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めまい

ふとした拍子に、その少女はめまいを覚えてしまう。

勉強しすぎて疲れた時、テストが終わってホッとした時、そのテストの点数が悪くて母さんにどうやって報告しようか迷っていたら唐突に母さんが部屋に入ってきた時、大好きなあの子に嫌われちゃったんじゃないかって思った時。

頭の中と目の前がぼやけてクラクラ。意識が遠のきかけて、足元がふらついて一瞬だけ倒れそうになるんだけど、でも何とか大丈夫。

そんな体質の自分を、少女は大嫌いだった。

初めてめまいに襲われたその日から、どんな時も元気で健康な自分になりたいって、ずっと願ってきた。

そんな人に、憧れてきた。

悩みを打ち明けると、母さんは言った。

いまのままで、いいんだよ。

あなたは、人よりちょっとだけ感性が繊細なのよ。

きっと、誰かの悩みや痛みをわかってあげられる大人になる。

だから、いまのままでいいんだよ。

そんなもんなのかなあ。

でも、少しだけ、気が楽になった。

少女は知らない。母さんもまた、めまいと折り合い、つきあいながら素敵な出会いに恵まれ、彼女を授かり、育ててきたことを。

#渡辺美里 #めまい #短編小説 #詩 #エッセイ #400文字のショートストーリー

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