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2023年-前提条件の変化とグローバルサプライチェーンへの影響 -Zenport


はじめに

私たちは「前提条件が変わる時代に生きている」という実感が強まったのが2023年だったのではないでしょうか。

2022年に始まったウクライナ侵攻、各国中央銀行での利上げが継続する中で、3月にはSilicon Valley Bank (SVB)やクレディ・スイスの破綻が起き、6月にワグネルの乱、10月にイスラエル・ハマス紛争が起きました。

落ち着きを見せ始めていたサプライチェーンでも、秋以降のパナマ運河の運航制限に続き、スエズ運河もフーシの船舶攻撃により不安定化しており、世界最大級の2運河が同時に航行制限を受ける事態になっています。

さらに中東情勢でゆらぐ米国次期大統領選の行方は世界の分断を加速させる要因になりかねません。

これらは様々な長期的な要因が原因で前提条件が更新され、リスクが顕在化してきた例ではないでしょうか。

世界で起きた変化の波

パナマ運河の渇水:気候変動

今年のパナマ運河は143年の歴史で最悪の渇水(IMF News - Port Watchon 27 Dec, 2023)を迎え、その影響で航行制限を実施しています。現在パナマ政府は運河の水不足を改善するため、流域住民に井戸を掘らせて地下水を利用させ、地表の水を運河に流しているようです(Calvin Froedge on Twitter ‐ The Panama Canal Crisis is so bad)。素人目には運河は海と海を繋いでいるのだから海水を使えばよいのではと思うのですが、運河に海水を使うと流域の土壌が塩化してしまうそうです。

運航制限は2月までとされていますが、ただ2020年にも73年ぶりの干ばつが起きるなどそもそも降雨量は減少しているという情報もあります(BBC - Panama Canal grapples with climate change threat, 日本海事新聞 - パナマ運河、「過去100年で最悪の干ばつ」。コンテナ船など船腹タイトに)。したがいこの措置は、地域の淡水を使い尽くし、水体系を破壊してしまう不可逆的な打ち手になる危険もありそうです。

温暖化により海面は上昇しているのに、世界最大級の運河が水不足で運行ができないことは大きな皮肉です。個人的には世界的に重要なチョークポイントがかくも繊細なものであることに驚きを隠せません。しかしこれはパナマ運河がぜい弱であったということよりむしろ、気候変動という長期的な要因によって前提条件が更新されたことが原因と考えるべきです。(Financial Times - Global trade shudders over blockages in the Suez and Panama canals)

スエズ運河近辺の危機:地政学的変化

パナマ運河とは対照的に、スエズ運河・紅海危機は地政学的な前提条件が変化したものです。

イスラエルとサウジアラビアの国交正常化という歴史的なイベント(The Economist-America, Israel and Saudi are “at the cusp of a deal)(これが起きれば違う意味で前提条件の変更でしたが)が起きようとする瞬間に、それに対する反作用としてハマスが起こした武力行使が、イスラエルの極端な反応の端緒となり、対立すらしていたアラブ諸国・諸勢力を宗派を超えてまとめることになりました。

これがフーシによる紅海での船舶攻撃の一因となっています。友好化に向かう安定から一転し、長年のパレスチナに関連する対立構造が再び強化され、紅海が不安定化(The Economist-The year everything (and nothing) changed in the Middle East)したことは、前提条件の変更であるといえます。

国際世論の経時的変化と米大統領選への潜在的影響

さらに世界的な世論も変化しています。西欧諸国で親パレスチナの世論が高まる一方で、イスラエルの最大の支援者である米国内ですら、イスラエルはナチスによる被害者であるユダヤ人の国家ではなく、パレスチナで武力行使を行ってきた占拠者という認識が強まっているといいます(The Washington Post-Young Americans are more pro-Palestinian than their elders. Why?)。

イスラエルが過激な行動を取り続けている問題はあるものの、そもそもイスラエルへの強力な支援が次期大統領選でバイデン政権を窮地に追い込みかねません。(The Economist-The year everything (and nothing) changed in the Middle East) 2024年11月に行われる次期大統領選で敗北することがあればグロバールサプライチェーンのブロック化を加速しかねず、前提条件が変化している一例と捉えられるでしょう。

予測しきれない未来と連携の果たす役割

条件が重なると予測ができない

こうして見ると、世界はストレステストにかけられているかのようです。

途上国で爆発する人口、これまでになく多くの国が経験する経済成長、それに伴う世界の多元化、先進国で加速する高齢化、一段ギアが上がった気温上昇、一部地域で続くケタ外れのインフレ、文字通り加速度的な進化を遂げる人工知能、そして世界各地で暴発する敵意とその連鎖の数々、こうした現状がこれまでの前提条件を崩し、その連鎖と相まってこれまで以上に予期せぬ事態を顕在化する可能性があります。

もちろん予測可能な前提条件の変化はあるでしょうし、その予測の努力を怠るべきではありません。しかし複数の相関・因果関係のない前提条件の更新が重なり、くわえて連鎖作用が発生したときに立ち現れる現実の中には、予測を超えてしまうものもあるのではないでしょうか。

例えば、今年起きたパナマ運河とスエズ運河の事象の間には相関関係や因果関係はありませんが、同時発生することでグローバルサプライチェーンに大きな影響を与えています。

こうしたストレステスト下で前提条件が更新されてゆく世界では、極端な話、「予測という行為」は無力化してしまい、最終的には状況の把握と実践しか実効性を持ちません。

可視化と調整に立ち戻る

より単純で身近な例で言えば、在庫切れを起こす瞬間(生産の遅れと天候による輸送の遅れ、突然の大量注文などが重なると起きますよね)には、過去データから算出した需要予測や在庫切れ発生確率などの数値は意味を失い、在庫を探し出し物理的に補充するという実践的な行動しか意味を持ちません。こうした可視化と実践が重要となっていることも前提条件の変更の一例と言えるのではないでしょうか。

データ連携の時代

とはいえ、幸運にも我々は技術の進歩と普及により、異なる側面で前提条件を更新してきました。我々は以前に比べはるかに多くの情報を繋ぐことができるようになっています。

AWSやGCPによるデータ基盤の民主化や、センサー価格の大きな低下、OCRのような画像認識によるデータの正規化技術の普及などと相まってデータ化し連携する能力は大きく向上しています。

またサプライチェーンに関連するところでは、Project44のようなビジビリティサービスの発展を見ても、状況を把握し共有する能力は各段に上がっています。また、基幹システムでのコンポーザブルERPへの動きや、サプライチェーンプランニングソリューションといった連携を前提としたシステムの台頭は、こうしたトレンドを端的に表すものと考えてよいと思います。

これらをテコに実践的な能力を高めることが可能です。データ連携と可視化、それらを基にした実践・オペレーションが、前提条件が更新されていく世界に対する対抗手段になっていくと思われます。

2024年に向けて

したがい、こうした前提条件の更新が継続する中で、我々はこの現実を受け止め、これに対抗する具体的な手段をますます研ぎ澄ましてゆくのが2024年なのではないかと思います。

Zenportの紹介

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