁等から行政処分を受けた銀行の広告事例を紹介します。いずれも、企画担当者や広告担当者に悪意はありませんでしたが、このような広告を行うと、銀行の信用失墜につながる可能性もありますので注意が必要です(自戒も込めて・・・)。

①イオン銀行に対する措置命令

2020年3月、消費者庁は、イオン銀行に対し、クレジットカード及びデビットカードに係る広告の表示について、景品表示法に違反する行為があったとして「措置命令」を行いました。

まずは、どんな広告だったのか確認してみましょう。

措置命令を受けたイオン銀行の広告

右上の女の子たちの権利関係が気になったので、顔は隠してみました。
この子達誰?〇〇坂??下記消費者庁のホームページには、顔写真付きで出てますので、気になる方はチェックしてみてください(本題と関係ないですが…)。

何が問題だったの?

簡単に申し上げると・・・
「カード使ったら、20%キャッシュバックって書いとるばってん、みんながみんなキャッシュバック受けれるわけじゃなかろうもん。右下に何やら小さか文字でいろいろ書いとるけど、誰もそげんな文字読まんし、他にも条件あろうもん。」ってことです。

失礼、博多弁にしたら、わからなくなりましたので言い換えます。
「カードを利用したら20%キャッシュバックと大きく書いていますが、全員がキャッシュバックを受けられるわけではないですよね。右下に小さな文字で条件が書かれてますが、そんな小さな文字では誰も読まないです。それに、他にも条件ありますよね。」ということでです。

これは、景品表示法第5条第2号の「有利誤認」にあたると指摘されました。「有利誤認」とは、商品やサービスの価格やその他の取引条件について、実際よりも著しく有利であると一般消費者に誤認させたり、あるいは、他社と比較して著しく有利であると誤解させるような表示を言います。

では、本件はどうでしょうか?
20%キャッシュバックを受けるための条件として、下記の3点が表示されています。
①対象期間中にカードの利用があること
②公式アプリをダウンロードし、イオン何ちゃらIDでログインし、キャンペーンに応募すること
③カードの引き落とし口座がイオン銀行であること

なるほど、確かに大事な情報が小さく書かれていますね。実は、さらに、そもそも書かれていない条件もありました。
①携帯電話料金や公共料金などは対象外
②キャッシュバックの上限額は、1回あたり1万円かつ1人あたり10万円

消費者庁はこれらを総合的に判断して、「有利誤認」と判断したと考えられます。本件は、デジタルサイネージの広告ですが、自社Webサイト、動画広告についても「有利誤認」を指摘されました。

どんな命令を受けたの?

結果的に、イオン銀行は、以下3点の命令を受けることになりました。
ⅰ)本件が「実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認さ れる表示であり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底」すること。言い換えると、「私は法令違反を犯しました」と世間に周知せよということです。
ⅱ)再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。
ⅲ)今後、同様の表示を行わないこと。

かなり、厳しい内容ですよね。

②みずほ銀行に対する公正取引委員会の警告

さて、イオン銀行の事例から遡ること14年。2006年8月、多くの銀行を震撼させたのが「みずほ銀行住宅ローン広告事件」です。すみません、私自身の当時の衝撃から「事件」と勝手に名付けてしまいました。

何が問題だったの?

みずほ銀行は、住宅ローンの金利について、
〇申込期間:平成18年3月1日~31日
〇借入日:~平成18年6月30日
であれば、表示どおりの金利が適用されるかのように表示していました。

実際には、借入れが4月以降になれば表示どおりの金利は適用されず、金利が上昇した場合、表示した金利より割高の金利が適用されるものでした。

銀行界が震撼したのは、当時ほとんどの銀行が同じような表示を行っていたためです。私自身も「明日は我が身」と震えたことを記憶しています。

本件については、金融庁の五味長官(当時)が次のようにコメントしています。

<問>
みずほ銀行の住宅ローンの宣伝の金利表示をめぐり、公正取引委員会が近く警告を出す運びになっているかと思いますが、この問題に関して長官の御所感と、それから他の金融機関も含めて金融庁として対応を考えていらっしゃることがございましたらお聞かせください。

<答>
お話のような報道がありましたけれども、公正取引委員会から具体的に警告が行われたという公表が現段階でされておりませんので、具体的なコメントは控えさせていただきます。

一般論で申し上げますと、顧客の保護、或いは利用者の利便といった観点から、金融機関などがチラシや広告等をお作りになる場合には、その内容が誤認されることがないように、分かりやすいものにするような工夫がされるべきであるというふうに考えます。仮に金融機関が顧客に誤認されるような表示を行って、それが顧客保護及び利用者利便にもとるような事態となったということであれば、その金融機関に対しては適切な監督を行う、即ち、再発防止に万全を期すように促す、或いは例えば銀行であれば銀行法24条に基づき報告を求めて事案の内容を精査することになります。

また、他の金融機関との関連でという御質問がございましたが、こうした問題は、まずは各々の金融機関が広告の作成にあたって、顧客保護・利用者利便という観点から遺漏の無いように期していただくことが何より重要だと思います。今回話題になりました特定の広告というのは、他の銀行の方も多分御覧になることが出来るわけでして、こうしたものであれば問題にされ得るということは明らかなわけですから、こうした点も踏まえて、まずは各金融機関がきちんとした分かりやすい広告を作っていただく必要がある。また、その点は金融庁としても促して行きたいと考えております。

五味金融庁長官記者会見の概要(平成18年8月7日、金融庁ホームページ)

銀行界の対応は?

全国銀行公正取引協議会は、同年9月、会員行に対し、以下の通知を行いました。

1. 公正取引委員会から、実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認されるおそれがあるとして、警告を受けたような広告表示は行わないこと。
2.表示した住宅ローン金利と実際に適用する金利との関係が一般消費者にとって理解しにくい広告表示については、早急に改善すること。
3.金利優遇キャンペーンに関する広告表示については、キャンペーンの内容を明確にすること。
4.広告表示を行うにあたっては、可能な限り平易な言葉で分かりやすく、かつ正確な情報を媒体の種類やスペース等に応じた適切な方法により明瞭に表示するよう努め、一般消費者の誤認を招くような表示は行わないよう十分留意すること。
5.広告表示に関する行内のチェック体制を再確認すること。

全国銀行公正取引協議会の通知(平成18年9月19日)

あわせて、具体的な広告の作成例を示しています。
今でも住宅ローンの金利チラシに文字が多いのはこのためです。

住宅ローン金利の広告表示例(全国銀行公正取引協議会)

おわりに

みずほ銀行が警告を受けたのは、2006年当時のことですが、ちょうど今と同じで、金利が上昇局面に入ったタイミングでした。マイナス金利が解除され、今後住宅ローン金利も上昇が予想されており、本部の企画担当者・広告担当者は改めて当時のことを学びなおしておく必要があります。

せっかくのキャンペーンや新商品も、広告を否定されてしまっては、すべてが台無しとなり、銀行の信用失墜につながります。
銀行の企画経験の少ないみなさんは、広報部門やコンプラ部門ともしっかり連携し、お客さま目線の広告を作成していきましょう。

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