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私がカウンセリングに行かなくなった日。

*あるアーティストの魅力をフィクションストーリーに添えて発信。

「人生、やめたい。。。」

通っていたカウンセリング診療所の最寄り駅である代々木駅が過ぎた。降りる駅がどこかさえも分らなくて、何も考えられなくて、平日の真昼間にも関わらず、ただひたすら山手線の電車に揺られていた。

新宿、駒込、秋葉原とただただ流れ、代々木駅がまた過ぎていく。

「なんでこんな私なんだろう?なんであんなミスをしたんだろう?」

こんなはずじゃなかったのに。。。

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5年前、今の会社である[The Earth]というアパレル会社に就職した。

アパレルに興味を持ったのは、学生時代に所属していた[学生ファッションショーサークル]がきっかけ。かっこいい先輩方に憧れて入って、ショーのイベントの運営をやった。大好きなメンバーたちと作り上げる感覚は何よりも楽しくて、最終的にはサークルの代表者にもなったの。

ただ、実は、みんなに言えなかったことがあった。それは服をデザインすること。モデルさんが着こなすファッションや、協賛頂いたアパレル会社さんの服を見ていると、次第に自分でもデザインしたいと思えるようになっていき、昔からイラストを描くのも好きだったこともあり、スケッチブックに服のデザインをこっそりするようになった。ただ恥かしくて、仲の良いメンバーにも言えなかった。

「いつか自分の服、作れたらな」と呟きながら、

家でスケッチブックに服のイラストを描き続けた。

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「工藤アリサさん、この会社ではどんなお仕事をやりたいですか?」

ちょっと戸惑いながらも面接官にこう答えた。

「新商品PRイベントの企画・運営をやりたいです!学生時代に活動していたファッションショーの運営の経験の中で、仲間と一緒に見つけたファッションを多くの人に広める活動をしてきて、仲間と共にイベントを手がける楽しさや新しいファッションを見た時のお客さんの笑顔が何よりも生きがいでしたので!」

そして、この会社に就職が決まり、PR部門での仕事が始まった。

学生時代にやっていた活動とは比にならないくらい、この仕事は忙しかった。PRイベントは色々なカテゴリごとに企画する必要があり、同時期に何個もイベントの運営をやる必要があったし、製造から営業、企画など多くの部門からの期待が大きく、一つ一つのイベントへの期待感も本当に強かった。

それでも、いや、だからこそ、やりがいがあった。学生時代よりも、一つ一つの達成感があったし、イベント後に街中でPRした新製品を着ている人を見ると、本当に嬉しかった。

忙しくて家に帰れない日々が続いたけど、私は一生懸命に働いた、社会人になってからも描き続けていたスケッチブックが埃(ほこり)かぶるくらいまでに。

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そんな日々が続いて3年経ったある日、

「おい、工藤さん、これどうなってんだ!?」

声高に上司が叫んだ。

「も、申し訳ありません!!」

会場の予約を誤って開催日の1週間後にしてしまっていた。

3年間、一度もした事なかったミス。

「なんでこんなミスを。。。」

この時は、上司が施設責任者に働きかけてくれて、会場の日程を開催日通りにおさえて、無事にイベントが行うことができた。

ただ、この日以降、何度もミスを繰り返した。

イベントのサンプル品の納期指示を間違え、
会場で使うイスの発注数を1ケタ間違えたり、
アルバイトに支払うお金を会社に忘れたり。

「すいません、すいません、、、」

こんな言葉が口癖になっていた。

「アリサ、これ受けてみれば?」

ある日、日頃から心配してくれる同期が代々木駅にあるカウンセリングを勧めてくれた。その日以降、週に一度、そのカウンセリングを受けた。カウンセリングの先生のおかげで、ミスをしてしまう日々の自分に対して責めなくなって、ミスも少しづつ減っていった気がした。

そう思っていた。。

そう勘違いしていた。。。


半年経ったある日、

「おい、工藤!! これどうなってんだよ!」

声高に大きな声で上司が叫んだ。

職場が一気に静まった。

会場の予約をまた誤って、しかも開催日の1ヶ月後にしていた。

どうしようもないミスだった。

もう取り返しのないミスだった。

「申し訳ありません!申し訳ありません!申し訳ません!」

私の声が、私の声だけが、オフィス中に響く。

上司は小さな声で言った。




「お前、しばらく休めよ。」




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通っていたカウンセリング診療所の最寄り駅である代々木駅が過ぎた。新宿、駒込、秋葉原とただただ流れ、代々木駅が何度も過ぎていく。

ただ揺られて、ただスマホを眺める。

ただ揺られて、ただSNSを眺める。

ライブ いちじかん!おいで! - iPhoneからライブ配信中!

夜8時を過ぎた頃、
眺めていたTwitterのタイムラインに誰かのこんなRTが流れてきた。

海羽(みう)っていう女性シンガーソングライターのライブ配信みたい。

ふと気になり、イヤホンを取り出し、タップした。



あたたかく、

やさしく、

こころつよい歌。

そんな歌が聴こえてきた。


あたたかく、

やさしく、

こころつよい声。

そんな歌声が聞こえてきた。


初めて聴くのに、いつも聴いているような歌、いつも聞いているような声。

電車の中は人がほとんどおらず静かだったけど、歌詞が頭に入らなかった。

ただただ、彼女の歌声が心に聴こえてくる。

なんでだろう? 私の心の中に、彼女の歌声が入ってくる。

なんでだろう? 私の心の中に、彼女の言葉が入ってくる。

大丈夫だよ。
不安になるの分かるよ。
そのままの君でいいよ。
君のやりたいことやっていいんだよ。
ちょっとづつ、少しづつ頑張ろう。
応援してるから。

流れてきている音楽は恋愛ソングみたいだけど、
なんだか彼女のこんな言葉が聴こえてきた。

私のことをずっと見てくれていて、
私のことをずっと知ってくれているみたいに。

彼女の書いた歌詞には無い彼女の言葉が

私の心に響いていた。

彼女の書いた歌詞には無い彼女の言葉が

心の埃(ほこり)を拭い去り、
今までの私のことを見せてくれた。

彼女の声を聞いてくるにつれ、

100ページでも収まらない私の心が見えてきた。
100色でも収まらない私の心がはっきりと見えたの。


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夜9時、

私は、代々木駅には降りず、
家の最寄駅の高田馬場で、私は降りた。

家に着いて、
いつものように手洗いうがいをし、お風呂に入った。

部屋を片付け、埃(ほこり)かぶったスケッチブックを取り出した。

私の手で埃(ほこり)を拭い去り、

「自分の服、作りたい」と呟きながら、

その夜、スケッチブックに服のイラストを描き続けた。

5年間できなかった笑顔で描き続けた。


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翌朝、

いつもより早く家を出た。

いつもより早くオフィスに着いた。

いつも出社の早い上司の元に行った。

「話したいことがあります!」

上司は私の目を見て頷いた。

上司と共に会議室に入った、

100色詰まったスケッチブックを抱えながら。

【終わり】

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【今回ご紹介したアーティスト】

・海羽
・埼玉県出身シンガーソングライター (19歳)

*Twitter: https://twitter.com/miu_rairai?s=20 
*Instagram: https://instagram.com/miu_rairai?igshid=1t929ook4hcw1 




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