父が源氏パイを食べるために使った高等テクニック
私の父は糖尿病です。
糖尿病なのにお菓子の爆食いをやめようとしません。
一体どうしたらいいのだろうかと、私は頭を悩ませています。
家にお菓子があるといくらでも食べてしまうので、お菓子を買ったらヘルパーさんに預かってもらって、訪問介護のときにその日の分だけ持ってきてもらうようにしています。
1日にもらえるお菓子は少しだけなので、父は物足りなく思っているようです。
ことあるごとにケアマネさんやヘルパーさんに「もうちょっともらえない?」と、お菓子の量を増やしてもらえるよう交渉しています。
お菓子を好きなだけ食べたいという父の気持ちは分かるのですが、医者からも絶対にやめるように言われており、父の体のことを思って私も心を鬼にしてなんとか止めています。
ある日いつものように実家に行くと、ケアマネさんが訪問してくれていました。
でも、ちょっといつもと雰囲気が違います。
なんだかピリピリした空気でした。
父とケアマネさんが、お菓子を食べる時間について議論していたのです。
時刻は午後1時過ぎ。
昼食を食べてからまだそんなにたっていない時間帯でした。
しかし、すでにお腹が空いていた父はケアマネさんに
「腹が減ったから源氏パイを食べたい。おれが買ったものなんだから食べてもいいだろう」と言いました。
それに対しケアマネさんは
「おやつは3時って決めましたよね?まだお昼ご飯を食べたばかりだし、もう少し我慢しましょうよ」と応えます。
どうしてもお菓子が食べたい父は、
「そんなこと言わずに、源氏パイくれよ~」と懇願します。
ケアマネさんは譲りません。
「こんなに早くおやつを食べたら、夕飯までもちませんよ。3時まで待ってから食べた方がいいですって」
父はようやくあきらめたようで、「・・・そうか。わかった」と応えました。
安心したケアマネさんは「分かってもらえてよかったです。じゃあ私はそろそろ行きますね。源氏パイはここに置いていきますから、3時になったら食べてくださいね」と言って、お菓子を机に置きました。
その時です。
父が目にも止まらぬ速さで机の上の源氏パイをつかみ、手早く封を切って源氏パイを口に入れたのです。
「えっ・・・!」
ケアマネさんと私は言葉を失いました。
父はケアマネさんの言葉を理解したように見せかけ、ほっとしたケアマネさんの一瞬の隙をついて、源氏パイを食べたのです。
父がそんな高等テクニックを使ってくるとは、ケアマネさんも私も、思いもよりませんでした。
食べてしまったものはもうどうしようもないので、ケアマネさんはため息をついて、
「お父さんは今日はもうおやつなしですからね。お母さんは3時になったら食べてくださいね」と言い残し、母の分の源氏パイを置いて帰っていきました。
3時になると、母はケアマネさんが置いていってくれた自分の分の源氏パイをおいしそうに食べました。
すでに自分の源氏パイを食べてしまった父は食べることができず、「いいなあ、母さんは・・・」とうらやましそうに母が源氏パイを食べる姿を見ていました。
父の食欲との戦いは、まだまだ続きそうです。
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