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「決定版 快読シェイクスピア」 河合隼雄・松岡和子

新潮文庫  新潮社

ジュリエットは14歳

もともとは、蜷川シェイクスピアのパンフレット企画としての対談。新潮文庫ーちくま文庫ー新潮文庫と入れ替わっていくうちに増補されていった。でも、松岡和子氏のシェイクスピア訳はちくまだよねえ…
河合隼雄の心理学的知見からシェイクスピアを見ていくのが楽しそう。
昨日は最初の「ロミオとジュリエット」を。原話は16歳設定だったジュリエットをもうすぐ14歳という設定にしたところがシェイクスピアの慧眼という。生か死かという次元の悩みに没入する時期なのだそうだ。
(2018 05/12)

「間違いの喜劇」と双子の世界比較

「間違いの喜劇」というかなり初期の作品。初期作品では、とにかく言葉遊びとかドタバタとかたくさん使ってみようという傾向があるらしい。「十二夜」(これ松岡和子訳で読んだ)と同じく双子取り替え騒動なのだが、こっちは主従両方双子で、しかもどっちも同じ名前なのだという。無茶苦茶な設定だと思うのだが(シェイクスピアが使った原作品がそういう設定)、双子の名前の世界比較という問題提起は面白そう。
さて、話題はそこから「運命」について。

 双子で似ているのに性格が違うという面白さではなくて、ここでは運命が違うんです。だから、このころの考えかたは、そちらの方が先だったのではないかと思います。
(p65)


運命論的考え方が主流だったということかな。これも階級、世界比較もしてみたいところ。
ちなみに「死ぬ瞬間」などの著者、キュブラー=ロスは三つ子だという。他の姉妹の恋人に代わりに会って、自分とは何か考えたという。

松岡和子の翻訳について

松岡和子氏についても。ちくま文庫版全集は現在29巻。松岡氏の翻訳は、原著オンリーではなく、舞台の役者などとのやりとりで翻訳を変化させていく。例として、「オセロ」のオセロとデズデモーナのやりとりで出てくる「あなた」という呼びかけの最後だけ変えたエピソードが「深読みシェイクスピア」(これも新潮文庫)に出てくる。
(2018 05/13)

「真夏の夜の夢」の四層構造


一番上が男たちの世界、その次が女たちの世界、その下に職人たちの世界があって、最下部に妖精の世界がある。これは人間意識の構造そのものだと河合氏。女たちは緩い女同士の結合、職人たちはかなり強い男同士の結合。この中で唯一最下部まで到達する人間がその名もボトムという職人。あと最後5幕の劇中劇は話の本筋からすると必要ないもの。そもそも職人たちという存在が必要ない。松岡氏の憶測だとこの部分は「楽屋落ち」の劇なのでは?とのこと。実際の上演では扱いが難しいところ。
(2018 05/16)

シェイクスピア、ダイジェストメモ


「快読シェイクスピア」昨日読み終え。

 生きるのに「なぜ」なんてないんですよ。生きていること自体がものすごいんであって、何かをするために生きているというのは、ちょっと偽物めいている。
(p183)


ハムレットの人生。この時点で30歳(ジュリエットやリア王と並んで、原作に年齢情報が書き込まれている数少ない例のひとつ)。最初は母の姦通からすぐかっとなる少年、それが演技を覚えることで大人になり、最後の墓掘り人の場面(これも筋には関係なし)まで、いっときに人生全体を体験する。
(ハムレット)

 10人もの人物が殺される「リチャード三世」が、観客の前で殺されるのはリチャード三世本人のみ。
 大体、善人というのは反省しない。これが一番怖いです。
(p233)

 悪のために悪をやると喜劇的になるんですね。
(p235)

反省しない善人はただの悪人?
(リチャード三世)

マクベス夫人は強迫神経症(手を洗う場面)
マクベスの殺人はリチャード三世よりもっと深い無意識によっている。「動かされている人」
マクベス夫人はマクベスの狂気を転嫁され狂ってしまった。
(マクベス)

シェイクスピア唯一の「現代劇」。言い間違い(フロイト先取り?)など言葉の癖多い。癖は個人の儀式。
作品の筋を追うより人間のタイプを楽しむ劇。
(ウィンザーの陽気な女房たち)

ヨーロッパの森なのにライオンや毒蛇がいる。その森に入って全て丸く収まってしまう。
人生のライフサイクルを言う台詞。洋の東西を問わずライフステージ理論というのは女性のことを考えていない。女性は身体でわかるが、男性は「理論」で教えてもらわないとわからない。
結婚する道化タッチストーン。タッチストーンとジェイクイズはコインの表と裏。
(お気に召すまま)

「凱旋将軍のイニシエーション」の失敗例。帰還兵の日常戻りの困難さ。前近代的世界では、戦いに行く前後で必ず儀式がある。現代にはそれがない。
言葉が命令系オンリーだったのが、疑問形が生まれる。そのきっかけはタイタスの娘ラヴィニア。夫を殺され、犯されて、舌を切られる。そこに至って疑問形がタイタスから出るが、もう答えられない。
(タイタス・アンドロニカス)
(2018 05/20)

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