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ローマの冬~クラシックに浸る

「Perfect Days」と「君たちはどう生きるか」がイタリアの映画界で快進撃を続けている年明け、年末までと裏腹に観たい映画はなかなかタイミングが合わず、一方で心に残る演奏会を2回続けて、堪能する機会があった。

 チョン・ミョンフン指揮で、ベートーベンの交響曲第6番「田園」、ストラビンスキー「春の祭典」。
サンタ・チェチリア国立アカデミー交響楽団の定期公演SNSで流れてきた広告を見て、ふと、ああ、なんだか新春らしいプログラムでいいなあ、と思って、オンラインでチケットを購入したのは公演数日前のこと。土曜日の公演はシーズンチケット保有者が多いのだろうか、空いていたのは、ステージ後方の最上段のブロックのみ。オペラやバレエではないし、かえっておもしろいかも!と思って、最上列の中央席をゲット、これがほんとうにとても楽しめた。
 かつて常任指揮者を務め、その後も度々里帰りしているらしい指揮者は、一段と暖かく観客からもオーケストラの楽団員たちからも迎え入れられ、さっと指揮台に立って指揮棒を振り始める。こちらはずっと上方とはいえ、通常の演奏会とは異なり、演奏家らとともに指揮者の顔が見える位置にいる。譜面台を使わない指揮者の、表情はもちろん腕から指先、そして足先まで全身がよく見える。一方、(オペラグラスで覗き込めば)バイオリン奏者たちの楽譜まで読み取れそう。それはとても不思議な感覚で、弦楽器のとろけるキャラメルのような音に飲み込まれ、いい意味で酔い、と同時にその場に引き込まれ、まるで自分も演奏に加わっているかのような、錯覚に襲われた。管楽器が全く物理的に「見えない」のが唯一残念といえば残念で、最初はその分、管楽器の音も少し聞こえづらい気もしたが、ほんとうに気のせいだったのかもしれない。すぐに慣れて、その違和感は完全に杞憂だった。特に、「春の祭典」の管のパーンと華やかな迫力は、頭から上にスコーンと抜けるようで、聴き終わった後に心がスッキリ、シャキッとした。

 翌週は、友人に誘われて、エフゲニー・キーシンのソロ・コンサート。こちらは、ほぼかぶりつきの、ピアニストの手、特に右手の動きが指まではっきりと見える、そんな席で「観た」。あまり大きくない、指もそう長いとも見えない、丸みのある柔らかそうな手。手のひらと指はあくまでも丸く、ところが第3関節というのだろうか、指と手の甲の間の関節がびっくりするくらいグッと後ろに反る。その白魚のような滑らかな手から、フォルティッシモからピアニッシモまで、自由自在に、そして一つ一つがぶれることなく、しぜんに、まるで何の苦もなく、真珠の粒のような音がこぼれ落ちてくるのだった。
 そうして彼の全身から溢れ出てくる音楽は、不思議と、五線譜で言うならば、本来は小節ごとに引かれているはずの縦の線がなく、全ての音が、上下左右に自由に揺れて流れてくる。びっくりしたことに、それは確かに、いわゆる「クラシック」な曲たちであったはずなのに、ほとんど現代音楽のようにさえ思えた。
 かつては技巧派だったらしいピアニストの、それは数多くの経験と、そしてもしかすると年を重ねたことで生じた変化なのだろうか。
 満席のホールから包み込まれるような拍手が鳴り止まず、アンコールも3曲披露された。

 サンタ・チェチーリア・ホールの演奏会、またまた次が楽しみでワクワクする。

direttore Myung-Whun Chung
Orchestra dell’Accademia Nazionale di Santa Cecilia
Ludwig van Beethoven Sinfonia n.6 “Pastorale” in Fa maggiore op.68
Igor Stravinskij Le sacre du printemps

pianoforte Evgeny kissin
Beethoven Sonata n.27 op.90
Brahms 4 Ballate op.10
Rachmaninoff 6 moments Musicaux
Prokofev Sonata n.2

4 feb 2024

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