書く人のスランプの乗り越え方
ずっと書いてるとどうしたって書けないときがある。仕事で書くプロだろうと好きで書いていようと。
書けないといっても、スランプのかたちはそれぞれだ。
そもそも筆が乗らなくて書けない。何を書けばいいのか見えなくなる。書きたいものがうまく書けない。書いても平板なものになってしまう。書いたものに手応えがない。まあ、ほんとにいろいろある。
スランプという用語は基本的にスポーツの世界で使われる。不調に陥って本来の力が出ない。パフォーマンスと結果の低迷状態。
そこで、いろいろもがき苦しむのだけど、なかなかスランプを脱しきれない。
スポーツの世界では、試合の中でわりと明確にスランプが本人にも周りにもはっきり見える。ヒットが打てなかったり、スマッシュが決まらなかったり。それに比べると「書く」スランプは、わかりづらい。書くには一応書けてしまう。
だからというわけでもないのだけど、気づいたときにはスランプの中にいる。
いつそうなったのか、いつまで続くのか、抜け出す光は見えるのか、何もわからない。
僕自身だって何度もあったし、これからだってあると思う。凡人なので。スランプと無縁になれればいいけど、そうもいかない。逆に言えば書き続ける人はスランプともうまく付き合っていくしかないのだ。
じゃあ、どうやってうまくスランプと付き合うのか。その辺りはやっぱり、スランプの先輩(?)プロのスポーツ選手が参考になるかもしれない。
野球知らない人にはプロ野球選手の例で大変申し訳ないのだけど、元阪神・ロッテのイケメン鳥谷さんの考え方も面白い。あとで話がつながるから大丈夫。
鳥谷さんも、調子が落ちてるときは何をしても戻ってこないという。負担の大きい遊撃手として連続試合フルイニング出場の日本記録を持っていても、スランプからは逃れようがなかった。
最高ランクにいるようなプロでさえも、スランプには打つ手がない。いや、むしろ「何かしよう」とすればするほどおかしくなる。
そこで鳥谷さんがやっていたのは「打数を減らす」という考え方。
1試合で4回打席に立ったとして、3打席凡退、1打席だけヒットだったとすると打率は「4打数1安打=2割5分」。悪くはないけど良くもない。それで試合に出続け、その間に全打席凡退の「4打数0安打」なんかが続くと、さらに打率は下がってしまう。
スランプに陥ると20打席近く無安打なんてこともある。ヒットは打てない。だけど四球(フォアボール)を選んだり、走者を進める送りバント(犠打)や犠牲フライを打つことは1軍レギュラークラスならできる。チームにだって貢献できる。
すると、四球や犠打は打数にカウントされないから、その分だけ打数は減る。4回打席に立って、凡退が1回、犠打と四球が1回ずつ、ヒットが1本なら「2打数1安打=5割」。ヒットが1本しか打てないのは変わらなくても、打数を減らすことで打率は上げられる。
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もちろん、常にこんなふうに一見、消極的な考え方でシーズンを戦うわけじゃない。調子のいいときはもっと攻めて打ちたい気持ちを前面に出していく。それで波に乗れる。
ただ、調子を落としたスランプのときに「なんで打てないんだろう」とネガティブにならず、どうやって打数を減らすかを「ポジティブ」に考えてやるほうが、結果的にスランプから抜け出しやすいのだ。
いや、野球の話が聞きたいんじゃないよ。文章を書いてる人、創作でもエッセイでもなんでも「書けない」とき、どうしたらいいのかが聞きたいんだけど。
そう。よく考えてみると文章を書くのだってフィジカルとメンタルの影響を受ける。自分は何も変わってないはずなのに、打てなくなるように書けなくなる。同じだ。
そんなときに無理に「読まれること」を狙いに行って、自分のスタイルを崩すとさらにおかしくなりがち。
そこで「打数を減らす」。書く人に置き換えると、単純に書く回数を減らす。
勇気はいるかもしれないけど。書かないとさらに読まれなくなるんじゃないかとか。まあでも、調子の悪いときに無理無理ひねって書いたものって、どこかで無理感が読む人にも伝わってしまうから。
書く回数を減らす代わりに、他の誰かの「いいな」と思ったnoteやつぶやき、ブログやメディアの個人記事なんでもいいんだけど、そいつを素直に選んでみる。
なんでいいんだろう? 何に惹きつけられるんだろうに静かに思いを巡らせる。
そこから帯なんかをつけてRTしてもいい。感想noteとかも書けるかもしれない。どういうのにしても、ここでは自分がヒットを打とうとするんじゃなく、自分以外の誰かを推す「犠打」的な感じ。
いきなり知らん人のを何かするのは気が引けるなら、フォロワーさんのでやってみる。
みたいなことをやって自分が無理に書く打数を減らしてると、打率も下がらないし、ふしぎに「じゃあ、自分はこんなふうに書いてみよう」とかが自然に出てくる。これが自分が打つべきボール。
そうしたら、そのボール(書くものの芯)を真っすぐ打ち返すように書く。
これを何度か繰り返すうちに、これもまたふしぎなんだけど書けないスランプを抜け出せるんだ。
もちろん、この考え方、やり方がすべてじゃないけど、個人的には「使える」と思ってるので参考として。
※参考文献 日刊スポーツ2022年1月1日「阪神梅野隆太郎に大先輩・鳥谷敬氏が授けたスランプ脱出の秘策とは?」