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『デッド・ドント・ダイ』

 舞台となるのはアメリカの田舎町センターヴィル。3人しか居ない町の警官全員が眼鏡をかけており、非常に眼鏡キャラの多いゾンビコメディです。この映画には他にも特徴がありまして、豪華なことにこの映画のためにわざわざグラミー賞受賞歴のあるカントリー歌手のスタージル・シンプソン(Sturgill Simpsonが主題歌「The Dead Don't Die」 を制作しており、俳優陣だけではなくミュージシャンも多数出演している2020年公開の映画です。低予算なのに。

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低予算なゾンビコメディの本作の見所は物語以上に、豪華な主題歌と出演陣にあるのかもしれないと思ってしまうほど

 そして、アダム・ドライバー演じるロニー・ピーターソンが、この映画の台本を読んで物語の結末を知っている風のメタ的台詞を言ったりするけど、だからといって結末が変えられるわけでもなく最悪の結末に向かって物語が収束していく。
 ちょっとばかり謎を残しながら。

「結末が悪い方向に向かっていると知っているけど、どうすることもできない役者」

 といったこの物語の構図が恐らく現代の我々を風刺していると推測すると、「結末が悪い方向に向かっていると知っているけど、どうすることもできない役者」とはすなわち「結末が悪い方向に向かっていると漠然と頭の中では思いながら、行動を起こさずコーヒーを飲みスマホでインターネットをして時間を消費しやがて死ぬこのゾンビみたいな現代人たち」なんじゃないかとすると、この物語にはなかなかに強烈なメッセージを観客に発信しているなぁと私は思うわけです。
 結末(世界)が悪い方向に向かってしまう原因(物質主義)たる部分(人間)を表象したような存在がこの作品のゾンビでしょうか。色々なものの依存者といった風体のゾンビたちです。

作中のテレビ番組では、エネルギー企業の極地での水圧破砕工事のせいで地球の自転にズレがが生じた可能性を示唆し、それが様々な悪影響を生じる原因としています。センターヴィルでも白夜が続いたり、ペット含む動物の異常行動などがニュースとして扱われていて、作中で明確になっておらず推測ですがゾンビの発生も恐らくはエネルギー企業などの人間の開発による環境破壊が原因なのかもしれません。 だとすると、環境問題で世界が滅亡してしまう前に行動を起こすことを訴えているのかなぁとも思いました。他にこれといった原因も作中に出てきませんし、推測ですが。
 大量生産・大量消費されるモノ(物質)は経済成長の源でしたが、産業がもたらす環境負荷を削減して持続可能な社会を実現するみたいな考え方ってまさに今風というか、時代の流れを感じます。

 調べてみると、この映画を構成している要素の出演陣が作中でなかなかに面白い感じなので、楽しんで制作されたのでしょう。

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ロニー・ピーターソン/アダム・ドライバー
 二人乗りのスマートカー(smart社)が愛車でセンターヴィル署の巡査。メタ的発言をする。
「スターウォーズ」のキーホルダーを持っている。ジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」にも出演していたことから捩って「ピーターソン」になったらしい。スターウォーズで多用される台詞「I have a bad feeling about this」(嫌な予感がする)を真似て、口癖が「This is all gonna end badly」(嫌な予感がする)。
 フロントの眉頭の位置に縁があるサーモントは40年代後半にAmericanOptical社がアメリカ軍将校モント氏の注文で作った目鏡。威厳ある将校風目鏡でユーモラスなセレクト。

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クリフ・ロバートソン/ビル・マーレイ
 非常に繊細なニュアンスの演技で魅せてくれるビル・マーレイ演じる署長。大きく丸みのあるウェリントンで、ウェリントンシェイプは50年代にアメリカで流行したデザインらしい。クラシカルな装いが似合っています。

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ミンディ・モリソン/クロエ・セヴィニー
 愛車はプリウス。公務員なせいか地味にまとめてあるヘアメイクに、フォックスシェイプのメガネのチョイスがおしゃれでアクセントになっている。

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フランク・ミラー/スティーヴ・ブシェミ
 トランプ政権を風刺したキャラで白人至上主義者で、帽子に「KEEP AMERICA WHITE AGEIN」(アメリカをもう一度白人の国に)と書いてあるレイシスト気味な農家。

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ボブ/トム・ウェイツ
 シンガーソングライターで俳優、グラミー賞2度受賞したロックの殿堂入りアーティストが演じる森に住む世捨て人。

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ボビー・ウィギンズ/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
 センター・ヴィルの雑貨屋で働くホラー映画オタク。
映画ノスフェラトウ(吸血鬼)のTシャツを着ていて、ディーンにビルボ・ヴァキンズ(トールキン作「ホビットの冒険」の主人公)と呼ばれている。

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ゼルダ・ウィンストン/ティルダ・スウィントン
 センターヴィルにやってきたスコットランド人らしい東洋趣味な刀使いの葬儀屋さん。
死体に施す死化粧がドラッグクイーン並に派手。

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ゾーイ/セレーナ・ゴメス
 世界的歌手セレーナ演じる、友達の男を2人を連れて都会からバカンスにセンターヴィルにやってきた女の子。
 彼女が運転する68年型のポンティアック・ルマンは「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の冒頭でヒロインが乗っていた車と同じらしい、作中で皆めっちゃ車を褒める。監督がセレーナのファン。

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ディーン/RZA
 ヒップホップグループ「ウータン・クラン」のメンバーが演じる、センターヴィルの配送業者。

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コーヒー大好きゾンビ/イギー・ポップ
 ゾンビになったイギー・ポップが観れるのはこの作品だけ!。
 私個人的にはハロウィンで仮装するならゾンビが一推しなんですが、彼もゾンビに仮装してみたかったんじゃないかと思う。

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コーヒー大好きゾンビ/サラ・ドライバー
 ジム・ジャームッシュ監督の奥さん。

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ファッションゾンビ/シャーロット・ケンプ・ミュール
 スーパーモデルかつ、交際中のジョン・レノンの息子ショーン・レノンと音楽デュオ「The Ghost of a Saber Tooth Tiger」を結成したベーシスト。

この映画の主題歌を作って歌っているグラミー受賞カントリー歌手のスタージル・シンプソンも劇中でギターを引っ張るゾンビ役で出演している。主題歌だけに作品のテーマになっている。

出典:IMDB

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