なかがわふみゆき

45歳の会社員。文章を書いたり編集したりする仕事に携わっています。家族は妻、中3息子、…

なかがわふみゆき

45歳の会社員。文章を書いたり編集したりする仕事に携わっています。家族は妻、中3息子、小6娘。noteでは仕事から離れ、短編小説の真似事のような、詩の真似事のような、エッセイの真似事のような、400文字程度のショートストーリーを自由に綴りたいと思います。ごくたまに短歌の真似事も。

最近の記事

画用紙

真っ白くて大きな画用紙が、目の前にある。 これ、キミのものだ。 クレヨンでも水彩でも油彩でもいい。どんな色を使っても、何を描いてもいいんだよ。 失敗したら、また、新しい画用紙に描き直せばいい。 そうやって失敗を重ねるうちに、ちょっとずつ、輪郭がハッキリしてくるはずだから。 キミが本当に描きたいものは、何なのか。 でもね、歳を重ねれば重ねるほど、キミの画用紙は少なくなってゆく。 そうなればなるほど、もう失敗できないってプレッシャーも大きくなる。 たった一度の失敗

    • 低気圧爆弾

      近未来にやって来る新戦国時代の話。 世界中の戦場で猛威を振るう兵器は、低気圧爆弾と呼ばれていた。 爆弾低気圧の襲来かと錯覚させる暴風雨が突如、吹き荒れる。建物という建物を破壊する。 でも、これは序の口。 暴風雨の上から降ってくるのは、リアル爆弾だ。破壊された建物の中を、人を、焼き尽くしてしまう。 第一波、第二波と続く攻撃だから、極めてタチが悪い。 低気圧爆弾を造るには、大量の雨と風が必要だ。 だから、低気圧爆弾を造るため、大量の雨と風が地球から消えてゆく。 一

      • 大冒険

        物心がついて、初めての大冒険の目的地は、近所の小さな小さな本屋さんだった。 どうしてもほしいマンガがあった。それが何だったのか、いまでは思い出せない。 百円玉を握りしめ、意を決して一人、その本屋さんまで歩いた。店のおじさんに、こう言ったことをいまも鮮明に覚えている。 「これ、ください」 もう何十年も前のことだけど、百円じゃ本一冊買えないのはいまと同じだ。 おじさんは、すごく優しい顔で答えてくれた。 「ボク、ごめんね。これじゃ、足りないんだ」 恥ずかしかった。言葉

        • タイムトンネル天国

          タイムトンネルがあったらなぁ。 何度、そんなことを思っただろう。 多分ダメだって薄々気づいてたけど、我慢できなくて告白して、やっぱりダメだった時。 コクらなきゃよかったなって。 受験で最初は正解を書いたのに、時間ギリギリになって、もしかして違うかもって考え直して正解を消して間違いを書いた時。 オレ、つくづくバカだなって。 仕事で上司と意見が食い違って、忖度すればいいのに正論を吐いちゃって窓際に追いやられた時。 言わなきゃよかったなって。 そんな時、タイムトンネ

          めまい

          ふとした拍子に、その少女はめまいを覚えてしまう。 勉強しすぎて疲れた時、テストが終わってホッとした時、そのテストの点数が悪くて母さんにどうやって報告しようか迷っていたら唐突に母さんが部屋に入ってきた時、大好きなあの子に嫌われちゃったんじゃないかって思った時。 頭の中と目の前がぼやけてクラクラ。意識が遠のきかけて、足元がふらついて一瞬だけ倒れそうになるんだけど、でも何とか大丈夫。 そんな体質の自分を、少女は大嫌いだった。 初めてめまいに襲われたその日から、どんな時も元気

          悔しいよ

          一度落ちた学校の入試に、もう一度、挑んだ。 どうしてもその学校に行きたかったわけじゃない。志望校には、もう合格している。 でも、どうしても、その学校に合格したかった。 負けたまま終わるのが、嫌だった。 やっぱりダメだった。 繰り返しになるけれど、行きたかった学校の切符は、もう手にしている。 それが全て。受験は大成功、のはずなのに。 なんか、悔しい。無性に悔しい。 受験に負けた気分だ。もう、その学校を受けることはない。 自分が勝負できる他の何か、見つけなきゃ。

          恋する人魚

          人魚は人に恋するのだろうか、魚に恋するのだろうか。 人魚は海の方が暮らしやすいのだろうか、陸の方が暮らしやすいのだろうか。 人魚は呼吸するのか、しないのか。するのなら、どうやって息を吸って吐くのか。 人魚の瞳には、何がどのように映るのだろうか。 人魚の耳には、どんな音がどのように聞こえるのだろうか。 人魚は匂いや香りを感じることができるのだろうか。 人魚は言葉を話すのだろうか。 何千年も前から、世界中のあちこちで、人類は人魚について思いを巡らせてきた。 だから

          本屋とは

          都心からちょっとだけ離れた郊外の駅ナカで時間をもてあましていた。 何となく、目の前にあった本屋さんに立ち寄った。 目から鱗、だった。 あの作家、こんな新刊を出していたのか。この作家が店員さんのイチ推しなのか。あの人とこの人が対談してるとは。そのタレント、小説なんて書いてたの? 読書は好きな方だ。スマホで文字を追うより、紙に刻まれた活字をじっくりと辿るのが落ち着く。ただ、本屋さんからは足が遠のいていた。あの本が欲しい、と思えばネットで買えばいい。 ワンクリック、ポチッ

          休んでいいよ

          たった一つの目的、目標、夢をめざして走り続けた日々も、いつかは終わる。 夢を成し遂げられた時、最初に心を満たすのは充実感。 その後に襲ってくるのは虚無感、喪失感。 追いかけるべき何かを失ってしまってしまったという、ぽっかり心に開いた穴。 夢を成し遂げられなかった時、ただただ、胸に募るのは悔しさ。 あの時、こうしておけば。あの時、もっと歯を食いしばって頑張れたら。 悔やんでも悔やんでも、心に開いた穴は埋めきれない。 限られた歳月ではあるけれど、その間、全てを注いで

          夏が来た!

          ボクは夏生まれ。 暑い夏は大好きだ。どんなに暑くたって、へっちゃら。暑ければ暑いほどテンションが上がる。 寒い冬は、大っ嫌いだ。 いま、大嫌いな冬のど真ん中。 お気に入りのファッションはTシャツ一枚。だからまず、色々と重ね着しなきゃならないのが面倒なんだ。それに寒いと肩が凝る。なぜか頭痛がひどくなる。余計に疲れる。 でも、いま、南半球は夏なんだよね。地球の反対側は、夏、真っ盛りなんだよね。 行ったこともないリオのビーチを思い浮かべてみる。空気をキラキラと輝かせる日

          さよならバレンタイン

          好きだって気持ち、伝えたい。 でも、恥ずかしい。 もし、ワタシのこと好きじゃなかったらどうしよう。怖い。 いまは普通に冗談を言い合ったり、笑い合ったりできる仲。それがギクシャクしちゃうのは、嫌だ。 でも、好きだって伝えたい。 どうしよう。 悩んだ。悩んだ末、決めた。 チョコ、渡そう。 でも直接は、やっぱり恥ずかしい。誰にも見つからないように、下駄箱に忍ばせるか、机かロッカーに入れるか、それともアイツの家のポストか……。 ワタシの名前は、書かない。 そう決め

          さよならバレンタイン

          わきまえる、わきまえない

          わきまえる。 わきまえたフリをする。 忖度。 諦め。 それって、全部、不戦敗と一緒だよ。 でも、なぜ、みんな、自ら不戦敗を選んじゃうんだろう。 そうした方が、楽だから。 そうした方が、自分が傷つかなくて済むから。 最近、思うんだ。 そうやって日々粛々とやり過ごして波風立てず生きるのと、わきまえないでいろんな人と衝突して何度目かの衝突で電池が切れたり後ろから刺されたりしてぶっ倒れるのと、どっちがいいのかって。 細く長くなのか、太く短くなのかって。 太く長く

          わきまえる、わきまえない

          Lovin' you

          初めてだ。 誰かを好きになるって、こういうことなんだ。 その子とちょっとだけ目が合ったり、「これ」「うん」とか、ちょっとだけ会話できただけで、とにかく嬉しい。 アイツ、オレのこと好きなのかな、少なくとも嫌いじゃないよな、とか、いい方いい方に自分勝手な想像が膨らむ。 その子が他の誰かと話してるのをちょっと見ただけで、何も手につかなくなる。やっぱ、オレ、お呼びじゃないのかなって、意味不明な疑心暗鬼に陥る。 で、結局、不完全燃焼のまま終わる。初恋ってのは。 それで、いい

          話が長い

          話が長いって、どんな話のことを言うんだろう。 入学式に卒業式、冠婚葬祭の挨拶。中身がない定型のそれは、たとえ2、3分で終わったとしても、とっても長く感じる。10分も続こうものなら、じっと耐えるのも、もう限界。体のあちこちがムズムズしてくる感じ。 お世話になった恩師の、血の通った説教。説教といっても、ただ怒られるわけじゃない。時に熱いエールであったり、時に深い問いかけであったり。それなら30分も、あっという間。 気のおけない友達との雑談なら1時間でも2時間でも、やっぱり、

          #短歌 昼ビール

          昼ビール 罪悪感は 薄れゆく 飲んでも働ける オンライン会議ってそんなもん #短歌 #昼ビール #テレワーク #リモートワーク #仕事 #オンライン会議 #ステイホーム 

          #短歌 昼ビール

          季節外れの花火

          ほどよく賑わい、ほどよく自然が残る郊外の街に、年老いた花火師がいた。 彼が三代目。その花火師が夏祭りのクライマックスに打ち上げる何発もの花火は、街の一年で一番のハイライトだ。 二学期が始まるちょっと前、蒸し暑い空気にちょっとだけ涼やかな風が入り交じる夜。家族と、友達と、彼や彼女と、花火を見上げる。 そんな瞬間を積み重ねることで、一年という時の流れ、自らの成長だったり衰えだったりを、街に生きる人たちは記憶に刻んできた。 親から子へと受け継がれてきた、その街の尊いサイクル

          季節外れの花火